第二章  襲来

第二章  1話  二日後の再会

「ちょっと、オーウェン? 何、間抜け面してるのよ?」


 聞きなれた声の罵声を受けつつも、彼は戸惑っていた。


「ちょっと、まさか、あんたセフィリアさんに見惚みとれてるんじゃないでしょうね? このスケベ!」


「まぁ、それだと嬉しいのだけど、でも、オーウェン。サラちゃんもこんなに可愛いのだから、大事にしないといけませんよ?」


「もう!セフィリアさんみたいに綺麗な人に言われても嬉しくありません!」


「あらあら」


「でも、オーウェン。私を大事にはしなさいよ?」


「まぁまぁ」


 楽しそうに笑顔で会話をする二人を見つめながら、オーウェンはしばらく膠着こうちゃくしていた。


「オーウェン、あんた本当に大丈夫……?」


「前の戦闘で頭でも打ったのかしら?私が診てあげましょうか?」


 サラの心配な声色に、セフィリアも席を立ちオーウェンへと向き直る。そこでようやくオーウェンは言葉を発した。


「なぜ……セフィリアさんがここに?」


「なぜって、サラちゃんのお見舞いで……ねぇーサラちゃん?」


「はい!」


 オーウェンの質問にマイペースで答えるセフィリアは終始笑顔だった。そんな彼女とサラはまるで姉妹の様に仲良く微笑みあっていた。


「いやいやいや!見舞いって!」


 オーウェンの言葉に、二人は訝しげにオーウェンに視線を向ける。


「おかしい……かしら?」


「いいえ、すごく嬉しいですよセフィリアさん!」


「ああ~もうサラちゃん、嬉しい事言ってくれて!」


 再び、彼女らのペースに巻き込まれそうになるオーウェンだったが、その空気に呑まれまいと言葉を遮る。


「お見舞いって、ジャックさんと一緒にこの星を去ったたんじゃ?」


「俺はいつこの星を出るって言ったんだ?」


 オーウェンの質問に答えたのは、いつの間にか彼の背後にたっていたジャックだった。


「ジャ……ジャックさんまで!」


「おう、二日ぶりかオーウェン」


 驚くオーウェンの視線の先には、満面の笑みのジャックがたっていた。


「しかし、お前、二日もサラの放っておくとは、なかなかどうして薄情だな?」


「ホントよね~。サラちゃんが可哀想……」


「いいんです……オーウェンなんて薄情者なのはわかってましたから」


 サラはジャック達の会話に答えると、ベッドのシーツに顔を埋める。そんな、サラをセフィリアは優しく抱擁し、頭をなでるとオーウェンに非難の視線を向ける。


「ああ~あ。お前、泣かしちまったな?」


「ええ?えええぇ~~?」


 ジャックの言葉にさらに困惑するオーウェン。大量の汗をかいて言葉を捜すオーウェンだったが、ふいに数日前に聞いた「ププッ」と笑いを堪える音が聞こえる。


「セフィリアさん、笑ったら……ククッ……ダメじゃないですか!」


「ごめんなさい……だって彼ったらすごい必死に考えてるんだもん」


 突然、セフィリアが笑い出すと、泣いていたと思っていたサラまでもが笑い出す。その二人を見て、ジャックに視線を向けると彼も笑顔で両肩をあげて降参の仕草をする。


「まぁ、二人にまんまとはめられちまったな?」


「いや、この場合……ジャックさんもでしょ?」


 オーウェンの恨めしそうな視線を受けたジャックも豪快に笑い出す。その姿を見てため息をつくオーウェンの姿を見てサラとセフィリアは再び顔を見合わせると楽しそうに笑いあった。しばらく病室は笑い声に包まれた。


「でも、オーウェンの事だから、すぐにサラちゃんの見舞いに来ていたと思っていたわ」


 笑いすぎたセフィリアが、涙を拭いながらオーウェンに声をかける。


「そうだぜぇ? セフィリアなんか……病室の前でソワソワしてな……」


「ソワソワって、どうしてです?」


 ジャックの発言にオーウェンはセフィリアへ質問する。


「だってぇ。あなた達が病室でキスでもしてたらって思うと、入室していいか分からないじゃない?」


「キキキキキ……キス?」


 笑顔のセフィリアにサラは赤面し答える。


「そうよ……キス。接吻よ!せっぷん」


「いや、意味が分かんないじゃないです!」


「照れちうゃってまぁ~サラちゃん可愛い☆」


「知らない!」


 サラはシーツを勢いよく頭からかぶるとベッドに横になる。そんな彼女を微笑みながらセフィリアはさらに声をかけからかっている様子を見ていたオーウェンは……。


「いつからあんなに仲良く?」


「さぁな。波長みたいなのがあったんじゃないのか?」


 オーウェンの疑問に、ジャックも微笑みながら答える。

 再び視線を二人に向けると本当の姉妹のようにはしゃぐ彼女達の姿に安堵する。あれだけ憎まれ口をいえるならサラの容態も悪くないはずだ。それに治癒能力をもったセフィリアさんも側にいるので、何かあればすぐに対処できるはず。先日の戦闘後に彼女に救われた命は、サラを初め大勢いたのだから。命や怪我を癒された人々は天使が光臨したと信じている者までいた。


(まぁ、その気持ちは分からないでもないけどなぁ……)


「それより、事後処理にしちゃ~見舞いに来るのが遅すぎるよねなぁ?」


 ジャックの言葉でオーウェンは現実へ引き戻される。ふざけあう二人から視線をジャックに向ける。ジャックは顔を少し動かし、オーウェンを廊下へと誘う。


「サラ、セフィリア。ちょっとオーウェン借りるぜ?」


「はぁ~い。いってらっしゃい」


 笑顔で送り出すセフィリアと、オーウェンに「べー」と舌を出すサラの仕草に本当に姉妹の様だと場違いな事を思いながら、オーウェンは苦笑を浮かべて廊下へとむかった。

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