第三章 4話 宇宙艦隊戦 ③
「敵、小型戦闘タイプが近付いて来ます!」
リルが再びレーダーの機影を発見して報告する。すぐにその機影の数は数十に上がる。今、ラウルスは浮いているだけの絶好の的だった。
「新たな機影多数! 識別コード……味方です! 直上!」
リムの歓喜の声と通信チャンネルから響く若者の声が重なる。
「全機突撃! 戦艦ラウルスを死守せよ!」
「オーウェンか!」
その声にジャックは若者の名を叫ぶ。
オーウェンの駆る戦闘機はラウルスに迫る敵戦闘機集団の先頭機に照準を合わせると、彼はトリガーが引く。光線は先頭機に吸い込まれ、しばしの沈黙の後に爆発する。彼に従う数機の戦闘機も同じように敵機の破壊に成功していた。
攻撃を終えるとオーウェン達はそのまま敵目前を急降下し、ラウルスの船体下部に潜り込むように飛行し、半円を描いて上昇すると左舷甲板から敵部隊正面へ突撃を敢行する。オーウェンの戦闘機コックピット内に敵捕捉のロックオンが響く。
「まだだ! まだ!」
オーウェンの目の前では、無数の敵をロックオンする赤い円が次々と表示される。
敵からの攻撃を左右に回避しつつ、さらにその数を増やしていく。最大ロック数を告げる機械音が鳴り響くと同時に――
「くらえ!」
彼は短く声を発すると、多弾頭ミサイルのスイッチを押した。彼の戦闘機から無数の小型ミサイルが飛び出し、その全てが敵機に向かって飛来する。逃げ惑う敵機を無常にも追尾するミサイルは全弾命中し、夜空に咲く花火のように光を放つ。
直上からの奇襲と、船体を利用した奇襲に敵部隊は成す術もなく殲滅された。
「ふぅ~」
オーウェンは一息つくと僚機を確認する。襲撃前と数は変わらず全員健在だった。その事実にほっと胸を撫で下ろした瞬間に、警報音が鳴り響く。
「なにぃ!」
オーウェンの率いる戦闘機隊の前に、突如として大型戦闘タイプが現れた。
「各機! 回避!」
オーウェンは緊急回避行動を取る。
「うおおおおおおおおおおおお」
大型戦闘タイプの壁面ギリギリを何とか衝突せずに乗り切ったオーウェンだが、回避行動が間に合わずに2機の戦闘機が衝突し爆散した。
「くそっ!」
オーウェンは体制を立て直すべく、すぐに編隊を組み直すが彼の視線には敵砲塔から輝くビームが集中している光景が写った。
(サラ……すまない)
涙を流し悲しむ幼馴染であり、最愛の女性の顔が脳裏を過ぎる。死を感じた瞬間に大型戦闘タイプの船体を貫く一筋の光が見えた。
直後、大型戦闘タイプは沈黙。砲塔の光も消え失せオーウェン達がその場から離脱した直後に大爆発を起した。
「これで、貸し借りなしだなぁオーウェン」
通信チャンネルから力強く頼もしい声が聞こえる。
「せっかく、借りを返せたと思ったのに、これでまた借りができました。ありがとうございますジャックさん!」
「お互いさまって事ださ」
オーウェン達を救ったのはジャックのラウルスの主砲から放たれた一撃だった。ラウルスはオーウェン達の戦いの間に出力回復に成功していた。
「弾薬が切れてる頃だろ?今のうちにこっちに着艦しろ」
「了解です!」
「後部収納デッキ隔壁開け!」
「隔壁開きます。オーウェンさん、助かりましたですよぉ~」
「こちらこそ、リルちゃん」
「ガイドビーコン展開しました。いつでも着艦できます!」
「オーウェン隊、着艦します!」
「微速前進! オーウェン達の着艦を援護しつつ、周辺の敵を掃討するぞ!」
「了解!」
再び移動を開始したラウルスは、オーウェン隊の回収を終えると再び最大船速で敵中央を目指して進軍を開始した。
ラウルスの格納庫に着艦したオーウェンは、戦闘機のコックピットを開ける。
「オーウェン!」
すると聞き慣れた女性の声がした。声の聞こえた方向へ顔を向けるといきなり何かに抱き付かれた。
「サ……サラ!ちょっと、苦しいって……」
「オーウェンのバカ!」
「バカは酷いなって、いつも言われてるけどな」
オーウェンに抱き付いて来たのはサラだった。格納庫内は無重力だったので彼女はコックピットのオーウェンにダイブしてきていた。
「心配……したんだからね?」
「分かってるよ……」
サラは涙声で話していたので、彼女が心配しているのは最初から分かっていた。再び彼女に逢えた嬉しさに、しばらくお互いを抱き締めあっていたが……。
「いいわねぇ~若いって!」
もちろん聞き慣れたその声に二人は同時に視線を向ける。そこには二人の予想通り満面の笑みを浮かべたセフィリアの姿があった。
「セフィリアさんだって、若いでしょ?」
「ふふふ~サラちゃん?」
「セフィリアさん、笑顔が怖いよ~」
冗談を言い合うセフィリアとサラに、オーウェンは数日前にサラに実際にセフィリアに年齢を聞いたのか尋ねた事を思い出していた。その時のセフィリアの返答は。
「女には十の秘密があるって昔の人は言ったわ~その方が魅力あるのよ?」
そんな場違いな事を思い出していたオーウェンの側を離れたサラが、ゆっくりとセフィリアの隣に降り立つ。
「ごめんね~そろそろ例の準備を始めるから、二人とも付いて来て!」
「はい!」
オーウェンは一度、サラ達と廊下で別れると格納庫側に備わっていたシャワー室で素早く汗を流す。パイロットスーツから地上戦闘服へと着替え、すぐにサラとセフィリアの待つラウルスの武器庫へ案内された。武器庫のドアが開閉した瞬間、オーウェンの目に飛び込んで来た物に、彼は言葉を失った。
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