第18話 ピコピコ☆勇者
「救世主……ですか」
「あの大量のインベーダーがこちらの世界になだれ込んできて、世界が終りかけた日。インベーダーと同じように、こちらの世界になだれ込んできた
「その……
「勿論、魔法少女たちによる功績も大きかったですが、彼ら無くして人類の存続はあり得ませんでした」
「その方々って一体……」
「その名も
「……勇者?」
「いいえ、ユー、エス、エイチ、エー。USHAです」
またもやこの人は……、眉毛すら動かさず、いったい何を言っているんだ。
「……でもUSHAって、勇者ですよね?」
「はい。意味合いで言えば近いですね」
「なぜアルファベット?」
「救世主の方は四人いらっしゃったからです」
「あー……うん、なるほど。その方々の名前の頭文字が、U、S、H、Aなんですね!」
「よくわかりましたね。さすがは鈴木さんです」
なんか私、だんだん玄間さんの説明に慣れてきてない? なんでこんなので理解できてしまうんだ。
「いやいや……アイドルですか……」
そしてきちんとツッコミも忘れない。
「たしか、音楽も嗜んでらっしゃいましたね」
「ますますアイドルじゃないですか。……いや、なんだこのツッコミ……」
「その四人の救世主が、まだ覚醒して間もない、戦闘に慣れていない魔法少女たちに的確に指示してくれたおかげで、事なきを得ることが出来たのです」
「はぇー……、じゃあほんとに救世主なんですね。ちなみに、その四人は今どこに?」
「それは……僕にもわかりません」
「……ん?」
「ああ、いえ。その四人についての情報は機密事項なので、軽々しく漏らすことが出来ないからとぼけている、というわけではなくてですね……」
何この人。自分から全部言ってるんだけど。
「……えっと、機密事項なんですか?」
「はい。……あ、いえ。機密事項ではないです」
「……玄間さん、隠し事が苦手だってよく言われませんか?」
「なぜわかったんですか?」
「いや、まあそりゃ……ねえ?」
声色だけでなんとなく玄間さんが焦っているのがわかる……けど、表情は相変わらず。
なんか色々と気の毒に思えてきた。
まあ、そこまで救世主様の事を知りたいわけでもないし、それにどうやら極秘情報みたいだし、ここは次へいったほうがよさそうだ。
それに、〝
「ともかく、話を戻しましょう。USHAについては忘れてください」
「……善処します。でも、話を戻すってどこまで話してましたっけ?」
「魔法少女の役割についてです」
「ああ、そんな事も言ってましたね。……つまり、インベーダーを倒すことが出来るのは、魔法少女とそのUSHAだけだという事ですね」
「……USHA?」
「わざとらしい! ……あーもう、わかりましたよ。インベーダーを倒せるのは魔法少女だけ! そうですね?」
「はい。そして、その様子をテレビや動画投稿サイトを通じて、娯楽として、平和と安寧の
「そうなんですね。……じゃあやっぱり、玄間さんの言う通り、人々に娯楽は必要だったという事なんですね」
「はい。人々は魔法少女たちが共に助け合い、努力し、勝利することに無上の喜びを見出し、日々を生きる糧としているのです」
「なるほどですね。……要するに、人々が安全安心に、楽しく暮らしていけるための〝人柱〟ということですよね」
「……言葉の選択としては、あまり適切といえませんが、概ねその通りです」
玄間さんが厳しめのトーンで、淡々と言った。
玄間さんは私の言い方に引っかかってたみたいだけど、私自身の気持ちとしては、人柱である事自体に何も問題はないと思っている。むしろ、ただのイチ会社員だった私が、こうやってたくさんの人々の役に立てるというのなら、誇らしいとさえ思う。
ただ、それだけに──
「あの戦いはなかったんじゃないかな……って」
話を終えて、改めてさっきの──
果たして、魔法少女の〝友情〟〝努力〟〝勝利〟を見たい人々は、あの戦いを見て、勇気づけられているのだろうか。
……たぶん、勇気づけられないだろう。レポーターの人なんて軽く吐いちゃってたし。
「……たしかに、とても人々を勇気づけられる戦い方ではありませんでしたね」
「ですよねー……。でも、そもそも、人々を勇気づけられる戦い方って何なんですかね?」
「僕にもよくわかりませんが……インベーダーの内臓を素手で引きずり出したり、逃げるインベーダーを執拗に追いかけ、息の根を止めたりするのは……うぷ、やはり、違うのではないでしょうか……。ですが、ミス・ストレンジ・シィムレスと戦う前の、あのマイクパフォーマンスは、個人的には良かったのではないかと」
急に変な角度から褒められて、顔が熱くなる。
相変わらず簡単だな! 私は!
「あ、ありがとうございます……ていうか、他の魔法少女はどういう風に戦っているんですか?」
「そうですね。皆さん非常に個性的な能力をお持ちです。たとえば、手から色鮮やかな花弁を放出したり、魔法のステッキでインベーダーの動きを拘束したり……」
「え? そんなのでインベーダーが倒せるんですか?」
「はい。ミス・ストレンジ・シィムレスのような幹部クラスはともかく、今回鈴木さんと相対したミスターキャンサー程度なら十分です。……むしろ、何も持たず素手でインベーダーと戦ったのは、鈴木さんが初めてなのでは……?」
「──は? いや……いやいやいやいや! そりゃ私、今回は何も言われなかったから素手で戦いましたけど、たぶんものすごくカワイイ能力とか備わってますって! 絶対! 手からクマのぬいぐるみを出したり、口からチューハイ出したり……!」
「だとしても、ここまで身体能力が高くなるような事は聞いたことがありません。それに、これまでの魔法少女たちも、皆一様に、誰からの指示も受けずに戦って、自分だけの能力を覚醒させていました。なにも鈴木さんだけがべつに特別、というわけではありません」
「でもその子たちもUSHAの指示は受けてたんですよね? その助言で──」
「……USHA?」
「もういいわ!」
「とはいえ、これは聞いた話なのですが、他の魔法少女たちが言うには、魔法少女の能力というのは、その者の深層心理の表れなのだそうです」
「……どういうことですか?」
「無意識下で自身が大切にしている物、人、思想、矜持などが強く反映される……のではないかという仮定が、今のところ有力ですね。さきほど申し上げた、手から花弁を放出する魔法少女も、魔法少女になる前はフラワーショップでアルバイトをしていたそうです」
「つ、つまり私の能力は……っ!?」
万が一、私が今思い浮かべている能力ではないかもしれないから。
「……私が素手で戦ったのは、まだ私が自分の能力に気付いていないという事ですよね?」
「わかりません。ただ、あの戦闘能力を見る限り──」
──バァン!
突然、事務所の扉がいきおいよく開き、そこから金髪で素行の悪そうな女の子が、息を切らせながら入ってきた。
「アネさんの喧嘩スタイル! 〝プロレ
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