第三章  7話  オーディンの槍

「なんだオーウェン。お前らバージンロードでも歩く練習でもしてるのか?」


 武器庫から艦橋へ移動した三人だが、セフィリアを先頭に艦橋に姿を現したものの、先程のトゥールの言葉が頭から離れず。二人は寄り添うに歩いていた。


「あっ! いえ!」


 ジャックに指摘され二人は慌てて距離を置いた。


「もぉ~ジャックったら、せっかく私が気を聞かせてそのまま連れてきたのに……」


 セフィリアは不満を漏らしながらも、ジャックと視線を交わす。そして、ジャックの傍らに立つと彼のたくましい左腕に、自らの腕をからませた。


「そいつは、すまなかったな……」


 自らの腕に寄りかかるセフィリアの行動で彼は全てを理解した。ラウルスの周囲ではさらに激化した戦闘が行われていたが、二人の間だけ時が止まったように見えた。


「さて、そろそろ決着をつけに行かねぇーとなぁ」


 ジャックはセフィリアに笑みを浮かべると軽快に言い放った。彼女も笑顔を返すと彼から離れると、後方の船長席へ座る。


「オーウェンは右の席、サラは左だ。少し距離があるからカップルの二人には辛いかもしれないが、我慢しろよ?」


 先程のショックからまだ立ち直っていなかったオーウェンだが、ジャックの冗談で普段の彼を取り戻すとサラの頭を撫でてから席に向った。

 突然の彼の行動にサラは赤面しつつも席に向かい。ジャックは口笛を吹いて茶化した。


「さて、お熱い二人に負けないよう……俺たちも燃えるぜ!」


 ジャックの掛け声に再び船内に歓声が起こる。


(今は考えるのよりも行動しよう)


 オーウェンは席に着くと機器を操作して戦況を確認した。連合艦隊にも被害は出ているが敵の船団にも同等かそれ以上の被害が出ていた。戦況は五分五分。


「高エネルギー反応! 敵、主砲来ます!」


 リルの声でオーウェンはメインスクリーンに映し出された敵旗艦から放たれる、高出力レーザーの光を確認する。

 幸いにもこの攻撃で味方艦に被害は出なかったが、あの攻撃がある限り戦況は五分五分のままで動かず――。


「このままだと、ジリ貧だな……」


 ジャックの言葉にオーウェンは頷いて同意した。


『同感だな。あの攻撃兵器がある限り、相手もこちらの誘いに乗るまい……』


「だな……」


 当初の作戦通り艦対戦で有利に立ち、氷の惑星にキングをおびき出す――には大型レーザーを無力化しない限り、連合艦隊が不利になってしまう可能性が高い。


「サラ。すまないがそこのレーダーで敵旗艦後方を索敵してくれ」


「はい!」


「オーウェン。主砲の攻撃はお前に任せる」


「了解しました!」


「ジャックさん! 後方宙域に艦あり!」


「数は?」


「数5隻……識別は味方戦艦です!」


 サラの報告に歓声が上がり、ジャックは大きく頷く。


「リル、通信チャンネル開放!」


「開きました!」


「みんな、生きてるかぁ?」


 ジャックの言葉にいつのもようにハンター達から返答が返ってくる。


「何とか生きてるぜぇ。もっともこっちも全員無事ってわけじゃないけどなぁ」


 ジャックの言葉に返事を返したのは古参のハンターだった。確かにメインスクリーンには先程までと違い通信モニターに映し出されない画像が何枚か見受けられた。


「だな……。だが、どうやらデートに遅れた可愛い子が到着したみいだ」


「ほう……。楽しい楽しいデートの始まりだなぁジャック!」


「ああ、デートの相手は早い者勝ちだ!」


「そうこないとなぁ! で? デートコースは決まってのか?」


オーディンの槍グングニルを使う……」


 ジャックの一言にハンター連合からは驚きと歓声が上がる。


「仕方ねぇなぁ! 俺らがエスコートしてやんよ!」


 ハンター連合から歓声が上がりジャックも愉快そうに笑う。

 オーウェンを始め軍関係者は事の成り行きについていけずに見守るしかなかったが。


「提督。中央を抜きます……」


「うむ、そうか……」


 ジャックの一言に提督は笑みを浮かべるとジャックの意図を理解したのか頷く。


「後方の艦隊が発砲!戦闘開始確認!」


「合図だ!」


 敵旗艦の後方から現れた戦艦は市民の避難船団を護衛していた艦艇だった。事前にジャックは提督と密かに打合せをし、どうせ遅れるなら敵の背後をつく進路を決めていた。

 だが、戦闘に間に合わないかもしれなので、その作戦はハンター連合には知らせていなかった。


「さぁ、みんな! しっかりエスコート頼むぜ!」


「おおおおお!」


 ジャックの言葉を掛け声に合わせて様々な雄叫びが上がると、ラウルスをその場に残して連合艦隊の一斉反撃が始まる。


「ジャックさん、オーディンの槍を使うって?」


 オーウェンの質問に彼を見つめ返したジャックは、一瞬考えるような仕草をするが、すぐに不気味な何か思いついた笑顔になる。


「すまんなぁオーウェン……。俺の言い方が悪かった。使うじゃねぇ……」


『形態変形開始』


 シバルバーの声が響くと同時に、ラウルスの船体が変形を開始する。船首には左右の装甲板からが覆いかぶさるようになり、鋭利な船首へと変更をとげる。

 両翼も折りたたむように収納され、艦橋も移動し船体上部に収まる。ラウルスは鋭い一本の槍のような形状へと移行した。


「ま……まさか?」


 オーウェンの言葉にジャックは満面の笑みを浮かべる。


「舌~噛むなよ?」


 敵後方から現れた味方の奇襲艦隊の攻撃により、敵艦隊の挟撃に成功した連合艦隊は勢いを増し、次々と敵を蹴散らすとラウルスの前方に道を切り開く。


「全エネルギー。船首防御シールド及び、メインエンジンに集中!」


「いくぜぇ! 全員、掴まってろよ!」


「やっぱりかぁああああああああああ」


 ラウルスはエンジンを最大出力まで高めて一気にエンジンを噴射する。高速に適した形体に変化したラウルスは、戦場を切り裂くように真っ直ぐに飛び続ける。

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