第二章 5話 それぞれの思い
ジャックの演説から一夜明けた翌日。
オーウェンは大混雑する宇宙港に借り出されていた。
宇宙港ではこの星から非難する市民を乗せるシャトルと、ジャックの呼び掛けに応えたハンターギルド所属のハンターの宇宙船などでごった返していた。
「市民の皆さんはこちらのゲートへ! 慌てないでも十分に宇宙船はあります!」
オーウェンは拡声装置を持って市民を誘導する。昨日のジャックの演説後、この星の政府から公式に機械生命体軍団の襲来予想が発表された。
軍とトリプルSハンターであるジャックの共同発表だったため、市民は比較的パニックを起さずにその事実を受け入れた。
当然、市民も故郷であるこの惑星に留まるもの、避難の為に故郷を離れる者に別れ、宇宙港は避難を選択した市民で溢れかえっていた。
「オーウェン!」
聞きなれた声に呼ばれたオーウェンは、声の主へと顔を向ける。そこには予想通りサラの姿があった。昨日の公開告白の後に二人はめでたく全軍公認の恋人同士になった。
(なんか、照れくさいよな)
オーウェンと目が合ったサラも同様なのか、頬を赤く染めて視線を逸らしたが、彼に用事を告げなければならない事を思い出したのか、深呼吸するとオーウェンに向き直る。
「ここは、私が受け持つからオーウェンは作戦本部に出頭して欲しいんだって」
「でも、サラの体調は大丈夫なのか?」
「セフィリアさんの治癒能力のお陰で、もう大丈夫よ!」
「そうか、良かったな」
「あ……ありがとう」
「おう、どういたしまして?」
再びお互いに視線を外しながらも何とか会話の成立とサラの体調回復に安堵のため息をつくオーウェンに視線に、数人の武装集団の姿が目に入る。もちろん、それはジャックの呼び掛けに応じたハンター達の姿だった。
「凄いよなぁ。ジャックさんの一声であんな有名ハンターがこの星に……」
「そうよねぇ。あの人も、セフィリアさんも、偉ぶってないから、ちっとも凄い有名人には見えないのよね」
オーウェンの視線の先をサラも追いかけてハンターの姿を捉える。隣に並ぶサラを少し横目で確認してオーウェンも頷く。
「まぁ、あの二人のお陰で私達も、新しい関係になれたわけだしさ」
オーウェンの視線に気付いたのか、サラも赤面しつつ彼を見上げる。
「そ……そうだな」
その視線を受けてオーウェンも気恥ずかしげに頷く。そのまましばらく二人は無言でその場に立ち尽くしていた。
「あらあらあら、初々しいわねぇ~お二人さん」
そんな二人の背後から独特な雰囲気の声が聞こえてくる。その声に二人は慌てて距離をとった。
「あら、ごめんなさい。お二人の邪魔しちゃったかしら?」
「もう! セフィリアさん、顔、凄く嬉しいそうですよ!」
「だって、嬉しいんだもん、仕方ないわよね?」
二人に話しかけてきた人物は、ジャックのハンターチームの癒し手であるセフィリアだった。
彼女自身もハンターライセンスを有する高ランクハンターである。、その治癒能力はサラ自身が経験して疑いはない。
だが、オーウェンもサラもセフィリアの戦う姿がどうしても想像できないでいた。
(ハンターライセンス所有試験には、戦闘技能も試験対象だったよなぁ)
「セ……セフィリアさん!」
オーウェンがハンター試験に思考を巡らそうとしていると、先程のハンターの一団から声がかけられる。そのハンター集団に気がついたセフィリアは、いつもの調子でハンター達に声をかけていた。
「やっぱり、凄い人なんだね」
「うん、そうだな……」
「それより、オーウェン。早く行きなさいよね!」
「サラも無理するなよ!」
やっといつもの会話の調子に戻った二人は頷きあうと、それぞれの持ち場に向かって走り出した。そんな二人をハンターの輪に囲まれながらセフィリアは穏やかな笑顔で見送る。
(どうか……あの二人に幸せな未来が訪れるように……)
セフィリアはこれから始める激戦で多くの命が失われる事が理解出来ていたが、それでも若い二人の未来に幸せが訪れるよう願わずにはいられなかった。
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