第二章  3話  公開告白

「軍上層部と、裕福層の人達が逃げ出した……?」


 昨日、サラの入院する病院からそのまま二人は軍本部へと向かい。ジャックは軍上層部へと報告を行った。

 そして、一夜明けて軍本部にて作戦会議を行うべく現れたオーウェンに、何故か彼より一足先に軍本部にいたジャックから信じなれない言葉を聞いた彼の第一声だった。作戦会議室内に居合わせた兵士達にも動揺が走る。


「なんだ?オーウェン。予想外か?」


 言葉をなくすオーウェンにいつもの不敵な笑みを浮かべるジャック。


「よくある事だぞ?あいつらは自分達の保身しか考えてないからな。逃げたいと言うので軍の戦艦や戦闘艇意外は連中に貸してやったさ」


「で……でも、守るべき市民が……」


「オーウェン流石だ。お前ならそう言うと思ったぜ」


 怒りが沸々ふつふつと沸いてくるオーウェンを横目に、ジャックはこの惑星の地図をホログラム表示にして眺めていた。そのままの姿勢でジャックは背後のオーウェンに話しかける。


「なぁ、オーウェン。俺がお前に以前に言ったように、兵器も使う人間次第で良くも悪くもなるように、人それぞれに正義があり、悪がある……」


 そこまで言葉を発するとジャックはオーウェンに向き直る。


「昔から言うだろ?恋愛は十人十色ってな。それと似たような物さ……」


 苦笑を浮かべるジャックに、オーウェンは反論を試みようと口を開きかけたが、それをジャックは片手を上げて静止た。


「オーウェンの云いたい事は十分わかってる」


 尚も怒りを抑えられそうにないオーウェンに対して、ジャックは頭をかくとため息混じりにつぶやく。


「俺の柄じゃないんだがなぁ……。仕方ない。オーウェンこの惑星の全軍事施設に映像スクリーンで交信開いてくれ」


「え?あっ、はい」


 ジャックの予想外の言葉に、間の抜けた返事を返すとオーウェンは作戦会議室にある端末を起動して、全軍事施設への通信回路を接続した。


「通信回路接続完了。全軍事施設に繋がりました」


「サンキュー」


 ジャックはオーウェンに礼を言うと、先程まで惑星の地図の映像が浮かんでいたほろグラフのスイッチを切り替える。すると画面は何分割かに分かれ、それぞれの画面に各軍事施設の映像が映し出される。


「俺の名はジャック。宇宙連邦広域ハンターギルド所属。ハンターランク・トリプルSハンターだ」


 ジャックの視線の先にある無数のモニターから驚きや、歓声など様々などよめいが聞こえる。そのどよめきをジャックは片手を上げて制する。


「今更隠しても無駄になるのでハッキリ言うが、軍のお偉いさん達は逃げ出した。お前達の上官も昨晩、もしくは早朝から連絡が取れないはずだ」


 ジャックの突然の言葉に、今度は動揺が広がる。しばらく彼等の声を聞いていたジャックだったが、彼等の声が落ち着くのを待ってから言葉をつづける。


「先日の襲来、それの撃退は記憶に新しいが、さらなる機械生命体の襲来が予想される」


 ジャックの声に誰もが言葉を発することなく、耳を傾ける。


「襲来予定の機械生命体はタイプ・キングだ」


 深い沈黙が全てを包み込んだ。無機質な機械音だけが正常に時間が流れている事を告げる。しばらく異様な空間が支配してたが、再びジャックの力強い声が響く。


「逃げたい奴は逃げてもいいぞ……」


 ジャックのその言葉に再び沈黙が世界を支配する。誰もがその言葉の意味を理解していたが、ジャックの言葉に対する返事を躊躇っている。

 誰かが声に出して欲しいが、その言葉を誰よりも先に言葉にする勇気もない。そんな思いが伝わってくる。


「今、ここで逃げ出しても別に恥ずかしい事でもないさ。逆に、無理に残っても「いざ」って時に後悔されても困るしな」


 ジャックはある言葉を意図的に強調した。彼のいう「いざ」とは、もちろんキングと闘う事を意味していた。


「オーウェン!」


「はい!」


 突然、ジャックに呼ばれたオーウェンは返事をする。そんなオーウェンにいい返事だと答えながらジャックは手招きをする。


「オーウェン少尉だ。仕官学校出たてのホヤホヤ少尉さんだが……」


 可笑しそうにオーウェンを紹介するジャックにオーウェンは苦笑を返す。


「少尉! お前がキングと戦う理由は何だ?」


「口の悪い幼馴染を守りたいからであります!」


「その幼馴染は女か?」


「はい!」


「可愛いのか?」


「はあ?」


「いや、だから可愛いのかって聞いてんだよ」


「ほ……他の人からは存じませんが、自分は可愛いと思います」


「で、惚れてんのか?」


「え? はぁあ?」


 ジャックの勢いにつられ返事を返していたオーウェンだったが、さすがに質問の意図が分からずジャックに視線を向ける。

 しかし、彼の顔は真顔で冗談を言っているようには見えない。オーウェンは羞恥の心振り払い。「もう、やけくそだ」と心で叫ぶと言葉に発する。


「先のクィーンで彼女が死ぬと思った時に、自分に取って大事な存在であると痛感させられました!自分は惚れていると思います!」


「その女を守るために、少尉は残って戦うのか?」


「クィーンとの戦いで多くの仲間を失った時、自分は何もできませんでした。何も出来なかった自分が情けない……」


 オーウェンは言葉を詰まられると一度下を向く。深呼吸をするとすぐに真正面を向く。


「ですが、もし次があるなら……。それが今回ですが。強くなりたいと、せめて彼女とここで生活する人々の笑顔を守りたいと、あの時に散っていった仲間に誓いました!」


「て、事らしいぞ。サラ良かったな」


「ほえ?」


 突然サラの名前を呼ぶジャックに、間抜けな声を出しながらオーウェンはジャックの方に視線を向ける。彼は満面の笑みを浮かべて視線だけをモニターに向けてる。オーウェンは彼の意図を理解し、自らの視線もモニターに向ける。

 そこにはサラの病室が追加で表示され真っ赤になりながらも、どこか嬉しそうなサラの表情が写っていた。


「いやいや、見事な告白だったなぁ!少尉!」


「…………!」


 ジャックの言葉に声にならない声でオーウェンは答えるが、そんな彼を横目にジャックは再び通信モニターの前に立つ。


「いい話だったろ? 少尉は惚れた女のために命を掛けるそうだ……」


 ジャックは静かに語りかける。


「なんとも人間らしいじゃねぇか」


 ジャックの何気ない一言は、しかし、モニターの先に人々の心に響く。


「惚れた女のために命を懸ける……。最高じゃないか……ええ? おい」


 彼は不敵な笑みを浮かべると、モニター越しに自分を見つめる人々に問いかけた。



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