第四章  4話  蘇る記憶

『姉上もそうだった。人類との接触が叶い、会談が行われると聞くと大いに喜んでおられた。我らの高い技術までも惜しみなく提供するべきとまでも言った』


 キングは遠く過去を思い出すかのように空を仰ぐ。


『だから、殺したのか?』


『ああ、そうだ!』


 シバルバーの言葉に、キングは顔を覆うゴーグルを開閉する。そこには人間の顔を模写したような顔があり、その口に似た場所は奇妙に歪んでいた。


「笑ってる……」


『お前には笑っているように見えるのか?オ-ウェンとやら。我は呆れているのだがなぁ。姉上を機能停止にし、せめてもの情けにと我自らの手で解体してやったわ!』


 キングの表情は歪んだ笑みを浮かべているが本人はそれを否定する。オーウェンの手を握るサラが力を込めてくる。そのサラの手に安心させる為にオーウェンは自らの手を重ねると、静に呟いた。


「なんて……なんて存在なんだ……あなたは……」


 オーウェンの言葉にキングは笑いを止めると、静にオーウェンに視線を向ける。


『なんだ……と?』


「そんなくだらない理由で人類と戦争を……?」


「そんなくだらない理由で、キングは戦争を始めたんだよオーウェン。笑えるだろ?」


『ふははははは。やはり下等な生物には我の崇高なる目的が理解できぬか』


 キングは再び甲高く笑い声を上げる。しかし、オーウェンにはその行為さえ、どこか人間臭く思えてならない。


「これじゃ、駄々をこねる子供変わらない……。だいたい、何故今頃になって姿を現したんだ……?」


 思考している最中に思わず声に出してしまったそのオーウェンの言葉は、彼以外のその場にいる全ての人に驚きを与えた。


「ねぇ……オーウェン」


 そんな彼に隣に並ぶサラが声をかける。突然の呼び掛けに少し驚きつつも、オーウェンはサラへと向き直る。


「ああ、ごめん。なんか考え事してたら声に出ちゃったか……」

「ううん、そうじゃないの……」


 サラはオーウェンから手を離すと、片手を胸に置き深呼吸をする。


「何があっても、あたしの事好きでいてくる?」


「もちろん」


「即答じゃない!」


 サラは驚きつつも笑顔をオーウェンに向ける。


「今まで悩んでた分、そこだけは悩まないと決めたからな」


「それって、開き直ってるんじゃないの?」


「そうじゃないよ」


 オーウェンも笑顔でサラに答えると、サラは彼の両腕に抱きつき唇にキスをした。


「サラ……ど……どうしたの? こんな時に!」


「ふふふ……ファーストキスしちゃったねー。動揺しちゃって!ごめんね……ちょっと勇気が欲しく……さ」


 サラは人差し指で唇を「トントン」と何度か叩くような仕草を繰り返すと、ハニカミながらオーウェンの側を離れる。そして、再び深呼吸をすると「よし!」と自らに気合を入れる。

 セフィリアに視線を向けると、優しく微笑む彼女と視線を交わす。


「今、この時期にキングが現れた理由はね……オーウェン」


 サラは振り返るとキングを真正面から見据える。セフィリアが彼女の側にそっと寄り添うとサラの両肩にそっと手を乗せる。

「がんばって」小声で応援する。


するからなの……」


 サラはセフィリアに頷き返すとさらにハッキリとした口調で言葉を述べる。


「シバルバーさんの娘で、キングに殺された姉の生まれ変わり……。ううん、彼女と融合したあたしのせいなの……」


 サラの衝撃の告白にオーウェンはまたも頭が真っ白になる思いがした。


『サラ……いつ思い出したのだ?』


 ジャックやセフィリア。そしてシバルバーもこの事実は知っていたと思うが、サラ自身がこの事実を知っている様子ではなかった。


「クィーンに殺されかけた時に、夢を見たんです。でも、それは夢かなぁと思ってたんだけど、シバルバーさんと、キングの話を聞いてるうちに……」


「そうか、それは俺の配慮が足りなかった。すまないサラ」


「ううん、大丈夫ですジャックさん」


 サラは気丈にもジャックに笑顔をかえす。


(強い子だ……)


 記憶が蘇ったとなると、サラに取っては辛い過去を思い出す事になる。まして彼女は一度、違う人生とは言え死を迎えているのだから……。

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