第三章  開戦

第三章  1話  狩猟開始

「全艦! 最大船速! 第一種戦闘態勢のまま、現コース維持!」


 艦橋に響く声をオペレーターが復唱し、通信装置で編隊を組む軍とハンター連合艦隊に伝達される。


 宇宙戦艦「月桂樹ラウルス」の艦橋に設置してある船長席にジャックの姿があった。彼は目を閉じ静かに瞑想めいそうしていた。その傍らにはセフィリアの姿が見える。


「予想より早かったわねぇ」


 頬に手を当て困り顔でのんびりとセフィリアが話しかける。


『それだけ奴らも本気……と言うことだろう』 


 セフィリアの問いかけに答えたのはジャックではなく、シバルバーだった。

 しかし、瞑想を続けるジャックの仮面は紅い光は発していない。シバルバーの音声は艦内のどこからか聞こえてくる不思議な感覚だった。


「シバさんの予想より二日も早いなんで、今まで無かったでしょ?」


『私の認識が甘かったようだ……すまぬ』


「いえいえ、シバさんを攻めているんじゃないのよ?」


 セフィリアはそう答えると、視線をジャックの顔に向けた。その視線を感じたの彼はゆっくりと目を開ける。


「まぁ、来ちまったもんは仕方ないだろ?」


「そうねぇ~。でも、私が心配しているのは時間が少ないって事なの……」


「俺が覚悟でも決める時間って事か?」


 ジャックは座ったまま顔だけをセフィリアに向ける。


「違うわよ。あなたが冷静になれるまでの時間の事よ」


 セフィリアの言葉にジャックは驚きの表情になる。


「今のままだと、あなた暴走してしまうでしょ?」


「…………」


『ジャック……。私は時々疑問に思うのだが、お嬢は何者だ?』


「そりゃ、俺が聞ききてぇ……」


「美人のお姉さんで、ジャックの恋人? でいいじゃない」


「なんで、疑問符……」


「さぁ、何故でしょうねぇ~。知りたかったら……」


 セフィリアはジャックに視線を向けると、穏やかな笑みを浮かべる。


「ちゃんと冷静に戦って生き残りなさいよ?」


 女神の様な微笑みを残して、彼女はゆっくりとジャックの側から歩き去る。


『天使の癒し手セフィリア……。そう呼ばれる所以が知れた気がする』


「奇遇だな。俺も今日改めて思い知った……」


『お主、これは死ねぬなぁ……』


「元々、死ぬ気なんざぁ。サラサラないけどな」


 船長席越しにセフィリアの背中を見送ったジャックが視線を正面のスクリーンに戻す。そこには無数の光点の集団が二つ構成され、一つは青く。もう一方は赤く表示されていた。


「マスター! お話は終わったぁ?」


「おう、何か報告か?」


 艦橋の右手側に大きな球体のスクリーンのついた機器の前に座る、どこか幼さの残る女性から、やはり幼さの残る声色でジャックを呼び声がする。


「提督さんから通信だよぉ~」


「分かったリル。メインスクリーンに繋いでくれ」


「はぁ~い」


 リルと呼ばれた言葉に少女は返事を返す。直後にメインスクリーンに提督が表示される。


「ジャック君。準備はどうかな?」


「流石に準備万端じゅんびばんたんって事にはなりませんがねぇ……」


「そうだろうな……」


「まぁ、でもやるしかないでしょうね。で、そちらの進展具合は?」


「残り二隻で民間避難船団は避難を完了するが、もう少し時間がかかるとの事だ」


「そうですか……」


「敵熱源反応多数! フィールドアウトしてきます!」


 ジャックと提督の緊迫したリルの声で打ち切られる。


「いよいよだな。避難船団護衛艦には船団が安全空域に到達次第、全速でこちらに向うよう命令してある」


「感謝します! 提督!」


「それは、私のセリフだよ。ジャック君。君と君の船のチームメンバーをはじめ、ハンターギルド所属ハンター達には頭が下がる」


 ジャックは提督に軽く会釈を返すと、通信をきる。


「マスターさぁ~。なんで提督さんには敬語なの?」


 愛らしい大きな瞳でリルはジャックに質問する。その視線を受けて彼は静かに微笑むとゆっくりと言葉を発する。


「あの提督には世話になったからなぁ。ああ見えて、歴戦の覇者だぜぇ?」


「へぇ~」


「さぁ。リル。今度は全周波数で通信チャンネルを開いてくれ!」


「りょ~かい!」


 ジャックの指示に従いリルは素早く計器を操作する。すぐにジャックに視線を戻すと頷く、彼もリルに頷き返すと深く息を吸込み。


「さぁ~みんな!狩りの時間だ!」

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