最終章 9話 昔話
「ジャック!」
突然、飛び込んできたセフィリアを受け止めたが、支える事ができずにそのまま背中から崩れ落ちる。
「あらあら? 私、太ったかしら?」
「いてて、セフィリア。さすがの俺も体力が残って無い……」
「そうなの? ふふふ、これはチャンスじゃない? 今ならジャックに勝てるかも!」
「俺がセフィリアに勝った事は一度もないさ……」
「本当かしら?」
「惚れた弱みでいつも負けてる」
笑顔を交わす二人の下に、オーウェンとサラが近付く。
「お疲れ様です。ジャックさん」
「オーウェン、お前、よくドラゴン型に勝ったなぁ」
「サラの協力のお陰ですよ」
「えっ? 違うよ! オーウェンが凄く頑張ったからでしょ?」
「また、のろけ話が始まったぜ」
「ジャックさん、今のお二人の姿を思い出しても、そんな事いえます?」
「ああ~」
ジャックに抱き付いて笑顔を浮かべるセフィリアを見ると、ジャックは観念したようにオーウェンに向き直る。
「ちくしょう。こりゃ~オーウェンに一本取られたなぁ」
「はははっ」
「しかし、ミラージュの奴、最後の最後でバランスを崩したようだったが、あれが無ければ俺は突き抜かれて負けていたとはずだ……」
「ちょっと、待っていて下さい」
ジャックの言葉を聞いたオーウェンは、周囲を観察しつつミラージュも調べていく。
「と、一本で思い出した。シバルバー?」
『どうしたジャック』
「この、ミラージュの剣には、あいつの思念みたいなのは残ってのか?」
『少し待て…………』
ジャックの突然の言葉に、シバルバーの言葉を全員が静に待つ。
『いや、完全にあ奴の気配は消えておる……』
「そうか、そんじゃ……」
ジャックは抱きつくセフィリアを――振り払うことに失敗して――彼女に付き従われるようにして立ち上がると、機能停止したミラージュから太刀と抜き取る。
「ジャックさん、俺の憶測ですけど……」
そこに周囲の地面を調べていたオーウェンが戻ってくる。ジャックは話の続きを促す。
「恐らく、これに足を取られたのだと思います」
オーウェンの右手の指に付着した物をジャックは見つめる。
「俺の血か?」
「はい……」
「そうか、俺の血か……」
『私たち機械生命体には宿っていない血潮に敗れたのだな……』
「そうだなシバルバー」
シバルバーにそう応えるとジャックは静に歩き出す。その先には右腕と両足を失っていたキングの姿があった。
「ふぅ~」
キングの隣にジャックは腰掛ける。その側にセフィリアも寄り添うが、彼女は治癒能力を使い始めた。
「少しだけしか使えないけどねぇ。止血くらいなら」
「ありがとう頼む」
オーウェンとサラもその場に集まる。キングを中止に輪を描く。
『哀れみか?』
今まで言葉を発しなかったキングが、沈黙に耐えかねるように口を開いた。
「いや、シバルバーの昔話の続きを聞こうとおもうってな……」
『ミラージュのことであろう?』
「そう言うことだ、あいつ何で「名前」があったんだ?」
ジャックは機能停止した漆黒の剣士ミラージュへと視線を向ける。
『あれは、私が最初に創り出したアンドロイド型試作1号機だ』
「試作ねぇ……」
『そして、暴走した機械生命体同士の戦争を引き起こした張本人だ』
「名前はどこで?」
『ミラージュに名前を与えたのは私だ』
「そうか……」
『アンドロイド型試作一号機通称「ミラージュ」。機械生命体の惑星防衛をメインにプログラムされた戦闘特化型だ。まだ「名」と「目的」の考えがない頃の……な』
「それで、あいつはどこにいたんだ?」
『戦闘を引き起こした張本人として、地下深くの牢獄に幽閉した。出入り口は亜空間で鎖されているので、脱出不可能の牢獄だったのだが……』
「この世に、不可能なんてないさ」
ジャックは遠く地平線を眺める。
あの地平線の先に空があり、空の先に宇宙があり、その宇宙の先の銀河を目指した人類の夢は不可能を可能にしてきた。
『諦めたら……そこで、試合終了……か』
「なんだ、それ?」
『さぁな……遥か昔の地球の記録にそんな言葉が登録されていた』
「そうか……」
ジャックは少しだけ笑みを浮かべると、キングに向き直る。
「それでキング、一応、聞いておくがお前が助け出したわけじゃないよな?」
『我は知らぬ……ある日、突然現れて……。それからは、父上と姉上に起こった事を我が実行したに過ぎぬ』
「あの日、銀河連邦使節団に俺の両親もいた……」
ジャックの一言に、オーウェンとサラ。そしてキングまでもが息を飲む。
「機械生命体の攻撃を受けた船に乗っててな。そこで両親とも死んだ」
ジャックの言葉は静に周囲に響く。
「まぁ、俺はシバルバーに救われたんだが、その話はまた今度にするさ……」
「え?」
ジャックの言葉にオーウェンは驚く。
「いや、これ以上、この話をひっぱると、セフィリアが自分の過去話始めそうだ……」
苦笑を浮べるジャックの視線の先には、少し頬を膨らませるセフィリアの姿があった。
「まぁ、それが本題ってわけじゃないからなぁ」
再びキングに向き直りながら、ミラージュの剣を手に取ると立ち上がる。
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