第三章  8話  徒花

「船首防御シールド! 出力80%にダウン!」


「かまうな! このまま一気にいくぞ!」


 船首は触れる敵は船首を強化固定した鋭角と速度で切り裂かれていく。ラウルスに触れる物はすべで切り裂くと、敵旗艦に接近し主砲の射程距離に入った。


「敵旗艦から高エネルギー反応!」


「アンカーボルト射出!」


 リルの叫びにジャックは命令を下す。

 船首下部から先端がモリ状のアンカーが敵旗艦に打ち込まれる。それはラウルスにレーザー光に似た光の帯で繋がっていた。


「緊急急上昇後! メインエンジン停止!」


 敵旗艦直前で急上昇したラウルスは突撃の勢いを利用して高速で急上昇を行うことができた。

 直後、ラウルスの船体を霞めるように敵の高出力レーザーが通過する。

 ラウルスはそのまま勢いよく敵戦艦から離脱する――はずだったが、敵船体に打ち込んだ巨大モリの光の帯が船体を引き止めるようにしなる。

 ラウルスは敵旗艦に突き刺さったモリを中心に半円を描く様に移動する。


「おおおおぉおお」


 船内の衝撃も凄まじく乗組員に掛かる負荷も大きかった。


「逆噴射!」


 ジャックは懸命に叫ぶと、急降下エンジンが点火し船体の勢いと止める。


「オーウェン!」


「主砲! 敵、高出力レーザー砲塔ロック完了!」


「うてぇええええええ!」


「発射!」


 オーウェンが主砲を発射したのと同時に、敵旗艦に突き刺さっていたモリが外れる。

 主砲の高レーザーは3門の光が交じり合い一点集中すると、巨大な光の筋を構成すると敵旗艦を貫通し、光の尾を残して消えていく。


「…………」


 戦場が静寂に包まれる。一瞬の間を置いて敵旗艦は貫通した穴から大爆発が起きた。


「よぉおおおおおし!」


 ジャックを初めラウルス乗組員と連合艦隊から大歓声が起きる。

 しかし、船内に警報音が鳴り響く。リムは慌てて計器に目を向ける。


「そ……そんな! 高エネルギー反応です!」


 再び戦場は耳鳴りがするような沈黙に包まれる。その場に居合わせた全ての人々がリルの言葉の意味を理解するのに思考が追いつかない感覚に陥る。


「やらせはせんよ!」


 だが、そんな中でも提督の駆る旗艦だけは行動を起していた。ジャック達がその声を聞きメインスクリーンから彼等の視界に飛び込んで来たものは――。


「トレイダー提督!」


 今、まさに新たな発射口が開き終わり。無防備なラウルスをあざ笑うかの如く高出力レーザーを発射しようとエネルギーが集約し、淡い光を放ちつつある場所に突撃を慣行する友軍旗艦の姿だった。


「後は頼んだぞ! 若者達!」


 提督の声が戦場に木霊する。

 彼は最期の瞬間に彼と運命を共にした艦橋内の勇士の顔を確認する。

 皆、自分と同じ老兵であった。

 この旗艦には退役間近な兵士しか乗艦を許していなかった。そして彼等は皆、満足そうに微笑んでくれた。


「皆、ありがとう……」


 直後、彼の旗艦はレーザー発射口に衝突し、集約を開始していたレーザーの威力をも引き込んで大爆発を起した。


「トレイダー提督!」


 大爆発の爆風に飛ばされたラウルスはすぐに体勢を立て直すと、戦闘形態に変化を開始する。

 その間も敵旗艦は大誘爆を繰り返していた。敵軍団は指揮系統の乱れからもはや反撃の意思もなく、ただ飛び回る哀れな機械と化していた。

 この日、この戦いに参加し生き残った全ての人々はこの時の光景を一生忘れる事はないと家族に愛する人々に語ったという。


「提督、ならびに旗艦全乗組員に敬礼!」


 オーウェンは立ち上がると声を上げて敬礼を促した。それは、連合艦隊全ての人々の気持ちを一つにし、彼等の尊敬する人々の死に敬意を表した。

 ジャックは静に敬礼を解くと目を見開く。


「まだ。終わってない……」


 尚も爆発炎上を繰り返している敵旗艦を睨みつける。そこに肉眼では確認しようもないが、確かに存在する。ある巨大な敵の姿が見えているかのように――。


「提督が命を賭けて用意した舞台だ……」


 ジャックの言葉が終わると、彼の右顔を覆う仮面に紅い光が灯る。


 『さぁ。決着をつけようか? キング』

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