最終章  解放されるもの

最終章  1話  シバルバーの過去

 自らの右腕を抱き抱えるように立ち上がると、キングはジャックの仮面を睨みつける。


『何を言っておるのだ? シバルバー……』


『お前に伝えていない……私とサラしか知らない真実だよ……』


「これで、信じてもらえた? あたしの話……」


『お前、我に何をした? バリアーでもあるのか?』


「いいえ、何もしてないわ。あなたが何も出来ないみたよ?」


『ここからは、私が話しをしよう……ジャック、すまない。私はお主にも……』


「いいさ、気にするなよ」


『ありがとう……』


「それじゃ、一緒にみんなで聞こうぜ。シバルバーの昔話って奴を……よ」


 ジャックはキングに背を向けると、ドランゴンタイプに視線を移した。


『私は元を辿れば遥か昔に人類によって製造された、情報収集を専門に行う人工衛星だった』



 ◇



 その頃の人類は西暦と言う年代の時代で、まだ完全な人口知能もなく、私自身もただの金属の塊で、様々な星の情報収集のためだけに製造され、宇宙に派遣された。もちろん、その頃の地球の様子や、創造主などの記憶もない。

 それでも、私は恐らくその時代の最先端技術のすいを集められて設計、製造されていた。

 私は順調に責務を果たし、様々な情報を集めては地球へ送っていた。だが、ある日、ワームホールとでもいうべきか、或いはブラックホールであったのか……。今となっては確かめる術はないのだが。私は遥か彼方の銀河へと飛ばされてしまった。

 その事故の後も私は情報を集めていた。送るべき相手には決して届く事はないのだがな。

 それでも入力されたプログラム通りに私は悠久ゆうきゅうの時間を情報収集に努めた。

 

『そして、ある時に私は目覚めたのだ……』


 シバルバーの途方もない独白が続いていた。彼の言葉が途切れると、誰よりもシバルバーの言葉に衝撃を受けているキングが問いかける。


『何に目覚めたと言うのだ。シバルバー!』


に……だ』


 とても静に、そして穏やかなシバルバーの一言だった。


『私は、


 最初に私は自分が膨大な量の情報整理に尽力した。自分が何者で、どこから来てどこに向かうのか、その目的は何か……。幸い時間と情報にだけは無限にあった。

 そして、自分が地球で人類に製造され、宇宙に派遣された存在であるまでは理解できた。

 だが感じの自らの名前と目的は事故当時の破損のためか、プログラム内に一切残っていなかった。

 

『そして、悠久ゆうきゅうの時間を漂ううちに、私は気づいてしまったのだ……』


「何にですか……?」


『それはな、オーウェン……』


シバルバーは静かに一息入れるとことばを紡ぎだす。


だ』


 宇宙空間を彷徨い続け、情報収集に整理を行う。

 地球人以外の生命体の情報や文化もそれに含まれていた。だが、その情報全てに共通するのはどの種族も一人ではない。

 だが、自分はどうだろか?

 その答えはすぐに出た。自我に目覚めた機械の情報はどこにもなく、自らが彷徨い続ける宇宙から地球に帰る術もない存在。


 これほど広く美しい宇宙に唯一の存在――。


『これ程の孤独があるものか……』


 シバルバーは深いため息と共に言葉を吐き出した。


「その時に、その……人類に対して怒りとかはなかったんですか?」


 オーウェンの質問に、シバルバーはしばらく考えている様子だった。


「遠慮はいらねぇんだぜ?」


『ああ、ジャック。そういうことではないのだ』


「そうか……」


『オーウェン。確かにそのように思った時期もあったかもしれん。だが、私はそれよりも違う考えが先に浮かんだ』


「どんな?」


のだ……と』



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