最終章  6話  ファントム・ジャック

『どうやら、あちらはケリが着いたようだな……』


「そうみたいだなぁ」


 ミラージュの太刀の横払いを、紙一重で避けるとジャックにミラージュは楽しいそうに声をかける。


「随分、ご機嫌そうに見えるぜ? 何か言い事でもあったのか?」


『なに……。幾数年ぶりか、幾十年ぶりかに家族が全員揃ったのでな、つい嬉しくなってしまったのだよ。お前には感謝しないとな……ジャック』


 冷酷な笑みを浮かべながらも、その剣速はどんどん速くなっていく。


「そりゃ、どうもっ……と!」


 ジャックはその剣戟を全て避けてはいるが、反撃は出来ないでいた。そんな二人を見守るセフィリアの側にオーウェンとサラが合流する。


「ジャックさん、大丈夫ですか?」


 オーウェンは心配そうにセフィリアに問いかけるが、彼女は両目を閉じて祈るように両手を胸の前で組んでいた。

 その彼女は淡い光に包まれている。しばらくするとその双眸が開かれる。彼女の瞳は蒼く輝いていた。


「ねぇ。オーウェン。って覚えている?」


「ファントム・ジャック?」


 セフィリアの状態に驚きつつも、彼女の質問に答える。


「そうファントム・ジャック。でも、それはあの仮面に由来した、オペラ座の怪人とは関係ないのよねぇ~」


 姿こそ光輝き神々しく見えるが、普段のセフィリアと変わらぬ口調にオーウェン達は安堵する。


「何故、その通り名がついたか、今から分かるわよ」


 セフィリアは一度、彼ら二人に笑顔を向けると、再びジャックに視線を向ける。


「ジャック~! 私の愛を受け取って~!」


「おう! いつでもいいぜぇ!」


「へぇ?」


 二人のやり取りに思わずオーウェンは呆気に取られた。それは隣に寄り添うサラも同じ様子で、困惑の表情を浮べている。そんな二人の目の前では、右腕を天高く掲げたセフィリアの体から放たれていた光が集約し、一つの小さな光弾を形成する。


「それぇ!」


 セフィリアは掛け声と共に右手を振り下ろす。直後に彼女は地面に座り込む。


「ふぅ~と、しばらく動けないのよねぇ~」


「大丈夫? セフィリアさん?」


 サラは慌ててセフィリア背中に手を回し、彼女を支える。


「ありがとうね。サラちゃん、私は大丈夫よ……使よ? それよりジャックから目を離したらダメ」


 サラはセフィリアの返事に安堵し、ジャックに視線を戻した。 オーウェンも光弾の軌道の先に佇むジャックに視線を移す。光弾はジャックに当たると、彼の身体に吸い込まれる様に消滅した。


「セフィリアの愛……。確かに受け取ったぜ?」


 ジャックは不敵に微笑むと、セフィリアに視線を送る。その視線にセフィリアも笑顔で応えた。


『何をしている?』


 ミラージュは何の変化も起きないジャックに苛立つように声をかける。


『せっかく愉しい戦いが、興が冷めるではないか!』


 ミラージュは言い放つと鋭い上段からの一振りをジャックに叩き込む。その必殺の太刀はジャックを文字通り両分する。


「ジャックさん!」


『!』


 オーウェンの悲痛の叫びが響き渡る。


『手ごたえが……ない?』


 しかし、太刀を振り下ろした格好のミラージュから、そんな疑念の声が漏れる。そるとジャックの姿は静に拡散して消える。


「どうした? 俺はここだぜ?」


 ミラージュの背後に突然ジャックが現れる。咄嗟にミラージュは振り向きながら強力な一撃をジャックに繰り出すが、またもジャックに当った攻撃には実感がわかない。


『ええい! どうなっている!』


 苛立つミラージュの肩にスパナ式弾丸が突き刺さる。


解除パージ!」


 ジャックの声が何処からともなく響き渡ると、ミラージュの肩の装甲が弾き飛ぶ。


『なっ!』


 驚愕の声を上げるミラージュの視線の先にジャックが3人現れた。


「どうした? 俺はここだぜ?」


 再び同じ言葉を投げ駆るジャックの一人にミラージュの太刀が突き刺さる。だが、それもしばらくすると笑みを浮かべたまま消滅する。


「はい! はずれ~」


 ミラージュの側に現れたジャックは、腰から取り出し拳大の丸いボールをミラージュの目の前に放置する。

 ミラージュはそのジャックも切り裂くがまたも消える。

 しかし、彼の残した2個のボールはその場に残り――「ボン」――と爆発した。


『がぁあ!』


 厚い装甲に守られているとはいえ、ゼロ距離の爆発は少なからずミラージュの本体にダメージを与えた。


「偶然にも、お前の名前と同じ「幻影ミラージュ」に襲われる気分はどうだ?」


『貴様ぁ!』

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