現実世界に魔物が現れたのでブラック会社を辞めて魔法少女になりました~PCをカタカタするよりも魔物をボコボコにするほうが性に合っていた私、今更戻れと言われてももう遅い。今の仕事にやり甲斐を感じているので
第22話 これって恋なの?☆はじめてのひとめぼれ
第22話 これって恋なの?☆はじめてのひとめぼれ
私にそんな軽い感じで声をかけてきたのは、高そうなジャケットを着て、ネックレスやリングをつけている、小綺麗な格好をした茶髪の男だった。
右を向いても左を向いても、土の中から掘り出したばかりの、じゃがいもみたいなツラをした男と、ヴィジュアル系バンドの真似事のような、痛い、寒い、めっちゃ寒いの三拍子が揃った恰好の男しかいなかった、地元ではお目にかかれない、都会純度100%のチャラ男。
そんなチャラ男に、当時の私は偏見を持っていた。
チャラ男=都会の不良。という偏見だ。
ヤツらは都会で、主にボクシングジムと日焼けサロンの周辺に生息しており、弱そうなカモを見つけると、声をかけ、金品を奪い去る習性を持っている。その際、カモが抵抗したら、小一時間ほど習った
喧嘩を売られていると勘違いした私は、手にしていた肉まんを無理やり口の中へ押し込むと、すぐに手が出せるよう、両手を自由にして足を少し開き、戦闘態勢に入った。
来るなら来い。
返り討ちにしてやる。……と、意気込んでみたものの、チャラ男は依然構えることなく、それどころか疑問符を頭に浮かべている始末。
私は急に恥ずかしくると、足を閉じて、手をポケットに突っ込んだ。
『な、なんか用かよ……っ!』
『おお、初めて反応してくれた! キミ、この辺の子じゃないでしょ?』
『あ? なんでわかンだよ? 喧嘩売ってンのか?』
『売ってない売ってない。……ていうかキミ、珍しい格好してるけど、もしかしてコスプレ? スケ番ってヤツ? カワイイね~!』
『なっ!? カワ……!? ……つか、質問に答えろ。なんでウチがこの辺のヤツじゃねッてわかンだよ』
『カンタンカンタン。だってキミさ、キョロキョロしてたっしょ?』
『してたからなんだっつンだよ……』
『基本的にこの辺りの人間って、みんな下向いて歩いてるか、何か考えながら歩いてるか、急ぎながら前向いて歩いてる人が大抵だからさ。そんなにキョロキョロされたら、すぐにわかっちゃうんだよね』
『ちっ……』
私は舌打ちをすると、そのままチャラ男を無視して歩き出した。
『あ、ちょっとちょっと。どこ行くの!』
『テメェのいねえトコだよ』
『ええ!? なんか怒らせちゃった? オレ?』
『べつに』
たぶん、この時の私はこのチャラ男に『田舎者』と揶揄されたのだと、バカにされたのだと感じてしまったのだろう。
『待ってよ、俺、何か癇に障ること言った?』
チャラ男はそう言って、しつこく私の後をついてきた。
『ついてくんな……あっち行ってろ』
『そんなにツンツンしないでさ、ちょっとはオレの話聞いてよ~』
『おまえなあ……』
「ねえってば~」
──ガシッ。
突然チャラ男が私の肩を掴んできた。
これにはさすがに温厚な私も、水平チョップから、ジャイアントスイングのコンボをキメて、そのまま近くのゴミ捨て場へ放り投げてやりかった……が、さすがに周囲に人が多すぎたので、なんとか踏ん張った。それに、わざわざ暴力沙汰を起こすために自転車でここまで来たわけじゃないからな、と無理やり自分を納得させていたと思う。
『頼むから……もう消えてくれ……』
私はせめてもの抵抗として、男性に素っ気なく返事をした。
『じゃあせめて機嫌直してよ、ね?』
『べつに機嫌悪くねえよ』
『ほんとに?』
『ほんと』
『じゃあなんでムッとしてるの』
『してねえ』
『してるじゃん。なんか不機嫌そう』
『不機嫌じゃない』
『不機嫌じゃん』
『ちがう』
『でもほんとうは不機嫌なんでしょ?』
『不機嫌じゃないっつの! しつけーぞ!』
『ほら、やっぱり不機嫌だ』
『お・ま・え・なァ……!』
もう我慢の限界だった。
べつに私は、おまえと不毛な言い合いをするために、自転車を漕いでここまで来たんじゃないんだ。変わりたいから、逃げ出したいから、ここまで来たんだ。
そもそも不機嫌だったらなんだよ。おまえのニヤケ顔をボコボコに凹ましていいってのか?
補導上等。
そんなに私の不機嫌が見たいなら、とっておきのストレス解消法を見せてやるよ! ただし、テメェの命は保証しねえけどな!
私は再び、軽く両手を握り、足を肩幅まで開くと──
──ガシッ!
別の男性が颯爽と現れて、チャラ男の肩を掴んだ。私とは全く面識のない男だった。
『おい、おまえ止めろよ。嫌がってるだろ、その子』
『あ? んだよ、テメェには関係な──』
一発。
綺麗なグーパンチがチャラ男の頬に命中する。チャラ男は頬を押さえたまま尻もちをつくと、そのまま『ひぃぃえいえいえ~』と、情けない声をあげながら走り去っていった。
『……大丈夫? 怪我は無い?』
男性は優しく言うと、綺麗に折りたたまれた白いハンカチを私に渡してきた。
『いらねえよ』、と突き返そうとしたが、なぜか声がうまく出てこない。
それに、よく見ると服には何やらシミが出来ていた。おそらく、さっき無理やり肉まんを口に詰め込んだ時に、肉汁がこぼれたのだろう。
『さ、サンキューな……』
私は
『いいよいいよ、気にしないで。あとこの時間、あんまり女の子がひとりでここら辺うろつかないほうがいいよ。あれ、さっきのヤツ、たぶん風俗のスカウトだから。それも違法な感じのヤツ』
『ふ……ふうぞ!?』
『そ。……んじゃ、俺はこれで。ちょっと急いでてさ、キミも早く帰りなよ』
『え、あ、待って! これ、ハンカチ……!』
『あげるよ!』
男性は一切私に目もくれることなく、そのまま風のように、爽やかに走り去っていった。
一目惚れだった。
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