ファントム・ジャック Ⅰ ~解放されるもの~ 

ARUS

第一章  初陣

第一章  1話  初陣

「目標の宙域に到達しました。転送ゲートスタンバイ……オールグリーン。直ちに転送を開始します。第一小隊! 転送ゲートへ!」


 オペレーターが目的地への到着を共に、瞬時に転送準備作業開始を告げる。


 「各員、装備の最終チェック!」


 隊長の声が船内ブリーフィングルームに響く。その声に即座に5人の隊員は各自装備のチェックを開始する。


 (光剣……エネルギー残量よし! 光銃……装填完了よし!)


 腰に装着した光剣のエネルギーを確認し、両手に持つ光銃の装填数、予備エネルギーパックの確認作業をもう一度行う。まだ真新しいそれらの武器の準備は万全だった。


「すぅ……ふぅ」


 軽く息を吸って、静かに吐く……。そうやって高鳴る心臓の音を沈めようとする。


「どうした? オーウェン。初陣で緊張しているのか?」


 心配するなと声をかけ笑みを浮かべる先輩隊員に、何とか笑顔を返す……努力をする。


 だが、自分でも頬の筋肉が引きつっているのが分かる。そんな俺の姿を見た先輩はさらに大声で笑うと転送ゲートへ向かい転送を開始した。


(訓練通りにやれば大丈夫だ!)


 自分に言い聞かせると意を決して転送ゲートへと飛び込んだ。転送ゲート内では無重力状態になり、不可思議な光の道を通る。

 そして、光のトンネルの抜け地面に足が付いた感触と共に重力を感じる。次の瞬間。目の前には市街地が広がっていた。

太陽の光を一瞬だけ眩しく感じたが、すぐに視線を走らせ周囲の状況を確認する。


「ちょっと! オーウェン! そんなところに突っ立ってたら邪魔なんですけど?」


 背後の転送装置から声がかけられた。振り向かないでも聞きなれた……いや、嫌というほどきかされた声だった。


「はいはい! 邪魔でわるーございましたね! サラ」


「そうそう。そうやって道を譲ればいいのよ!」


 ため息混じりに答える俺に、サラは得意げな笑み(を浮かべてるはず)で隣に並んだ。綺麗に流れる金髪を後で結い、大きな瞳が特徴なサラは予想通り笑みを浮かべていた。


(こいつ……黙ってれば可愛いのになぁ……)


 横目でサラを眺めていると、オーフェンの不振な視線を感じたのかサラ視線をオーフェンに向ける。


「何……その目……。何か文句あるの?」


 サラの言葉に「するどい」と内心思いつつもオーフェンが弁解を試みようとした瞬間。


「緊急警報!緊急警報!熱源反応あり!全周波数で送信!」


 突然の緊急警報に二人は即座に左腕に装着してある立体モニターを起動する。ホログラム表示された市街地図に無数の光点が現れる。


「各員、戦闘準備!」


 隊長の声が響く。慌しく準備をする隊員達。オーウェンとサラは頷きあうと、すぐ目の前に設置された迎撃用土豪に光銃を構えて滑り込む。

 ヘッドセットのボタンを押すと、目を覆うゴーグルが現れる。ゴーグル越しに光点が閃き、近づいて来る敵の距離表示など様々な数値がせわしく変動していた。

 周囲は奇妙な静けさに包まれた。


 カッ……カッ……。カッ……カカッン……カカカッン!


 遠くから金属音が響く。その音が大きくなるのとシンクロするように、敵の距離を示す数値が少なくなり光点の数は続々増える。


「撃ち方用意!」


 静寂を打ち破るように隊長が命令を下す。しかし、再び静寂がその場を支配する事はなかった。前方から近づく音はすでに大音量へと変化した。敵との距離を現す数値は減少を続けていた。それは、敵との距離を縮まる事を意味する。


(大丈夫……。訓練通りに出来る!)


 オーウェンが再び自らに気合いを入れたのと同時に、射程距離に敵が侵入する。


「撃て!」


 隊長の号令が響くと同時に光銃から一斉にレーザーの美しい光線が発せられる。


自動ロックオン表示の敵に吸込まれるように光線が閃く。眼前で爆発音が鳴り響く。


(くそっ! 撃っても、撃っても光点が消えない!)


 オーウェンはゴーグルに表示される敵の数に焦りを感じていた。


 敵――機械生命体――


 敵識別表示コードは「四足歩行タイプ」。通称「アント」

 敵の尖兵ともいえる小型機械生命体で、一体の戦闘能力は低いが集団で行動する軍隊アリを彷彿させる。黒光りする円形のボディから四肢が生え、中心から光線を発して応戦してくる。


 「敵はアントの群れだ! 落ち着いて数を減らせ!」


 隊長の声はあくまで落ち着いていた。オーウェンは光銃を撃ち続け、一つ一つ光点をけしていくことだけに意識を集中させた。無限とも思えた光点も減り。やがて消えた。


「撃ち方やめ!」


「ふぅ~……」


 オーウェンは肺に溜まっていた空気を一気に吐き出した。新鮮な空気を吸込むと周囲を索敵する。敵を示す光点は一つ残らず消えていた。


「やったわね!」


「ああ……」


 声をかけてきたサラの方に顔を向けると、彼女は笑顔を浮かべていた。普段とは違い素直な表情を見せる彼女の笑顔は、彼女の本来の年齢に相応しい笑顔だった。


(やっぱり、黙ってれば可愛いのになぁ……)


 オーウェンがサラに笑顔を返そうとした瞬間……。


「緊急警報!緊急警報!あり!繰り替えず!反応あり!」


 再び警報音と共にオペレーターの悲鳴にも似た警告が聞こえた。


(コウネツゲンハンノウ……)


 その警告はどこか遠くから聞こえてくる間隔がした。それほどにオーウェンの思考は停止してしまった。


 ――熱源反応――それは、機械生命体の動力系からの熱量を調べ、敵の強さを数値化して測るために開発された技術だった。


「高熱源クラス!レベルB!タイプ・クィーン!」


 再び聞こえるオペレーターの声に、さらに思考が追いついていかない。機械生命体はその強さによってクラスが分類される。

 先程のアントはクラスE。最低ランクの敵だった。


 「な……、なんで、そんな化け物が……」


 隊員の誰かがかすれた声を出した。その声のする方へ視線を向けた瞬間――。


「ドガァーン!」と爆発音にも似た轟音が響き渡る。部隊の中心部に突如として現れた砂煙。

 砂煙を切り裂く様に現れた巨大な何かが一人の隊員に襲い掛かる。黒い塊は一瞬で隊員の姿をこの世から消し去った。同時に「グシャ」っと何かが潰れ、血飛沫ちしぶきが舞う。


「うあああああああああああ!」


 その光景で呪縛から開放された隊員達はパニックに陥る。砂煙が晴れ、それは姿を現す

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