第三章 3話 宇宙艦隊戦 ②
リルの消え入りそうな声で告げた事実に、ジャックも驚きの表情を浮かべる。彼は再び敵の旗艦を睨みつける。
「まぁ、変わりはいくらでもいるって事だろうけどなぁ……」
『ジャック』
「ああ、分かってる。ここで退くわけにもいかないしな!」
ジャックは再び船首を敵中心へと向ける。敵旗艦は不気味に沈黙を守っている。
「艦隊は散会しつつ、敵陣に突入!」
「ジャック!」
通信チャンネルから悲鳴が上がる。だが、ジャックは笑みを浮かべて応える。
「どうぜ、敵は敵味方関係なくさっきの砲撃を撃ってるくるんだ……」
「だろうな」
「こうなったら、運任せでいくしかないだろ?」
ジャックの言葉を聞いた連合艦隊の艦長、ハンター達は彼の言葉に驚き戸惑う。
「うはははははっ! ジャック! 間違いねぇな!」
通信チャンネルに突然大笑い声が木霊する。ジャックはその声だけで誰が笑い声を上げたのか理解出来た。古参のハンターの一人だった。
「こう見えてわしは、トランプ勝負では負けがない」
古参ハンターの声に続いて愉快そうに告げるトレイダー提督の声が聞こえた。モニターに写る二人の顔には笑みが浮かぶ。
(さすがの二人だな……)
ジャックも笑みを浮かべると、通信チャンネルからは次々と歓声が上がる。
「全艦!敵を蹴散らし敵旗艦へ向けて最大船速で突っ込め!」
「ファントム・ジャックに勝てるかもしれねぇーレースだ! みんな、命を惜しむなよ!派手に暴れてキングのケツを蹴り上げてやろうぜ!」
「ハンターに遅れを取っては軍人の恥! 各々の判断で最善を尽くし、武人らしく一番槍の手柄を示してみせよ!」
古参ハンターと提督の声が部下や仲間を鼓舞し、その言葉に味方の士気は一気に上がる。
『やれやれだな……』
シバルバーのため息交じりの声が船内に響く。
「まったく、あいつらどうかしてるぜ」
「自分の事を棚に上げてよく言うわよねぇ」
ジャックの傍らにはいつのまにかセフィリアが立っていた。彼女に視線を移すとセフィリアは楽しそうに笑顔を浮かべていた。
「さぁさぁ、ジャック! わたし、こう見えて負けず嫌いなのよ?」
「ああ、知ってるさ……。さぁ、みんな俺たちもいくぜ!」
ジャックの掛け声にラウルスの乗組員も歓声を上げる。
「光子魚雷装填!主砲斉射3連!火力を前面に集中しろ!」
「了解!」
ラウルスの3門ある主砲が再び轟音と共に撃ち放たれる。主砲の攻撃は狙い違わず敵戦艦クラスのドラゴンフライに命中し、続け様に放たれた攻撃で3体の敵が爆発四散する。
「魚雷発射!」
艦首左右の魚雷発射菅が開くと、左右それぞれ3本の大型魚雷が発射される。
合計6本の光子魚雷は敵密集地帯へと吸い込まれ、爆音と共に大爆発を起した。その爆発に巻き込まれた敵のさらなる誘爆により密集地帯の敵は一掃される。その爆煙を打ち消すようにラウルスは前進する。しかし、すぐに別の敵船団が現れる。
「ミサイル全砲門発射!」
「ミサイル発射します!」
ラウルスの船体からミサイル発射菅が飛び出し、或いは船体の横腹からもシャッターが開くとミサイル発射口が出現する。
それらから無数のミサイルが飛び出す。ミサイルは前方、側面の敵へ容赦なく襲い掛かる。ラウルスの周囲で激しい爆発が巻き起こった直後、今度はラウルスの船体が大きく揺れる。
「状況報告!」
「右舷、被弾! 防御シールド出力低下!」
「ブリッジ!」
「どうした? 機関長!」
「当たり所が悪かった!エンジン出力が低下してる! 防御シールドにエネルギーを回して間に安定させる! 3分……2分でいい!攻撃するな!」
「むちゃ言う!」
機関長の言葉にジャックは苦笑を浮かべる。だが、機関長の意見は無視できるもではない。ジャックは目の前の敵戦艦クラスから放たれたビームを回避する。
「2分持たせるぞ!」
無数のビーム光線を全て避ける事は不可能だが、今のところ防御シールドを通過して船体に直接的被害はない。
だが、それも長くは持たない。大型戦艦の攻撃を重点的に回避しつつ進むラウルスは、ジャックの操舵で驚異的な推進に繋がっていた。
「高エネルギー反応! 来ます!」
再びリルの悲痛の叫びがブリッジに響く。
「全てのエネルギーが前面防御シールドに注ぎ込め!」
「それでは、他のシールドが消滅します!」
「やれぇええええ!」
「了解!」
ジャックの指示と閃光が煌いたのは同時だった。ラウルスは回避行動を取りつつも迫り来る閃光の直撃を受けていたが、防御シールドでかすかに軌道がそれ、ジャックの回避行動によりラウルスの船体をかすめると後方へと流れていった。
しかし、ラウルスの船体には赤い筋が刻まれる。それは、高熱で溶けた船体外部であり、直後のその筋の添って爆発が起こり、船体が激しく揺れる。
「きゃああああああ」
「セフィリア!」
ジャックは右手で操舵輪を持ちつつ、衝撃で飛ばされるセフィリアを掴む。間一髪で彼女の手を捉える事ができた。大きな衝撃は去り、船内の明かりが消え非常電源に切り替わったが、すぐに通常に切り替わる。
「大丈夫……か?」
「ええ、ありがとうジャック」
ジャックの問い掛けに、セフィリアは笑顔を返す。ジャックも彼女に頷き返すと後ろの船長席へ座るように促す。セフィリアはすぐに従った。
「状況は!」
「
「右舷隔壁閉鎖! 医療チームは負傷者の救護へ向かえ!」
「わたしも行きます!」
船長席へ座る直前に、セフィリアはジャックに声をかけると彼の返事も待たずに駆け出していた。その儚くも頼もしい背中を見送るとジャックは正面を向く。
「やってくれるぜ……あの野郎」
『また、周囲の味方も巻き込むとはな……』
「どう思う?」
『人間ならば非道だろうが、そこが彼等との違いであろう……。恐らく……』
「味方を巻き込む事に何も感じない……か」
ジャックはメインスクリーンに遠映された敵旗艦を見つめる。
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