最終章  3話  親子喧嘩

 沈黙が周囲を支配する。キングでさえシバルバーの言葉に驚きの表情を隠しきれないでいた。

 ジャックもシバルバーの独白を静に聞いていたが、両腕を組んでいた彼の腕を何物かが引っ張る。ドラゴンを警戒しつつも、視線だけをそちらに向けると、そこにはいつの間にかジャックの側まで来ていた、困り顔のセフィリアが居た。


「どうしたセフィリア?」


 ジャックに問われ頬に手を添えると、セフィリアは苦笑を浮べる。


「ねぇーねぇージャック。私達も何か昔話とかしないでいいの?」


「はぁ? 何を言ってんだよ。お前……こんなときに……」


 さすがのジャックもセフィリアの発言に驚く。


「だってぇ! だって! 私たち……ううん、私、影薄くなってなぁ~い?」


 少し涙目で語るセフィリアに、ジャックも苦笑を浮かべると答える。


「…………なってるなぁ」


「でしょ? でしょ? だから、私とジャックのラブラブ~なエピソードを……」


「セフィリア、そりゃもう無理だ」


「どうしてぇ?」


 ジャックの腕をつかみ、身体を左右に揺らして駄々を言うセフィリアだった。


(セフィリア……キャラ変わりすぎだろ……。だが、それがいい!)


「オーウェンとサラが、セフィリアの言う「ラブラブ~なエピソード」をやっちまったからなぁ~。二番煎じだ」


「ええ~そうなの?」


「そうなの。それにあんなコイバナだか、のろけ話なんか聞きたくもねぇ!」


「「ジャックさん!」」


 ジャックの言葉にオーウェンとサラが同時に声をかける。


「ほら見ろ! もう声がハモルほど、仲がいいぜ」


「いいわねぇ~仲良しさんで!」


 ジャックは二人に一瞬だけ笑みを送り、セフィリアは二人に笑顔で手を振る。


「それより、セフィリア……よくこの空気でそんな事いえるな?」


「へ?」


「いや、シバルバーの話、聞いてたろ?」


「え? ああ~」


 ジャックの問いに、セフィリアは「ポン」と握り拳をあわせる。


「シバさんがになっていて、人類が悪者だったら退治してやる~って話……ね。うんうん、分かるわ~。私も迷子になったら、ジャックに逆恨みするわね!」


『い……イジケ虫?』


「逆恨みって、お前……」


 シバルバーは驚きの声を出し、ジャックはさらに苦笑を浮べる。


「それをお父さんと、お姉さんに事情も教えてもらえず仲間外れにされたキング君が、若気の至りって奴でしているんでしょ?」


「そこは同感だな」


『同感するのか!』


「シバルバー、いい突っ込みだなぁ」


 ジャックは笑いながら答える。


『はははは……。いや、まったく……お嬢には適わぬな……』


「オーウェンとサラちゃんは……ラブラブだったわねぇ~」


 セフィリアは羨ましそうな視線を二人に送り、ジャック恨みがましそうな視線を送る。


「それにシバルバーほどの過去もねぇしな」


『すまぬ』


「いやいや、それに、もう長話は俺がうんざりだしな。頭パンクしてるぜ」


『重ね重ねすまん』


「て、事であばれたい気分なの、僕ちん」


「そうよねぇ~。だってって、あれでしょ~」


 セフィリアの口調や表情は変わらないが、彼女はゆっくりとドラゴンへと視線を向ける。


コソコソしいてる、恥ずかしがり屋さんでしょ?」


「間違いない」


『なんだと!』


 セフィリアとジャックの言葉にキングは驚き、ドラゴンタイプへと視線を向ける。


「恥ずかしがらないでいいのにねぇ~」


「そうだよなぁ」


「やっぱり、自分がやった事が、あまりに卑怯だと、顔を出し辛くなるのかしら?」


『ふっ』


 セフィリアの言葉にジャックは笑みを浮かべる。

 しばらく沈黙が続いたが。やがて相手が観念したのか、ドラゴンタイプから声がする。


『やれやれ、お嬢さんは可愛い顔して、なかなかに辛辣しんらつな言葉を言う……』


 ドラゴンタイプの背に光の輪が出現し、ゆっくりと中から人が現れる。その人物の全容が明らかになると、キングが驚愕の表情になる。

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