第一章  4話  狩りの終わり

 そして、ジャックの骸骨がいこつにも思える右顔を覆う仮面の闇の深淵しんえん彷彿ほうふつさせるその場所が、再び怪しく真紅に輝き始める。


「紅い眼……緋眼ひがん?」


 オーウェンは無意識につぶやく。ジャックの紅く光る眼は、獲物に止めを刺す死神のように不気味に感じる。


「…………」


 サラの治癒を行っていたセフィリアは一瞬だけオーウェンを振り返ったが、再び意識を集中してサラの治癒を続ける。


 ジャックはノイズ弾で怯むクィーンに一直線に突き進み、素早く左手を構えると再びスパナ式銃を発射する。スパナ式銃弾はクィーンの腹部後方に吸込まれる。


施錠ロック


 ジャックの掛け声と同時に「ガキィ」と金属音が響く。


回転スクロール


 高速で回転を始める弾丸に向かいジャックはさらに加速し、クィーンとの距離を縮める。


(あの場所には何もないはずだけど……)


 一切の迷いも見せずにその場所へ突進するジャックの姿を見守りながら、オーウェンは状況判断を繰り返していた。

 新兵とはいえ彼は正規の訓練を受けている。クィーンの構造はある程度判明しており、そのデータは訓練で教わっていた。


解除パージ!」


 三度みたび、ジャックの声が戦場と貸した街中に響き渡る。

 そのコマンドと同時にクィーンの外甲の一部が弾け飛ぶ。そこには真っ赤に光輝く球体が現れた。


コア!!」


 その球体が目に入り込んで来た瞬間に、オーウェンは驚愕の声を上げる。

 機械生命体には生物の心臓の様な核と呼ばれる物が存在する。

 しかし、機械生命体の核は人間と違い個々によって場所が固定されていない。その核を捜す事が困難であるため、人類は機械生命体に苦戦を強いられる。

 驚き、思考が固まりかけたオーウェンの眼前では、ジャックがクィーンの核に静かに接近すると、まるで流水のように滑らかに右手に銃を持ち替え構える。


破壊クラッシュ……」


 不適な笑みを浮かべると、彼は銃のトリガーを引く。

 瞬間、赤い光線がクィーンのコアを貫き、背後から一筋の光の筋が青空へと消えていった。

 クィーンはその巨体を大きく反動させ、動かなくなる。


 ――死の女王から、静寂が支配する世界に変わる――


 永遠にも思える数秒が過ぎる頃、クィーンは静かに機能を停止した。


「ハント終わり……と」


 ジャックの一言で再び時間が動き始める。生き残った兵士達は歓声をあげる。ジャックは笑顔で兵士の歓声に答えつつ、オーウェンの元へと戻ってきた。


「どうだぁ、セフィリア?俺の仕事は終わったぜぇ。そっちは?」


 あまりの出来事にまだ思考がついていけないオーウェンを尻目に、両手の銃をホルダーに収めながらジャックは声をかける。


「こっちも終わり、この子の治療は終わったわ」


 セフィリアも笑みを浮かべて立ち上がると、ジャックに返事を返す。その言葉が耳に入った瞬間にオーウェンは胸の中に溜め込んでいた空気を吐き出す。


「あらあら、あなた呼吸するのを忘れていたのかしら?」


 彼女はオーウェンの姿に笑顔を浮かべながら彼の横を通り過ぎると、ジャックに向き直る。「さすがだな」とセフィリアにジャックが返事を返す。

 オーウェンはすぐに振り返ると穏やかな表情で眠るサラの姿に再び安堵する。


「じゃ、私は他の怪我人の治癒にいくわ」


「おう、よろしくな!」


 セフィリアの声にジャックは片手を上げて応える。見送るセフィリアの歩みが止まり。


「そうそう、忘れていたわジャック。彼……」


 歩みを止めたセフィリアは視線をオーウェンに向ける。

 その視線を追うようにジャックも視線をオーウェンに向けた。二人の視線を感じたのか、オーウェンはサラから視線を外すと、ジャックとセフィリアへと向き直る。


「彼、見えていたみたいよ? が……ね。それじゃ」


 セフィリアは軽く笑みを浮かべる。


「ほう……」


 セフィリアの言葉に鷹揚に頷くと、ジャックはオーウェンに近づく。会話は聞こえていたものの、会話の意図が読めないオーウェンは困惑していた。


『今もわたしの眼がみえるのかね?青年』


 突然の機械音声にオーウェンはジャックの顔を凝視しする。

 しかし、もちろん彼から発せられた声ではなかった。気のせいではないと思うが、その声はジャックの右顔を覆う仮面から発せられた。

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