第四章 5話 サラの想い
『思い出した……だと?』
「ええ、そうよキング。哀れな私の弟よ……」
サラの口調が変わるとキングの目が細められる。
「サラ……いえ、私がタイプ・クィーンの攻撃を受けて瀕死の重傷を受けたとき……。私は再び自分の力を使った……」
サラは目を閉じると右手を胸……心臓の真上に添える。
「オーウェン……」
セフィリアはオーウェンを呼ぶとサラと自分の横に並ぶように促す。オーウェンはセフィリアに呼ばれるままに彼女達の側に歩み出る。そして、目に映る光景に驚く。
「サラ?」
「大丈夫よオーウェン」
サラは顔だけを彼に向ける。その心臓は紅く輝いていた。その紅く輝く色にオーウェンは見覚えがあった。
「ジャックさんの仮面の緋色……」
オーウェンの言葉にサラは静かに頷くと再びキングへ向き直る。
「あなたはこの光の意味は知っているはずよね?」
『…………』
サラの問いかけにキングは沈黙で答える。
「あの日、オーウェンの簡易治癒を受けた後に、私はこの力を使用した。十数年ぶりにね……。機械生命体の近くでこの力を使用すれば、私の存在を感知されるかもしれない」
サラは再びオーウェンを見ると微笑む。
「でも、どうしようもなく優しくて、お人好しなこの人の側を離れたくなかった……」
オーウェンは困ったように頭をかく。サラはそんな彼の姿に満面の笑みを浮かべる。
「その時に感じた感情はオーウェンに対する愛情と……」
サラは三度キングに向き直る。しかし、その顔からは笑みは消え、彼女がこれまでに見せたこともないような冷たい視線だった。
「あなたに殺されるときにも感じることのなかった感情……恐怖よ」
キングの目が僅かに見開く。
『それでは姉上は我に解体される最中にも意識でもあったという……』
「もちろん、あったわ……」
キングの言葉を遮りサラは続ける。
「狂気に支配され、怒りに任せて私の身体を解体する弟の姿に、私は弟を救えなかった自分を責めて、後悔と悲しみの感情の中で意識を失った……」
「…………」
ジャックを含めその場にいる全員が沈黙に支配される。セフィリアはそんなサラを抱き締める。彼女の頬から一滴の涙がこぼれる。
「ごめんねサラちゃん。私がもっと早く現場に到着して治癒していれば……。こんな辛い想いをしないですんだのにね……」
「ううん、違うわセフィリアさん。セフィリアさんの治癒がなければ、私だけの力では助からなかったの……」
サラはセフィリアの腕からすり抜けると、彼女の両腕を握り返し。
「だから! もう一度ありがとう! セフィリアさん!」
笑顔でお礼を言葉にするサラに、セフィリアは溢れる涙を拭いもせずにサラを抱き締める。
「ああ~ん、もう! なんていい子なのサラちゃんは! お嫁に欲しいわ!」
「えへへ~ありがとう。でも、セフィリアさんの所には、お嫁にはいけなにんだぁ~あたし! 大好きだった人のお嫁さんになる夢が叶いそうだもん……」
「叶うわ……きっと叶えてくれるわよね? オーウェン」
二人を見守っていたオーウェンはセフィリアの突然の質問に苦笑を浮かべはしたももの「もちろんです」と先程の自らの宣言通り迷い無く答える。
「なぁ。シバルバー。娘を嫁がせる親の気分ってなぁ~せつないのか?」
『…………黙秘する……』
「ははははははっ!」
3人の光景を楽しそうに見守っていたジャックがシバルバーに質問後に大爆笑する。
『ええい! 戯言はやめろ!』
キングは苛立ちの声を上げる。そんな彼を一瞥したジャックは不敵な笑みを浮かべる。
「どうしたキング苛立ってんじゃないか……さては仲間外れにされて拗ねてんのか?」
ジャックが言葉を言い終わると同時にキングの両目が煌いた。そこから放たれた一筋の光線はジャックへと迫る。しかし、彼は頭の体勢をわずかに反らしてその光線を避けた。姿勢を元に戻すジャックの左頬には一筋の赤い線が走り、そこから僅かな血が流れる。
「落ち着けよキング……こんな茶番に付き合ってまで知りたいんだろ?」
「何をですか?」
ジャックの言葉にオーウェンが質問する。彼の質問に答えたのはジャックでもキングでもなく、彼の側でセフィリアと共にいるサラだった。
「それはねオーウェン。何故、私が生き残っているのかの理由……そして、生き残っている姉は本物なのかの事実確認のためなの」
サラはキングへと視線を向けたままオーウェンに答えた。
「教えてあげるわ。弟よ。長くなるけど時間はあるのでしょ?」
『是非、ご口授頂きたいものですな。姉上』
サラは静かに語り始める。
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