最終章  8話  終焉

「幻?」


「そう、あれはジャックの作り出した幻……」


 サラの質問にゆっくりとセフィリアが答える。彼女はまだ立つ事は出来なかったが、いくらか体力も回復したのか言葉もハッキリとしていた。


「私の能力の全てを凝縮した特殊な光と、シバルバーさんの仮面の補助。そして、ジャック自身が鍛えぬいた強靭な精神と肉体……」


 彼ら3人の前ではさらに速度を上げて太刀の攻撃繰り出すミラージュと、それに勝るほどの幻影でミラージュの攻撃を与える二人の戦いが繰り広げられていた。


「あの技は、ジャックだけが使用できる技なの……」


 そんな戦いを見守りつつ、セフィリアは静に語る。


「私たちラフェニア星人のみが持つ治癒能力。でも、は誰にでも使えるってわけじゃないのよ?」


「そうなんですか?」


 オーウェンの問いにセフィリアは答える。


「そうなのよ?だって、今の私を見れば分かるでしょ?あれを使っちゃったら、動けなくなるんですもの。よほどの事がなければ使いたくないし……」


 セフィリアは激戦を繰り返すジャックを視線に捕らえる。


「信頼関係がなければ、使えるものじゃないもの……だから私とジャックは一心同体……ジャックが死ぬ時は、私も死ぬ……」


 セフィリアの言葉が意味する事を、オーウェンもサラも理解できた。

 セフィリアが全身全霊をかけて繰り出した特殊能力の使用が負ける、或いは彼女を裏切ることがあれば、一時的にとはいえ体力を使い果たした彼女には、相手に抵抗することは出来ない。

 

「愛ですね!」


「さすが、サラちゃん! 愛でしょ?」


 その場に似合わない笑顔を浮かべる二人と同様に、オーウェンにも戦いの終焉が近付いていることが感じられた。


亡霊ファントムのように現れ、幻影ファントムのように実体も掴めない。だから、人は彼をこう呼ぶの」


セフィリアは自愛に満ちた眼差しをジャックに向けると静かに囁く。


「仮面のハンター。ファントム・ジャック……と」


 ジャックの作り出す幻影の数が減ってくると同時に、ミラージュの全身の隅々からも白く噴出す煙が見える。


「どうしたミラージュ……煙、吹いてんぞ?」


『だまれ! お前こそ残像の数が減ってきているではないか……』


「おお! さすが、俺の幻の正体に気がついたか!」


 ジャックは残像が残るほどの超高速移動を行うことで、幻を作り上げていた。

 それはセフィリアの身体能力強化の秘儀と、ジャックの強靭に鍛えられた肉体。シバルバーの高速処理能力による動きの計算が組み合わさった結果だった。


『ぬがっ!』


 ついにミラージュ機能が限界を迎える。片膝を地面につき、太刀を地面に突き刺すことで転倒は免れたが、その全身からは白い煙が凄まじい勢いで噴出す。あまりの高速稼動による熱暴走を起した現象を表していた。


「よくここまで持ちこたえたぜ……」


 ジャックもミラージュの前に姿を現す。彼の全身からも血が滴り落ち、二人の周囲の地面には血が飛び散っていた。


で決めるか?」


『よかろう……』


 ミラージュはゆっくりと立ち上がると太刀を正眼に構える。ジャックも左手にスパナ式弾丸銃を、右手に銃剣を構える。


「来い!」


『おおおおおお!』


 ジャックの言葉にミラージュは咆哮を上げると地面を蹴り跳躍して、ジャック目掛けて突進を開始する。ジャックはミラージュの突進突きをギリギリまで引きつけて回避する。

 ミラージュの剣先がジャックの胸部を切り裂く。

 だが、ジャックが左手のトリガーを引くと弾丸が発射されミラージュの胸部中心で固定され回転を始める。

 ジャックは血飛沫を上げながらも、ミラージュの背後を円を描くようにすり抜ける。

 ミラージュも体勢を立て直してジャックに向き直るが、それよりも先に彼の胸部にはジャックの右手の銃剣が固定される。

 その先には彼のコアがむき出しの状態になっていた。ジャックのスパナ式弾丸により、胸部の装甲が剥がされたのだった。


「悪いな……。今の俺は残念ながら幻じゃねぇ……」


『我は幻影ミラージュ…………何度でも蘇るさ……』


 ジャックは静にトリガーを引く。

 そこから実弾が飛び出すとミラージュのコアに直撃する。

 ミラージュのコアは砕け散り。彼の身体は一瞬だけ弾むような動きを繰り出した後に、静にその場で機能を停止した。


 ミラージュとの長く苦しい戦いは幕を閉じた

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