第五章  3話  運命の日

『名を…………だと?』


 サラの話の途中でキングは驚愕の声を上げる。全身は小刻みに震え、少しよろめくと一歩ほど後退る。


「オーウェンお前、子供の頃は積極的だなぁ」


 そんなキングとは対象的にジャックは感嘆の声をあげる。だが、その声は明らかに笑いを噛み締めていた。


「む…昔の俺って……」


『サラ……そうか、サラか……』


 シバルバーは「サラ」の名前を何度も何度も復唱する。


「ええ、お父様。私もサラと同じ「サラ」と名を与えられました。小さな男の子の何気ない一言だけど、でも、その子にはを……」


 サラは笑顔を浮かべてはいたが、その両目からは涙が溢れていた。オーウェンは戸惑いながらも彼女を抱き締める。


「大丈夫オーウェン……。私は凄く嬉しかったの。あの瞬間の喜びは一生忘れない」


「それは、どう言う意味?」


「ん……もう少し話を続けるね?」


「ああ、どうぞ」


「ありがとう……」


 サラは涙を拭うと、激しく動揺しているキングに向き直る。


「同じ名を与えられた私と、人間のサラはどんどん感情がシンクロしていったわ。恐らくサラ自身にも、オーウェンやジャックと同じ資質が備わっていたのだと思うわ」


『で、あろうな……。かなりの力を備えていたはずだ』


 サラの言葉にシバルバーが同意する。


「私達はとにかく3人で色んなところへ行き、そして遊んだ」


 サラはどこか懐かしむように記憶の糸を辿る。


「そんな生活が数年続いていたのだけど、運命のあの日を迎える……」


 サラはゆっくりと目を閉じる。


「サラが機械生命体との戦闘に巻き込まれて瀕死の重傷を負ったの……」


「その事故は覚えている……」


「そう、あの事故の時も、オーウェンは私達を助けようと必死になってくれた……」


 サラは戦闘で崩壊した建物の下敷きになってしまった。当時のスペースコロニーでの機械生命体との戦いは稀だったのにね。でも、二人はその戦闘に巻き込まれた。


「サラ!」


 オーウェンはサラを先に逃がそうと勇敢にも機械生命体の前に立ちはだかると、囮になってくれた。

 だけど、サラは逃げる途中で運悪く崩れてきた瓦礫の下敷きになっていた所を、サラの安否確認にきたオーウェンに発見される。


「サラしっかりしろ!」


『だめよ! オーウェン! 今はサラを動かしてはいけない!』


「どうしたらいいんだよ? 


 当時、オーウェンは私の事を「サラねぇちゃん」と呼んでいた。自分がサラと名づけたのに、解りづらいなどと文句をいっていたものよ。


「オーウェン……?」


「サラ、大丈夫だ!すぐに助けがくるかな?」


「あたしは、もう……ダメかもしれない」


『何をいっているのサラ! 元気を出しなさい!』


「そうだぞ! サラねぇちゃんの言うとおり元気だせ? な?」


「せっかく、オーウェンが……逃げる時間くれ……たのに、ごめんね……」


「そんな事はいいって!」


「サラちゃん……オーウェンをお願い……ね?」


「何を言っているんだサラ!」


「オーウェン。サラねぇちゃんがいる……から、寂しくない……よね?」


「バカッ! お前も居ないとダメに決まってんだろ? 二人とも「サラ」なんだ」


「ふふふ……あり……が……」


 サラの頬から涙がこぼれ落ちる。


「おい! おい! 待ってってサラ!」


 急速にサラの意識が遠のいていくのを感じた。それは、恐怖にもにた感情だったわ。でも、それは死に対する物ではなくて、オーウェンの側を離れる事に対するサラの想いと悲しみだったの……。

 当時、思考だけで私と彼女は会話が可能になるほどになっていたから、彼女の最後の想いはダイレクトに私に伝わってきた。


「サラ! サラ!」


 サラにはオーウェンの声が聞こえていたけど、返事を返す力が残っていなかった。その時、私の彼女の思考には、いつの日だったかサラが語った夢のことを思い出していた。

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