第三章  2話  宇宙艦隊戦  ①

 ジャックの掛け声に様々な声が続く。


「防御シールドを前面に展開!」


 ジャックの声にラウルスの艦橋は慌しくなる。


「防御シールド展開完了!」


「敵、機械生命軍団。目的の宙域に到達!直進して来ます!」


「全砲門開け! 目標! 敵、大型戦闘タイプ!ドラゴンフライ!」


「全砲門開きます! 目標、敵、大型戦闘タイプ!ドラゴンフライ!」


 ラウルスの船体看板に設置された大型の主砲三門がそれぞれ目的を照準に捕らえる。

 戦艦ラウルスはまだ船と呼ばれる艦艇が、洋上のみで活躍していた頃の軍艦を模して建造されていた。


『ジャック! 今すぐ火気管制かきかんせいシステムを私に回せ! それから、味方の船団にも照準は私の送るデータに合わせるよう通達してくれ!』


 突如、シバルバーの声が艦橋に響く。


「リル! 艦隊に通達!」


「了解です!」


 ジャックは素早くリルに伝達を送らせる。その間にも敵との距離は縮まる。


「敵主砲の射程に入ります!」


『まだだ!』


 ジャックは勢いよく船長席から立ち上がると、そのまま目の前の設置された、遥か大航海時代の帆船で使用していた舵輪だりんを握り締める。


「マスターが舵をとるみたいだよ~」


 リルがどこか楽しそうな声で乗組員に通達する。ラウルスは船体速度を加速すると接近する敵に向って一直線に突き進む。


「敵、発砲!」


 リルの声と同時に敵戦闘軍団から無数のレーザービームがジャック達混合船団に飛来する。

 しかし、それは各艦艇の防御シールドに阻まれる。


「防御シールド出力80%にダウン!」


『まだだ!』


 シバルバーの声が発せられたのと同時に、ラウルスの直前で敵軍団は急上昇を開始した。その一連の動きをシバルバーは読んでいた。


『ジャック!』


「おう!」


 シバルバーの声にジャックが応じるとラウルスは船首を上げる。事前に全艦隊に通達していたため、他の艦もラウルスに続く。


『撃て!』


「主砲一斉正射!」


 凄まじい轟音と、眩い光がほとばしる。連合艦隊から伸びる無数のレーザーは、急上昇した敵の背後から襲い掛かり、彼らを飲み込むと爆音と共に敵を破壊する。

 背後から襲いかかる光線から逃れようと加速する機会生命体の行く手に、さらに無数の光が出現する。それは、連合艦隊の艦載機だった。


「うおおおおお!」


 オーウェンは戦闘機の中で雄叫びを上げる。戦闘機編隊の前に現れた敵に照準をあわせると、ロックオン完了の警報が鳴り響く。


「全機、撃て!」


 オーウェンの掛け声と共に彼の所属する戦闘機部隊から一斉にミサイルが飛び出し、味方艦艇の攻撃から逃れてきた敵を捕らえる。

 直上の戦闘機部隊の奇襲攻撃の成功を確認したジャックは、笑みを浮かべると視線を敵艦隊中心部に居座る艦艇に向ける。その超大型艦艇に彼の目差す敵がいる。


「初手はシバルバーの勝ちだが、どう出る?キング」


 ジャックは見えるはずの無い相手が見えているかのように話しかけると、巧みに操舵輪を操り敵の中心部を切り裂く様に進む。


「敵、ドラゴンフライ級5体! クィーン級変形体3体接近!」


「クィーンクラスか……」


 敵軍団の姿がメインスクリーン表示される。ラウルスとの距離を縮める。


「ダミー射出!」


「ダミー射出します!」


 ジャックの命令で艦首から数発の弾丸が発射され、ラウルスと敵の中間で破裂する。破裂後に凄まじい勢いで戦艦に模した風船が膨らむ。たちまち4隻の偽造艦が出現した。

 しかし、敵はその偽装に気がつかない様子なのか、偽装自体が関係ないとでもいうように、全てのダミー艦をレーザーで焼き尽くす。直後、ダミー艦の破裂した内部から光の粒子が飛び出す。煌くその光を裂くように敵は前進を続ける。


「かかった! 主砲!」


『前方、ドラゴンフライ級2体、クィーン級1対に照準セット済だ』


「さすがシバルバーいい仕事するぜ!」


 ジャックはシバルバーの言葉に頷くと、敵との距離を測る。


「今だ! 撃て!」


 ラウルスから放たれた主砲のレーザーは前進してくる敵軍団の先陣に直撃する。直撃を受けた敵が爆発した瞬間。先程の光の粒子にも引火し大爆発を起こした。その爆発は敵の後陣の敵をも飲み込み一瞬の眩い光を放つと、宇宙の暗闇に消えた。


「さらに後方よりクィーン3体!」


「全員! 急降下に備えろ!」


 リムの報告を聞くとジャックはすぐに返事を返し大声で叫ぶ。艦橋のクルーは急降下に備えるため体勢を整えた。彼は船体の下降ブーストを全開にする。

 戦艦ラウルスは急降下を開始する。その直後、ラウルスの背後から一隻の軍艦が現れる。ラウルスの急降下にあわせて降下体勢に入っていた敵には、突然現れた軍艦に背中を向けた格好になる。


「絶好の的だ! 撃ちもらすなよ!」


 老提督の声が響き渡り。彼の旗艦から主砲のレーザーが迸る。回避行動すらとれずに敵は攻撃を受けて四散した。ラウルスが囮になり、直後の旗艦での攻撃という連携技は見事に成功した。


「さすが提督!」


「いやいや、老人にはなをもたせるとはな」


 ジャックの笑みに、トレイダー提督も笑みを浮かべる。二人の離れ業とも呼べる連携が成功し、お互いの艦内では歓声が上がった。二人は頷き合うと再びそれぞれの敵を探しに別々の方向へと進路とった。


「高エネルギー反応! 来ます!」


 突然リルの悲痛の声が響くと同時に、敵中央に鎮座する超大型戦艦から凄まじい巨大な光が発射された。その光は味方である機械生命体をも飲み込みラウルスへ迫る。


「取り舵いっぱい!」


 ジャックはすぐさま回避行動に移る。巨大な光は斜線上の味方を蒸発させ尚もラウルスに迫っていたが、紙一重で回避に成功する。

 しかし、後方か大きな爆発光が煌く。


「戦艦ガロン!」


 リルはそこで言葉を止めると、青ざめた表情をジャックに向ける。


「消滅しました……」

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