第17話 ひゃっはー☆世紀末エンターテインメント


「最大の娯楽……ですか? この、インベーダーとの戦いが?」


「そうです。ただインベーダーと戦い、排除するだけでしたら、鈴木さんもおっしゃった通り、事務的に、ただ淡々とインベーダーを倒せばいい。ですが、世界が崩壊してもう数か月が経──」


「──あ、あの! ちょっといいですか?」


「はい。なんでしょうか」


「世界崩壊、世界崩壊ってよく聞くんですけど、実際どれくらい崩壊していて、どれくらい維持出来ているんですか? 私、その辺の説明は全く受けてないから、よくわからないんですけど……」


「それもそうですね。鈴木さんは街の様子を見てどう感じましたか?」


「私ですか? えーと、人の様子は、皆避難しててわからなかったですけど、街は半壊、倒壊してる建物がそれなりに目立ってましたね。露店や居住用のテントなんかもあって、結構殺伐とした印象でした」


「そうですね。人々の生活水準は今、一世紀前くらいまで退化しています」


「い、一世紀も……!? そんなに!? でも、普通に病院も機能してましたし、スマホも使ってますよね?」


「……すみません、すこし盛りました」


「で、ですよね……。ビックリするからふざけないでくださいよ」


「現在が零和レイワ二年ですので、大体正和ショウワ後期あたり……ですから三十年前ほどですか。たしか鈴木さんは……」


「まだ生まれてません」


「は、はい。存じ上げてますが……なぜそこまで食い気味──」


「食い気味じゃありません。……じゃあもう、昔みたいな生活は出来ないんですね……」


「はい。ともかく、いまの我々の生活水準はそのあたりだと思ってください。ちなみに一般の人はスマートフォン、ならびに固定電話以外の通信機器類の使用は出来ません。これは禁止されているのではなく、不可能という意味です」


「会社が潰されちゃったんですか?」


「いえ、まだ存続はしています。……が、現在はその規模を縮小し、国が代理で運営している形をとっています。ですので、限定的ではありますが、なんとか通信手段は確保されています」


「なるほど。インベーダーはまず、通信手段を消そうとしたんですね」


「はい。ちなみにさっき僕が〝限定的〟と口にしましたが、それは現在僕が使用しているこのスマートフォンもどき・・・の事です。これは国で限られた人間にのみに支給される物ですので、さっき鈴木さんがご家族の方と通話出来たのはそう言った理由です」



 そんなものを支給されるくらい、S.A.M.T.は国から期待されてるんだ……。



「これで〝魔法少女〟がこの国にとってどれほど重要かわかったかと思います。では、また娯楽の話に戻りますが……、国がこう言った現状ですので、スポーツや映画、本にゲーム等々……ほとんどの娯楽や、それを発信する媒体が廃れてしまったのです。ゆえに、人々は今、娯楽に飢えている……」


「だからインベーダーと魔法少女が戦う事を、娯楽として人々に提供している……という事ですか?」


「はい。それとプラスアルファとして、インベーダーからの侵略も守っています」


「いやいや、それが一番重要でしょ!」


「そうですね。ですが、娯楽もまた同じくらい重要です。娯楽は人生に潤いを与え、日々の生活を豊かにしてくれます。娯楽のない人生……つまり、潤いを無くなれば土地と同じで、やがて痩せ細り、なにも育たない死の土地となってしまうのです。ゆえに、魔法少女の皆さんにはヒラヒラの衣装を着てもらい、僕もこうして着ぐるみを着ているのです」


「な、なるほど。色々と飛躍しすぎな気もしますが……、ともかく理屈はわかりました。でも、それってべつに魔法少女じゃなくてもいいのでは?」


「魔法少女でなくてはダメなのです」


「なんなんですか、その言い方……」


「鈴木さんには伝えそびれていましたが、インベーダーには人間の武器は効きません。銃火器の類はもちろん、人間・・の行使した武力の一切が効かないのです」


「それは……物理的に効かないとか、インベーダーが硬すぎるからとかですか? ……いや、でもレンジの手や胸は普通に柔らかかったからそれは違──」


「──柔らかかったのですか?」


「いや、なんでそんな食い気味なんですか」


「食い気味ではありません。……これに関しては我々もよくわかっていないのですが、鈴木さん、インベーダーと戦っている時に何か気づきませんでしたか?」


「どっちのですか?」


「ミス・ストレンジ・シィムレスとミスターキャンサーの両方です」


「んー、そうですね……ミス・ストレンジ・シィムレスはちょっとひんやりしてたかなってくらいで……、あとは普通の人間の女性と変わりませんでした。カニのほうはよく覚えていません」


「お、覚えていないのですか?」


「……それがなにか?」


「い、いえ……。インベーダーの体は薄い膜のようなもので守られており、それが我々の攻撃を無力化させている、と考えられているのです」


「じゃあ、ミス・ストレンジ・シィムレスがちょっとひんやりしてたのって……」


「もしかすると、それが関係しているのかもしれませんね」


「……あれ? ちょっと待ってください。銃火器の類が全く効かないとなると……あのインベーダーの大群が攻めてきた日、魔法少女だけで戦ったんですか?」


「いいえ。さすがに力に目覚めたばかりの魔法少女だけでは太刀打ちすることが出来ません」


「じゃあどうやって……」


「インベーダーと同じように、救世主もこの世界へとやって来てくれたのです」

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