第28話 ドキッ!☆禁断の師弟愛 ※百合要素有


「あ、それについてはまだ話してなかったっスね」


「という事は、ちゃんと理由はあるんだ?」


「はい、あるみたいっスね。ウチはよくわかんないスけど」



 みたい・・・、か。

 インベーダーが現れて今に至るまで、まだ数か月くらいしか経ってないし、そこまで解明されて無いんだろうな。



「今、普通の人が死んでも、魔法少女……つまり、半インベーダー化しない理由は、もう閉じちゃってるからっスね」


「……閉じてる? もしかして、次元の扉ってのが?」


「そス。だからもう〝ロストワールドからのなんやかや〟が、その死にかけてる人間を復活させるという事は起きないんスよ」


「え、でも、普通にインベーダーはこっちに来てるよね。……あ、もしかして、今こっちの世界にいるインベーダーって、迷子的なヤツ? ロストワールドに帰れなくなってるから、ここにいるの? ……あれ、でもそれじゃあ空がいきなり赤くなるのはおかしいか……」


「さっすがアネさん、鋭いっス! ちなみに、アネさんが〝迷子〟て言ったのも、あながち間違いではないんスけど、ほんのちょこっとだけ違うんス。次元の扉が閉じて向こうの世界に帰れなくなった……んじゃなくて、ロストワールドが無くなった・・・・・から、帰れなくなったんスよ」


「……あ、ロストワールドって、そういう意味でのロスト・・・ワールドだったの!?」


「直訳で消失した世界っスからね。そういう事になるんじゃないっスか? ウチは誰が名付けたのかまでは知らないっスけど」


「……え? じゃあ、つまり、どういうこと? インベーダーがロストワールドに帰れなくなってて……、それじゃあインベーダーって普段、どこにいるの?」


「それが……わからないんスよね。ちなみに、今の魔法少女の任務のひとつがそれなんス」


「任務?」


「まず、今日アネさんがやったみたいに、攻めてくるインベーダーの対処がひとつっス。それと、どっかにインベーダーが巣を作ってるみたいだから、見つけ出してそこを破壊する。主にこのふたつが当面の目標っスね」


「そ、そうなんだ」



 目標って……なんでそんな言い方を……。

 でも、魔法少女なんだから、それはそれで世界観(?)に合ってるのかな。

 ……うん、ダメだ。

 こういうところにケチつけ始めるのって、なんかいよいよ年な感じがする。順応していかないと。



「……でもさ、そんな、シロアリとかじゃないんだから、すぐに見つかるんじゃないの? あんなに大きいカニみたいなのもいるんだし」


「うーん、それが、サッパリなんスよね……」


「ホントに? ちゃんと探してはいるんだよね?」


「はい。魔法少女になってから、そういう気配にも敏感になってるんで、ウチ含め、魔法少女全員、私生活でも『あれ? ここちょっと怪しいかも』って思うところは、みんな積極的に調べてると思うっス」


「へぇ、そうなんだ? 話を聞く限りだと、けっこうサッパリした……サバサバした組織かなって思ってたんだけど、やっぱりそこらへんは手は抜かないんだね」


「まあ、なにしろ、報奨金が現ナマで出るっスからね。みんなも必死なんスよ」


「げ!? ……高校生以下の年齢の少女たちに対して、報奨が現ナマ支給って、やっぱりおかしいよ、この組織……」


「まあまあ、やっぱり現物支給より、お金って事っスよ」


「……ね、ちなみになんだけど、どれくらい出るの?」



 他意はない。

 ……他意はないよ?

