最終章  最終話  与えられたもの

 再びキングに向き直りながら、ミラージュの剣を手に取ると立ち上がる。


『我に両親の復習をするのか? それが良かろう……』


 キングはジャックの姿に観念したのか、全身の力を抜く。


『思えば無力な生涯だったな……兄に唆され、父と姉を裏切り、人類に戦争を仕掛け結果、兄に切捨てられた』


 キングはジャックの仮面とサラを交互に見る。


『今更だが、不肖の息子を許してください父上。私もあなたのような立派な王になりたかったのです』


 次にキングはサラを見つめる。


『姉上、あなたにも本当に辛い思いをさせてしましました。許してもらえないだろうが、そのオーウェンと言う人間とどうかお幸せに……』


 サラは静に頷く。キングは最後にジャックに視線を送る。


『そしてジャック……。両親の死の原因も私の浅はかさ、愚かさだ。許せ』


 キングはゆっくりと空を見上げる。


『今なら分かる。父上は憧れておられたのですね……人間に……』


『そうだ息子よ』


『そして、その父上の夢を姉上が叶えた』


「ええ、そうね」


『なんだ。この感情は? 今までにない?』


「その感情はね。きっと安らぎ……あなた今は孤独を感じてないでしょ?」


 サラが静にキングに語りかける。


『これが……安らぎ……さぁ。ジャック。私の命を絶ってくれ……』


 ジャックはミラージュの太刀を最上段に構える。


『ありがとうジャック……』


 ジャックはその太刀を思い切り振り下ろす。「ガキィン」と金属がぶつかる音がする。しばらくは誰も動かず、誰も何も言葉を口に出さなかった。


『…………?』


 


 キングの視線の先には青空の代わりにジャックの顔があった。首を左右に向けるとキングの顔のすぐそばに太刀先が地面に突き刺さっていた。


『どういうことだ?』


「お前の名前は「戦友ガーヴィン」。今日からそう名乗りな」


 ジャックの言葉に驚愕の表情になる。


「そして、お前の目的は只一つ、人類への罪滅ぼしだ」


 ジャックが言葉を言い終えて瞬間。キングの中には歓喜の感情が広がる。


『おおおおおおお!我が名!』


 ガーヴィンと命名された機械生命体は光り輝く。


『我が天命!』


 光が収まると、右腕も両足も完全に復活したガーヴィンの姿があった。自分の姿を確認していた彼は、ジャックへと視線を向ける。


『なぜ?』


「セフィリアに聞きな」


 ジャックの言葉にガーヴィンはセフィリアへと視線を向ける。セフィリアはゆっくりと立ち上がると、優しい穏やか笑顔になる。



「悪いことをしたら、ちゃんと誤って許して貰えばよいのよ?」



「まぁ、子供の頃に教えられる至極まっとな事だよな?」


 ジャックの笑みにオーウェンも頷く。


「けど、セフィリアみたいに誰もが納得するわけでもない」


 ジャックはがーヴィルに向かって言い放つ。


「事実、お前が戦争を起し、それによって多くの命が失われたのが、消さない事実だ」


 ガーヴィルは静にジャックの言葉を胸に刻む。


「だから、お前はこれから人類に対して罪滅ぼし「償い」をするんだよ」


 サラは涙を流しながらオーウェンの胸に顔を埋める。オーウェンもジャックに視線を向けながらも、サラの身体を強く抱き締めた。


(この二人には適わない……な)


「罪を犯したそのミラージュの太刀で、お前が罪を償っていけ」


『全力で……』


 ガーヴィルは深く深く頭を垂れる。ジャックは満足そうに微笑む。

 ガーヴィルは深く深く頭を垂れる。ジャックは満足そうに微笑む。


『感謝するジャック』


「なに、礼はいいってシバルバー」


『さすが、だな』


「おいおい、今更、そんな昔の呼び名で呼ぶか?」


『よいではないか、どう呼ばれようとジャックはジャックだ』


「そうよ~ジャック坊はジャック坊よねぇ~」


「ああ~めんどくさくなったじゃないかぁ」


 そんな会話を聞いていらガーヴィンの背中を優しくサラが押す。


「さぁ、あなたも行きましょう。ガーヴィン」


『はい。サラ姉上』


「サラ姉上……?」


 サラとガーヴィンの会話を聞いていたオーウェンは突然大声を出す。


「どうした~。オーウェン?」


 そんな彼にジャックが声をかける。


!」


 突然、名前を呼ばれて驚いたサラだったが、懐かしいそうにオーウェンを見つめる。


「思い出した! 全部思い出した!」


 その言葉に感極まってサラがオーウェンに抱きついた。そんな二人の側にやってきたセフィリアは、オーウェンに不敵な笑みを浮かべる。


「ジャック?」


「おう! 分かってるぜ!」


 ジャックの言葉に頷いたセフィリアはオーウェンに何事か耳打ちをする。

 その言葉聞いたオーウェンは大いに動揺し、サラは赤面する。オーウェンは意を決したようにジャックへと歩み寄る。ジャックは腕を組みいつもの不敵な笑みを浮かべる。


「シバルバー」


『なんだ?』


「オーウェンはお前に用事だってよ!」


『私に……?』


 二人の会話が終わる頃、オーウェンはジャックの前に立ち、何度も何度も深呼吸をすると大声で叫んだ。


「お義父さん! 娘さんを僕に下さい!」

 

 シバルバーは歴史上初めて人類に娘を嫁がせた機械生命体となり、オーウェンの人生最大ミッションは幕を閉じた。

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ファントム・ジャック Ⅰ ~解放されるもの~  ARUS @arus0115

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