第四章  2話  キング

 ドラゴンは長い咆哮を終わらせると上体を反らす。するとドラゴンの口元にチカチカと赤い光が輝き出す。

 しばらくその状態で停止していたが勢いよく上体を下げると大きく残忍な口を開きブレス攻撃と呼ばれる火炎を吐き出す攻撃を繰り出す。


「予想通り!」


 ジャックはそのブレスの炎を右に跳躍しつつ退避する。

 しかし、ドラゴンは己の首をジャックの回避する方向へ向ける事で、彼に追従する攻撃を繰り出す。

 ジャックはその動きも読んでいたのか、炎が届く前に左手に構えたスパナ式銃をドラゴンの左翼にあるかぎ爪めがけて放つ。スパナ式弾丸は狙い違わずかぎ爪に命中する。そしてその弾丸には丈夫な金属製のワイヤーが取り付けてあった。


施錠ロック!」


 スパナ式弾丸が固定される音が響く、その後、ジャックは左手の親指で銃本体にあるボタンを素早く押す。すると凄まじい勢いでワイヤーが巻き上がる。ワイヤーは巻き上げながらジャック自身も勢いよく引っ張り上げる。

 彼はワイヤーの巻き込みで空中を高速で移動しながら、右手で腰の銃剣を抜き放つと、ドラゴンの左目に向けて発砲する。


「ギィヤアアアアアアアア!」


 ジャックの放った弾丸が左目に着弾すると、ドラゴンは凄まじい咆哮を上げる。その間にもジャックはワイヤーで巻き上げられ、翼のかぎ爪に近付く。


解除パージ!」


 彼の言葉と同時にかぎ爪から解き放たれたスパナ式弾丸は、左手の銃身へと戻る。

 空中に投げ出された格好になったジャックだが、そこで空中反転を行うと、右手の銃剣を逆手に構える。


「ブレイド!」


 その言葉に銃剣から青光レーザーソードの刃が出現する。その刃をドラゴンの翼に突き刺すと、左手でスパナ式銃を握ったまま右手に添えると、自らの全身の重みと落下を利用して翼を引き裂きながら落下する。


「おらあぁああああああ!」


 雄叫びを上げながら翼を切り裂き落下速度を相殺する。地面が近付いてきたのを確認するとジャックはレーザーソードの刃を消し、両足で翼を蹴り跳躍すると受身をとって落下の勢いをさらに打ち消す。そのまま素早く前方へ跳躍し、回転を利用し静に立ち上がる。

 その瞬間に、先程まで彼が着地した地点にドラゴンの前足が埋まっていた。

 ドラゴンは左目から煙を噴き上げ、左翼に大きな傷を受けながらもジャックの着地地点に対して右前足の巨大な爪を繰り出していた。


「どうした?」


 ジャックの言葉に彼へと視線を向けるドラゴンの右目には怒りの表情が浮かんでいるように見える。


『もう、よい……』


 その時、どこからともなく機械音声が響く。

 ジャックは再び両腕を組むと不敵な笑みを浮かべる。その視線の先に光の柱が浮かぶ。眩いその光はやがて人の形を形成する。


?俺もなめられたもんだぜ」


 ジャックはその光に話かける。光は静かに薄れ光が完全に消えたそこには一人の人間が立っていた。


「人間……?」


『人間などと同じに見えるとは、情けない限りだ』


 オーウェンの呟きに現れた人は答えるとドラゴンタイプを制止しジャックへと近寄る。


「機械生命体……?」


『お前達の言語では我等の種族名は発音できぬからな……。その呼び名で許してやろう』


 その姿がハッキリと確認出来る様になる。

 確かに彼は白銀の戦闘服を来たような格好であるが、その顔は仮面に覆われているように見え、目は輪郭のみが怪しく光輝く。そこからは鼻と口らしきものは見当たらない。


「話をしている……?」


『当然だ。下等生命体よ』


 オーウェンの言葉に人型機械生命体は素直に答えると、再びジャックへと向き直る。


『久しいな……ジャック。それに、シバルバーと呼べばよいのか?』


『好きに呼ぶが言い』


『では、そうさせてもらうよ。


 その言葉にジャックは目を細め、オーウェンとサラは驚愕の表情になる。


「ち……父上?」


『オーウェン……。遥か遠い昔の話だよ……』


 オーウェンが無意識に出した呟きに、シバルバーは優しく応える。


「それで、キング。お前の目的はなんだ?」


 ジャックはキングを睨みつけながら問いかける。


『知れた事……人類の抹殺……』


 キングは当たり前の事を聞くなと煩わしそうに答えた。


『私はそこの父上……。シバルバーとは違う』


『どう違うと?』


『哀れシバルバー。我等の誇りを失いし愚か者よ……』


 淡々と会話を交わしながら、キングは右手を翳すと光が包み込み、その光はドラゴンタイプの左目と左翼に吸い込まれる。次の瞬間、ドラゴンタイプの傷は全て復元した。


『見ろ。我にかかればこのような傷……傷と呼べる物でもない』


 キングは再びジャックへと視線を向ける。


(微笑んでいる……のか?)


 オーウェンにはキングが微笑んでいるように見えた。いや、感じたと言った感覚が正しい表現なのかもしれない。


(トゥールさんの憶測は正解していた?彼らにも感情はある?)


「飲み込まれるなオーウェン!」


 ジャックはキングから視線を外すことなくオーウェンに言葉をかける。


(そうだ……俺はすでに「彼ら」と表現していた……「生命」を感じ「心」があると思い込んだ瞬間に……だ)


 オーウェンの背中を詰めたい汗が流れる。キングの会話を聞き入っているだけで、相手の事を知ったつもりになり、感情を感じて心があると思い込んでしまった。


(まだだ……まだ見極めなければ……)


 オーウェンの心の動揺が収まるのを感じたジャックはキングに語りかける。


『で? シバルバーが失った誇りとは何のことだ?』


『知れた事よ。下等な限りある命しかもたぬ野蛮で、無知で、救いようのない人類をこの宇宙から根絶やしにする』


『それがお前の誇りか?』


『そうだ。シバルバーの娘であり、我の姉を容赦なく殺した罪が人類にはある』


 オーウェンとサラの二人はトゥールの言葉を思い出していた。

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