 けど、ほら、やっぱり気になるし。お金なんて、あっても困らないし、もちろんそういうのも抜きでちゃんと私も探すけど、金額は訊いておきたいから。

 私がそう尋ねると、ツカサは、人差し指、中指、薬指を立てて見せてきた。



「三万……かぁ、なるほど。けっこうなお小遣い稼ぎには──」


「桁っス」


「……ん?」


「三百万っスね。……有力情報で」


「へ、へぇ……?」



 よし、探そう。そして削ろう、睡眠時間。二時間くらい。

 肌はちょっと荒れるかもだけど、三百もあったらおつりがくる。



「けど、たぶん、そうそう見つからないんスよね」


「ええ!?」


「そ、そんなにビックリしなくても……」


「ごめん。……やっぱそうなんだ?」


「はい。ウチらからは感知できないように、インベーダーも上手く隠してるとかなんとか……」


「だよねぇ……、三百はダテじゃないよね……。たしかに……あのカニも突然空から降ってきたしね」


「そうなんスよ。巣が見つからない以上、ウチらのほうから攻め込む! ……みたいなことが出来ないから、いつも後手後手に回ってるってのが、今の現状っスかね」



 ツカサは「はぁ……」とため息をつくと、憂いを帯びた眼をした。気のせいか、顔が赤い気がする。そろそろ未成年の前でお酒飲むのは止めとこう。



「……うん、これで大体、現状についてはわかったかな。ありがとね」


「いえいえ! ウチもアネさんの役に立ててうれしいっスよ! どんどん頼ってくださいっス」


「ありがとう。これからも頼りにしてるよ……てことで、今日はお開きにするかな。ツカサはまだ怪我の関係で、しばらく出られそうにないんだよね?」


「ふぅむむむ……」


「ん? どうかした? 急に黙り込じゃって?」


「お、おお……! なんというか、ようやく実感がわいてきたっス!」


「実感? なんの?」


「これからアネさんと同じチームで戦えるって実感ス! あの頃の、ガキのウチに聞かせてやりたいっスよ! 『おまえは将来、アネさんと同じ所で戦えるんだぞ』って!」


「大袈裟……って、ワケでもないかな。私もあの時の子と一緒に働けるんだし、そう考えると、なんか感慨深いね。てことは、ツカサは私の先輩って事になるのかな」


「せ、センパ……!?」


「おす! ツカサ先輩! よろしくお願いいたしますっス! うす!」



 私はすっと立ち上がると、ビシッと姿勢を正し、額の前に手を持ってきて敬礼をした。

 酔ってるな。

 酔ってるわ。

 でも、まだ素の自分が、酔ってる自分を俯瞰で見れてるだけマシか。

 そんな事を考えていると、ツカサの顔が、目に見えて赤くなっていくのがわかった。



「う、うううう、ウチが、アネさんの……せせ、先輩……!?」



 ──ポタポタポタ。

 なんか、ツカサの鼻から変なの垂れてない?


 ──いや、よく見てみると、赤い液体がツカサのふとももの上に、ポタポタと落ちていた。

 血だ、コレ。



「ちょ、なにいきなり!? どうしたの? 大丈夫!?」


「た、たま……た……たまらん……ウチがせんぱい……アネさんがこうはい……職権乱用で……アレコレ……!」


「何言ってんの!? いや、それよりも血! ティッシュどこ!?」


「だ、大丈夫っス。こんくらい……」



 ツカサはそう言って、ぐしぐしと腕で強引に鼻を拭った。

 ……が、もちろん鼻血は止まらない。



「だからダメだって刺激しちゃ! 鼻血はなかなか止まらないし、中にあるから患部を直接止血することも難しいんだから!」


「さ、さすがっス。何でも知ってるっスね、アネさん」


「もう、まったく、この状況でフガフガ言ってる場合じゃないでしょ。とりあえず鼻の付け根押さえて。それとティッシュどこ?」


「す、すんません。たしかスカートのポケットの中に……」


「ポケットの中ね? 私が取り出してあげるから、ツカサは鼻押さえてて」


「お、お手数をおかけするっス……」



 私はツカサの前までやってくると、その場にしゃがみ込──



「──うわわ!?」



 どしーん!

 腕で鼻を拭ったからだろうか、フローリングにまで垂れていた鼻血を踏んでしまい、私はそのまま、ツカサを押し倒すように転んでしまった。


 ツカサは私のマヌケ加減に驚いてしまったのか、私の体のすぐ下で、大きな目をパチパチとさせている。



「あ、アネさ……さねあん!?」


「いったた……ご、ごめんツカサ。いますぐどくか……ら……」



 ガシっ。

 突然、ツカサの足で上半身をホールドされ、手で肩を掴まれる。



「え? 何? 寝技の練習!?」


「す、すんません、アネさん……なんか、体とか顔とか熱くて……」


「いや、そりゃ血が出てるからで……ていうか、遊んでる場合じゃないでしょ! さっさと離して! 鼻血拭かなきゃ……え!?」



 ツカサの顔がゆっくりと近づいてくる。

 目はとろんとしていて、頬は紅潮し、うーっと口をすぼめている。鼻血はすっかり止まってしまったのか、もう流れ出ていない。

 よかった止まってる。



「──じゃない! ちょっとツカサ! からかってるなら怒るよ!」


「アネさん、ウチ、本気っスから」


「……え?」



 ──トゥンク。

 て、アホか!

 なにこの状況!? 酔ってるの!? この子、お酒飲んでなかったよね!?


 そう考えている間にも、ゆっくりとツカサの顔が、唇が近づいてくる。


 あ。

 でも、ツカサって、やっぱり近くで見ると、可愛い顔してるし、私も今、ちょっと酔ってるしで、変な気分に……じゃなくて!

 はやくツカサを酔いから覚まさないと!

 私はなんとかして拘束を振りほどこうとしたが、かなり力が強い。さすが現役の番長。


 だったら私も本気で振り解こう……としたらどうなるかわからない。でも、加減してても抜け出せないしで……わああああ、近い近い……顔近いって……!

 ちょ、マジでどうしたらいいの!?

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