最終章  4話  最後の一人

『ミラージュ! 何故? お前がここに?』


 そこから現れたアンドロイド型機械生命体の姿はキングとは真逆の漆黒のボディに、長く揺らめく髪を有し、背中に太刀を背負っていた。


『何故……とも申されても父上。先ほどそこの人間の女が話した通りですよ』


「ミラージュ兄様!」


 シバルバーの問いに答えた漆黒のアンドロイドの姿にサラが叫ぶ。


『久しいなぁ……。妹よ。今はサラとか言うのか?』


「ええ、そうよ……」


『堕ちたものだな……あの時、死んでいればそんな無様は姿を我が眼前に晒す事も無かっただろうに……愚かな』


「あの時って?」


『お主、まさかあの会合の時に?』


『そうですよ……かつて父であった残骸よ』


『生きていたのか?』


『私は死んだ事はありませんよ……』


 穏やかな口調で話を続けながら、漆黒の敵は緩やかに地面に着地する。


『おお。我を手助けに来てくれたのか?』


『黙れ、愚弟』


 ミラージュと呼ばれた漆黒の剣士は背負った太刀を一閃する。彼に歩み寄っていたキングは両足を綺麗に切断されると、そのまま地面に崩れ落ちる。


『なぜ? がぁ!』


 地面に崩れ落ちたキングの頭を漆黒の剣士は踏みつける。


『下等な人間すら殺せぬお前などに、用は無い……。お飾りはもう必要ないのだ』


「なんだ、お前には名前あるか?」


『!』


 キングを踏み潰そうとした瞬間、ミラージュの太刀にジャックのスパナ式弾丸が喰らい付いていた。ジャックはワイヤーを巻き始めると高速でミラージュに接近する。


『ふん……』


 ミラージュはその弾丸を、太刀を返す仕草で取り外す。

 すぐに太刀を構えジャックに垂直に繰り出した。その剣速は凄まじくジャックは空中で身をよじるようにして避けるが、僅かに避けきれず、胸に一筋の赤い線が走りそこから血飛沫が上がる。

 だが、ジャックは怯むことなくミラージュに接近すると、右手に構えていた銃剣のトリガーを引く。ミラージュは自に迫る弾丸を、突きを繰り出した勢いのまま更に前方へ跳躍することで避ける。両者は公差すると着地し、静にお互いを振り返る。


「あれ、避けるか? 普通」


『それは、こちらのセリフだ』


「人間を傷つける事が出来ない……なんて、素敵設定ギフトはないんだろ?」


『もちろんだ……。その方がお前も愉しめよう?』


「違いないな!」


「凄い……」


 オーウェンは二人の初手を見て感嘆の声を漏らす。

 どちらの攻撃も一撃必殺の技の精度だったにも関わらず二人はそれを避ける。オーウェンの視線の先で二人は対峙したまま動けないでいた。ジャックに近寄ろうとしたその行く手を黒い巨体が遮る。


「タイプ・ドラゴンか!」


 オーウェンとサラの目の前には、ドラゴン型機械生命体が現れる。


「アンドロイド型以外は、強制命令プログラムは施されていないの……」


「まぁ、そうだろうな」


 これまでの機械生命体と戦争では、人間型は確認されていなののだから当然だろう。


「それにお父様がいなくなり、兄がプログラムを書き換えてたんだと思う」


「あの漆黒の?」


「ええ……」


 ジャックと対峙したまま動かない剣士に目を向ける。


「詳しくはこいつの相手をしてからだな……」


「ねぇオーウェン? あたしを守ってくれるんでしょ?」


「もちろん」


 二人は頷き合うとドラゴンへ駆け出した。


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