第四章  キング

第四章  1話  決戦の地

 深く青い色を称える遥か彼方に浮かぶ故郷の星と違い。深く淡い翡翠色を湛える海と氷に覆われた惑星ヒュノス――。


 そこがジャックがキングとの決戦に選んだ場所だった。彼とセフィリア。そしてオーウェンとサラの四人は、大型の戦闘輸送機を利用してすでに惑星に降り立っていた。

 よく晴れた穏やかな空の下。ジャックは両腕を組み、目を閉じて直立不動だった。

 その背後には戦闘輸送機のすぐ近くに待機するオーウェン達の姿もあった。


「きますかね?」


 真っ黒な金属製の鎧に身を包んだオーウェンとサラは、普段を変わらないセフィリアに問い掛けた。


「ジャックとシバさんが待っているのだもの、必ず来るわ」


 口調こそ普段と同じく柔らかだが、その言葉には確固な自信に満ちていた。


「あのセフィリアさん、お二人はその普段と同じ格好で?」


「え?ええ、そうよ。ふふふ……サラちゃんも、オーウェンも良く似合っているわよ」


「まるでペアルックね」と穏やかに笑うセフィリアに、これから始まる戦いを前にしても緊張が解けてしまう。或いはセフィリアは彼等の緊張を解しているかもしれない。

 オーウェンとサラは黒に統一されたトゥール製作のクィーン装備と命名された武具に身を包んでいた。オーウェンの武器は彼の得意とする武器の光剣。左手には盾を装備する。

 サラは両手持ちのレーザー銃だった。どちらもクィーンの部品を動力源に使っているらしく、通常の武器とは威力も性能も桁違いとのことだった。


「いい? キングと戦いになったら、自分の身は自分で守るのよ?」


 セフィリアの言葉に二人は力強く頷く。ジャックを含め寒さ対策の冷機遮断装置で発生した薄いバリアに全身を包まれているので、寒さは感じないでいた。

 オーウェンは視線を再びジャックに向ける。風になびく黒髪と同じく黒衣のマント。そこから覗く両腕はたくましい筋肉で覆われている。腰に装備した風変わりな武器や計器が目に入る。初めて彼と出会った時と同じ出で立ちだ。


(あれからまだ2週間くらいしか経ってないのにな……)


 クィーンに襲われ、サラを傷つけられ死を覚悟した彼の前に颯爽と現れた人物こそ、ハンターギルドでも有名はファントム・ジャックその人だった。

 オーウェンが物思いに浸っていると、ジャックはゆっくりと目を開く。


「来るぞ……」


 彼が言葉を言い終えると同時に、ジャックの前方に大きな巨大な塊が降ってきた。落下の衝撃で周囲の雪が舞う。

 しだいに舞い散る雪が消え、そこに着地した巨大な物体が、ゆっくりと上体を起す。その大きなにオーウェンは愕然とする。

 ジャックは両腕を組んだまま不敵に笑みを浮かべる。


「お前、どう言うつもりだ?」


 静だが怒気の篭もったジャックの言葉だが、巨大機械生命体は何も応えない。その全貌が次第にハッキリと確認出来る様になる。


「ドラゴン……」


 姿を現したのは巨大なドラゴンを模した機械生命体だった。両翼をゆっくりと広げるその姿は威厳さえ感じられた。3人はすぐにジャックの側に駆け寄る――が、ジャックは右手を上げると3人を制止させる。


「お前らは、そこにいろ」


「ジャックさん!」


 ジャックの元へ歩み寄ろうとするオーウェンの腕をセフィリアが掴み制止する。


「セフィリアさん?」


 彼女はオーウェンに微笑むと、ジャックの背中に声をかける。


「存分にジャック」


「さすがセフィリア……愛してるぜ?」


「知っているわ……私もよ」


 ジャックはその言葉を聞くと振り返らずにドラゴンタイプへ駆け出した。


「少し下がるわ」


「は……はい!」


 セフィリアの普段とは違う雰囲気に二人はそれ以上何もできずに後退する。そんな二人を気遣うように彼女は静に声をかける。


「大丈夫よ。あなた達の出番はまだ先だもの」


「え?」


 セフィリアの言葉にオーウェンが疑問の声を出したのと同時に、ドラゴンは咆哮を上げる。

 3人は十分な距離を後退し、ジャックの戦いを見守る。


「シバルバー。早めに済ませたいところだが、どう思う?」


『それで良いと思うが、視野だけは広くな』


「わかってる……つもりだ」


『普段になく謙虚だと、逆に心配なのだが?』


「ふん、言ってろ!」


 ジャックはシバルバーの冗談に笑みを浮かべるが、その目はドラゴンの姿から一瞬たりとも離れる事はない。

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