第一章 5話 宇宙連邦広域ハンター
(今の声はいったい……? 今までの人生でこれだけ驚いた日はないぞ……)
「騙されないでその声は、腹話術よ」
「えええぇ?」
セフィリアの一言でオーウェンはさらに混乱する。
(え? ええ? 腹話術って、大昔の……この人が一人で声出してるの?)
完全にパニック陥るオーウェンを見てジャックは苦笑を浮かべる。
「冗談に決まってんだろ? 青年。お前さん、セフィリアにからかわれてんだよ」
『まったく、お
ジャックと仮面(?)の二人のため息交じりの声に、セフィリアはペロッと舌を出して笑顔を残して歩きだした。
恐らく別の負傷者のところへ向かったのだろう。
「あの美人顔で、あんな仕草されたら……。どんな男でもイチコロだな」
『お主と意見の合う数少ない事例だな』
「悪いな青年。こんな状況で不謹慎かもしれないが、あいつなりの優しさなんだよ」
幾人も戦死者が出ているこの場所で、冗談を口にするのは不謹慎かもしれない。しかし、彼女は落ち込む自分の気持ちを考えて、あえて口に出した事はオーウェンにも理解できた。
「しかし、セフィリアもわかってないよなぁ」
『まったくだ』
「何をですか……?」
ジャックと仮面の声に、オーウェンは聞き返す。その質問にジャック不適な笑みを浮かべると、オーウェンに向き直った。
「俺」
「『決まってるだろ。 の方が男前だ』」
『私』
ジャックと仮面の男は一人称こそ違えど、同時に同じ言葉を発する。その言葉に唖然とするオーウェンを尻目に、二人は口論を始めていた。
しばらく、その光景を見ていたオーウェンは我に返ると先程の質問と疑問をぶつける。
「あ……。あの! 眼が見えるって? その仮面の紅い光ですか?」
オーウェンの言葉に、ジャックと仮面は口論をやめる。
「ん? そうだ。見えてるみたいだな青年……と。まずは自己紹介しないとな! 俺の名はジャック! 宇宙連邦広域ハンターギルド所属のフリーのハンターをやってる。それらか彼女はセフィリア。まぁ、さっき言った通りラフィニア星人で治癒担当のハンターだ。で……」
『シバルバーと申す』
最後には仮面が名前を名乗る。ジャックの右顔半分ほどしか存在しないが、恐らくどこかに音声再生装置がある……と、オーウェンは思うことにした。
「オーウェンです。銀河連邦軍少尉、対機械生命隊所属です」
「さて、自己紹介も終わった所で話の続きと行きたいが、お譲ちゃんをそのまま放置ってのも気が引ける」
ジャックの言葉にオーウェンは再びサラの様子を確認する。彼女は眠っているようで穏やかな表情も変わらず静かに寝息をたてていた。
「セフィリアの治癒魔法は確かだ。まず間違いはないが、一応、路面の上でってのはまずいよなぁ。オーウェン。医療施設のベッドまで運んでやんな」
「はい。そうですね。そうします」
ジャックの提案に、頭に浮かんでいた色々な疑問よりもサラを優先する気持ちになったオーウェンは、彼女を両腕で静かに抱きかかえる。
(こんな軽いのに無理して……)
クィーンを目の前にして放心状態に陥り、挙句にサラに命を救われた。
(ジャックさんや、セフィリアさんが助けてくれなかったら……)
自らの腕の中で静かに眠るサラの姿に、オーウェンは自分の不甲斐なさを改めて感じていた。そして、心から思う――。
(俺は強くなりたい!)
オーウェンは視線を上げる。その視線がジャックとぶつかる。
(そう! 俺もこの人のように強く! 大切な女性を守れる強さが!)
オーウェンの視線を受け止めていたジャックが不適に笑みを浮かべる。ジャックはオーウェンの眼に宿った決意を感じていた。それは、男なら誰もが一度は心に抱く想い。
(いい眼をしている)
ジャックの思念に『そうだな』と返事が返って来る。彼ら二人は声を出さなくてもお互いの思念だけ会話を交わす事が出来た。
(で、どう見える?)
(『私の眼が見えている時点で、資質は十分であろうな。』)
(だろうな……。それで、あっちの方は?)
(『十日から二週間と言うところか……』)
(十分だな)
オーウェンの視線を受けながら彼等の会話は続いていた。そんな彼等の頭上から轟音が響いて来た。オーウェンは視線をジャックから空へと向ける。視線に入って来たのは、遥か上空に姿を現した一隻の宇宙戦艦だった。
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