第五章 2話 サラとサラ
その石――私のコアは――サラの母親の手でペンダントの飾に使われた。
もちろん、サラの両親もオーウェンの両親も、珍しい水晶をオーウェンが見つけて来た……くらいにしか思って無かった。機械生命体との戦争は始まっていたけれど――。
それから、私は目覚めと睡眠を繰り返し、少しずつ記憶を取り戻して行った。でも、それ以上に人間世界に対する興味が尽きなかった。人間世界は全てが新鮮で、眩しくて、今までにない驚きに満ちた素晴しい世界だったわ。私は目覚めてはオーウェンとサラと同じ空間で世界を体験した。
そんなある日、最初の「奇跡」としか呼べない現象が起きたのよ。
「あたしとお話できるの?」
サラはペンダントに話しかけてきたの。突然の声に私は困惑した……。何と答えていいか分からない私に、サラは構わずに話を続けた。
「あたしはサラ、あなたのお名前は?」
その言葉に私の心は今までに無いほどの高鳴りを覚えた。喜びと悲しみが入り混じる表現する事の出来ない感情。私の名前――。
でも、それには答えられなかった。だから、私はこう答えたの「名前は忘れて思い出せないの」と。
「オーウェン! この綺麗な水晶さん、オーウェンの言う通りお話できたよぉー」
「だろ? 僕。いつもそいつが大騒ぎしてるの、聞いてたんだぜ?」
『私が大騒ぎ?』
「えーだって、お前、何か見つけたら「あれは何だ?」とか大声で言ってたじゃん? それを聞いたサラも真似して「あれはなにぃー?」とか言うからうるさかったんだよ?」
私は驚きを隠せないでいた。今まで感情の高ぶりは感じていたが、その感情が言葉となりオーウェンやサラに聞こえているとは考えもしなかった。
「それでも、オーウェンはちゃんと教えてくれてたんもねぇー」
満面の笑みを浮かべるサラに照れながらも笑顔を向ける少年。私は幼いこの二人に、彼らの視点とは言え世界を案内してもらっていたも同然だった。
「でも、サラ。大人には聞こえないみたいだから秘密だよ?」
「うん! わかった!」
『ちょ……ちょっと待って!』
私はその言葉を聞いて二人の会話を止めた。
『二人は私の事を大人に話したの?』
「ううん、でも、お前が話しても、お父さんもお母さんも、サラもおばちゃんも、おじさんも、聞こえてなかったみたいだったよ?」
『では、何故、私に話しかけてきたの?』
「えっーと……」
オーウェンは私の質問に何故か赤面すると言葉を濁した。そんな彼を見ていたサラは「クスクス」と笑うと、左手の人差し指を口に添え小声で話しかけてきた。
「あのね……ペンダントさん。オーウェンはね。ペンダントさんが寂しいそうだったんだって。だから、あたし達二人がお友達になってあげようって! あっ、これも秘密だからねぇ~。えっと、3人……だよね? だけのひみつぅ~」
『…………』
私は頭が真っ白になっていたわ。初めて感じる感情に戸惑っていると。
「ペンダントさん、あたし達がお友達になったら、もうさびしくなぁ~い?」
『ええっ?』
サラの質問に私は再び驚いてしまったの……だって、再び意識を取り戻し、記憶を取り戻していた当初は孤独を感じていたけど、オーウェン達と共に過ごす時間が長くなるにつれて、私の心から孤独と思う気持ちは消えていたのだから……だから私は答えた。
『ええ、そうね。寂しくないわ!』
「やったぁ!」
サラは満面の笑みを浮かべると、オーウェンに笑顔を向ける。彼もサラに笑顔を向け、ペンダントである私にも笑顔を向けてくれた。
「まぁ、これからも聞きたい事があったら聞きなよ?」
「聞きなよ?」
オーウェンはペンダントでしかない私に、そしてサラは大好きなオーウェンを真似て私に語りかけた。
「でもでも、オーウェン。このペンダントさんお名前忘れちゃったんだってー」
「ええーそうなの?」
「うん、だからオーウェンお名前つけてあげてよ!」
「えぇ~嫌だよ~」
「いいじゃん!いいじゃん!」
「まぁ、サラがそこまで言うなら、僕が一番好きな名前をつけてあげるよ」
オーウェンは満面の笑みを浮かべるとその名を口に
「お前の名前も今日からサラだ!」
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