第三章 5話 装備一式
「これが……」
そんなオーウェンの姿を可笑しそうにセフィリアとサラが向かえる。サラはすでに先程とは違う姿になっていた。
「どう?オーウェン。似合うでしょ?」
サラは自らの姿を見せるべく、オーウェンの前でクルっと回転し、ポーズを取る。
「ああ、凄い似合ってるよ」
「なんじゃ?このバカップルは!」
「オヤジさん、妬かないの」
セフィリアに諭されている男性にオーウェンは「すみません」と頭を下げる。それに続いてサラも頭を下げるが、「サラちゃんはええんじゃ!」とニッコリと笑う。
(理不尽だ)
オーウェンは内心で苦笑する。しかし、再び目の前にものに心を奪われる。
「これが、クィーンの素材で創った?」
「ああ、そうじゃ!お前達にくれてやるクィーン装備一式じゃ」
そこには黒光りする美しい一式の全身鎧が置いてあり、サラがすでに着ている鎧一式と対になっているオーウェン専用の武具だった。
「ハンターのみなさんは、こんな風に武具製作を?」
「もちろん、わしのような武具鍛冶師の手によるがのぉ」
そう応えた男性はトゥールと言う武具鍛冶師で、本名ではないらしいが昔の神話に登場する鍛冶の神に称えられ程の名工であり、誰かがそう呼び始め本人も気に入ったとのことでそのまま使用している。
「ほれ、さっそく着てみろ!」
そう言ってトゥールは何かをオーウェンに投げてきた。彼は慌ててそれを掴む。
「これは?」
「腕につけてみろ」
「はい」
トゥールの言う通りに腕時計のような装置を腕に装着する。
「識別……。オーウェン少尉本人であると確認」
腕にはめて装着すると淡い光を放ち機械音声が発せられた。
「それで、もうこの武具はお前さんしか使えん」
「えっ?」
「だから、これはお前にしか使えないって言った」
「こ……こんな凄い装備なのにですか?」
オーウェンが驚くのも無理は無かった。
ハンター達が破壊・捕獲などで手に入れた敵の残骸などを利用した武具製作技術は、対機械生命体専用に開発された技術と言ってもいい鍛冶技術だ。
クィーンクラスの素材とものなると、高額な値段でと引き去れる。その金額目当てにハンターになる者も少なくない。
「キングとの戦いにお前さんたちの協力が必要なんだそうだ」
驚くオーウェンに、鍛冶師トゥールは「ふん」と鼻息を鳴らす。
「お前。シバルバーの紅眼が見えたそうじゃな?」
「え? ええ、はい。見えました」
「そうか……」
トゥールは顎鬚を撫でながら考え込むと、セフィリアに視線を送る。トゥールの視線を感じたセフィリアは穏やかな笑顔を浮かべると静かに頷く。
「なぁ、若造」
「は……はい」
(わ……若造になった)
オーウェンは内心で驚きながらも返事をする。
「わしら鍛冶師の技術の歴史は浅い。せいぜいここ十年ってところがいいところだ。じゃが、その技術の根底となるものは、人間が石を利用して狩りを始めた遥か昔から始まっておる……とわしは思う」
トゥールの言う時代とは、有史以来人間のみが得た道具を作り使用する狩猟時代からの受け継がれる遺伝子に刻まれた記憶の事をだとオーウェンは思った。
「わしらが何か産み出す時、そこには「想い」を込める。使用者の安全でも、使用者の長いだの……それは、鍛冶打つ時のハンマー一振り一振りに込めてな……」
「魂を込める……と言う事ですか?」
「そうじゃな……。そう言っても過言ではあるまい」
オーウェンの言葉にトゥールは深く頷く。
「遥か昔から武器防具には魂が宿るという。それは正義を貫けば「聖剣」「神刀」と呼ばれ、悪を貫けば「魔剣」「妖刀」と呼ばれる……」
いつしかサラもセフィリアもオーウェン動揺にトゥールの言葉に静かに聞き入る。
「お前、疑問に思った事はないか?」
トゥールは静かにオーウェンに問いかける。しかし、その言葉だけでは彼の質問の真意は理解できない。沈黙を続けるオーウェンにトゥールが口を開く。
「機械生命体は誰が創造し、どんな想いが込められているのか?」
「…………」
トゥールの言葉にオーウェンは衝撃を受ける。
「最初から人類……。いや、世界の破壊が目的なのか? そもそも、人類とのファーストコンタクトで戦いを仕掛けて来たのは本当に奴らなのか?」
トゥールの言葉にオーウェンは衝撃を受ける。彼ら機械生命体とのファーストコンタクトから人類に対して攻撃を仕掛けてきたのは機械生命体だと教わってきた。
機械生命体の破壊の目的も理由も判明していない。だが、彼らは最初から問答無用で襲いかかって来たとオーウェンは教わった。
「機械生命体が……。攻撃してきたのでは……ない……と?」
口の中が乾きうまく言葉を発する事が出来ないオーウェンに、トゥールは苦笑を浮かべると静かに首を振る。
「それはわしにも分からん……。じゃが、わしが初めて機械生命体に出会ったのは。それこそ残骸だったが、その残骸にですら機械生命体に対する興味は尽きんかった……」
記憶の糸を辿るように彼は話を続ける。
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