第五章  サラ

第五章  1話  遠い日の思い出と約束

「あの日……。お父様と使節団と共に会合場所へ向う途中に、あなたに強制命令されていた使節団の一体から背後に機能麻痺攻撃を受けた」


 サラは忘れていた遠い日の記憶を蘇らせる。


「次に私の意識が戻った時に見た光景は、先程言った通り。狂気に侵され私を解体している弟の姿だったわ……」


 サラは目を瞑ると両腕で自分自身の身体を確認するかのように抱き締める。そんな彼女をオーウェンはしっかりと腕に抱き締めると、彼女を諭すように背中を優しくさする。


「ありがとうオーウェン」


 オーウェンの胸に顔を埋めたまま彼女は話を再開した。


「でも不思議と痛みも、憎しみも恐怖も感じなかった。あなたの心の闇に気が付かないで、救ってあげる事の出来なかった無力な自分に……そして可哀想な弟に対する悲しい気持ちで張り裂けそうになったわ……」


 キングとジャックは対峙したままサラの言葉に耳を向ける。


「その後の記憶はないわ……。あなたは解体した私をそのまま放置したのかしら?」


『そうだ。キングは私にお前の死を人類の手によって行われたと思い込ませるために、私が到着するし、目に留まるように細工した』


「そうだったわね。お父様。辛い思いをさせてごめんなさい……」


『何を言っている……誤るべきは私の方だ……』


『それで?』


「父上……。その時、私のコアはどうなっていました?」


『!』


 サラの言葉にキングが僅かに反応する。


『残念ながら娘の遺体からは、核は見つからなかった』


「そうよね。核さえ残っていれば、例えそれが欠片でも父上なら私を復元できる」


『私もそう考え、必死に探したが見つからなかった……』


「でも、弟はその事実を知らされていなかった……。だから、あなたは私のコアを捨てたのでしょう?」


 サラの問いかけにキングは沈黙していたが観念したのか返事をする。


『そうだ……』


「それが、あなたの過ち……でも、僅かに残った優しさ……」


戯言ざれごとを……』


「理由は違ってもいいわ……私がそう思いたかっただけかもしれない。でも、どんな理由があるにしろ、あなたは私のコアを破壊しなかった。それだけは真実よ……」


 サラは静かに胸に手を当てる。


「次に私が自分の存在を意識した……というべきか、思い出せる記憶に現れるのは……」


 サラはそこで言葉を止めると、オーウェンの姿を見て笑みを浮かべる。


「少しやんちゃで元気で、とっても優しい男の子と、とっても寂しがり屋なのに、いつも強がっている女の子。そんな幼い二人だったわ」


「俺とサラ?」


「そうよ、オーウェン。その頃の私はまだ二人を見守る事しか出来なかった」


『見守る? どこから?』


『コア……からであろうな』


「そう、お父様の言われるとおり私の意識はコアに残っていたの。まだ不安定で時々目覚めてはまた深い眠りに落ちる……。そんな繰り返しだった」


「目覚めるたびに、私の目の前にはその男の子がいたわ。いつも元気で笑顔が可愛くて、私の目線からは少し大きく見えたの」


「俺が見えていた?でも、俺からは……」


「そう、見えていたのは私だけ、そして、サラより少しだけ下からの目線で私はオーウェンを見ていたのよ?」


「サラから少し下の目線?」


「わからない? オーウェン」


 サラの質問にオーウェンは考え込むが答えがでそうになかった。そんな彼が悩む姿が可笑しかったのか、サラは笑い声をあげると胸元からある物を取り出した。


「これよ。あなた覚えている?」


「これは、俺がサラにあげたペンダント?」


「そう! 覚えてくれていて嬉しいわ!」


 それは色あせた小さな水晶が取り付けてあるペンダントだった。


「それじゃ、このペンダントに?」


「ええ、このペンダントのかざりが私のコアだったの」


『何故、そんなペンダントなどに?』


「さぁ、分からないわ……でも、私を見つけ出したのはオーウェンよ」




 「うおぉー見てみなよ! サラ! この石、凄い綺麗だよ?」

 

 真っ暗な世界に漂っていた私の意識に、そんな声が聞こえて来た。目を開けようとしても目は開かない。腕も足も動かない。ここがどこで自分が誰かも分からない。

 でも、その声だけはハッキリ聞こえた。その声の聞こえる方向へ意識を集中すると、突然、暗闇に光が差し込んで周囲の景色が見えたの。そこに飛び込んできたのは男の子。


「うわあ~凄いね! 凄く綺麗だね。オーウェン!」


 そして次に聞こえてきた声は女の子。どちらも人間だった。


「ほら! これサラにあげるよ!」


「えぇ? いいの?」


「いいよ。お父さんも、お母さんと「けっこん」する時に綺麗な石をプレゼントしたんだって! だから僕もサラにプレゼントするよ!」


「ありがとう!」


「だから、大人になったら「けっこん」しような!」


「うん! あたし、オーウェンのお嫁さんになる!」


 そんな会話を聞いて私は何とも言えない暖かい気持ちになれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る