第19話 キミ☆女の子だったの!?
〝プロレ
プロレ素手喧嘩とは、私が学生時代に確立させた(私しか使っていなかったけど)喧嘩スタイルだ。プロレスリングから着想を得たド派手な技と、相手の攻撃を躱さないというスタイルで、相手を華麗に沈めるというもの。
このスタイルの長所は、相手の心に強烈な敗北感を植え付けてやれるところだ。喧嘩なので、当然こちらから相手に攻撃を加えるのだが、相手の攻撃も真正面から受け止める。そのため、技術というよりも根性が特に重要となってくるので、負けたほうはフィジカル的にも、メンタル的にも自分が下だと思ってしまい、二度と私に歯向かわなくなる。
短所は言わずもがな。
生傷が絶えないという事。
今ではほとんどがぱっと見塞がってはいるけど、お酒を飲んだり、興奮したり、何らかの要因で血の巡りが活発になると、古傷が浮かび上がってしまうのである。そのせいでおちおち温泉にも、飲み会の二次会にも行けないのだ。悲しい。
そして、改めて考えてみると……、ものすごくネーミングがダサい。〝ステゴロ〟でも十分ダサいのに、そのうえ悪魔合体させてしまうなんて……プロレスにも申し訳ないし、なにより玄間さんのネーミングセンスのなさをあまり強く叩けない。
でも、なんでそんな懐かしいフレーズをこの子が……? どうみても高校生くらいだし、世代的にも、地域的にも知っているはずはないと思うんだけど……。
もしかして、高校時代の友達の娘さんとか?
あ、やばい。
マジで凹んできた。私、もうお母さんって歳なの……?
「う、うおぉぉ……! アネさん……アネさん……っスよね?」
金髪不良娘は、なぜかプルプルと震えたまま、中腰の姿勢で私のほうに近づいてきた。
ていうか、ここS.A.M.T.の事務所のはずだよね……なんで一般人の子が普通に出入り出来てるんだろう。
「〝アネさん〟って? あなた、誰かと間違えてない?」
「いやでも、鈴木さくらさん……っスよね?」
「え? じゃあもしかして、本当に高校の時の友達の……!?」
あ、頭がくらくらしてきた。
同世代の友達に、かなり早い時期とはいえ、もうこんなに大きな娘さんがいるなんて……しかも私よりも身長高そうだし。ああ、ダメだ。立ち直れない。今日一番の深刻なダメージを受けた気がする。
「や、やっぱ本物だ……! 変な髪型だけど、あの喧嘩スタイル……あのマイクパフォーマンス……ウチが間違えるハズがねェ……! ウチが憧れてた、あの時のアネさんだ!」
「あ、あの時の……?」
「うス! アネさん! お久しぶりっス!」
金髪不良娘は私の前までやって来ると、深々と、腰をきっかり九十度曲げて挨拶した。
「久しぶりって事は……私の、学生時代の時の友達の娘さんって事じゃないんだよね?」
「は、はい? 娘?」
「あなたのお母さんと、私って同い年なんだよね……?」
「いえいえ! ウチの母ちゃんより、アネさんのほうがひと回り年下っスけど……」
「な、なんだ……。あ、ごめん、ちがったんだね……って、それじゃあ誰……?」
そうなってくると、ますますわからない。プロレ素手喧嘩を確立させたのは私が高校時代の時。私の高校時代はおよそ十年前……十年前!? マジで!?
いや、それは今は置いておこう。……それで、この子が高校生だとして、年齢は十五から十八歳、その十年前だから〝小学校に入る前〟か、〝低学年〟ということになる。高校時代の私に、そんな年頃の女の子の知り合いなんていたかな……?
「ええ!? う、ウチの事覚えてないんスか?! アネさん!!」
不良娘は私の両肩をガッと掴むと、ゆっさゆさと体を前後に揺らしてきた。もしかして、私を誰かと勘違いしてるんじゃないのか、この子。
「あのさ、もしかして誰かと勘違いしてるんじゃない? 自分で言うのもなんだけど、鈴木桜なんて名前、結構いると思うし……」
「でもプロレ素手喧嘩を使う鈴木桜なんて、アネさん以外考えられねっス!」
「それもそうだよね……って、そろそろ揺するの止めてくれない?」
「ああ!? す、すんません! アネさんになんて事を……!」
不良娘は何度も謝ってくると、埃を払うように何度も私の肩をポンポンと叩いた。
「フム……」
「あ……、な、なんスかアネさん? 人の顔をじっと見て……、もしかして、思い出してくれたっスか?」
……いままでその派手な髪や、冗談みたいに長いスカートにしか目がいかなかったけど、よく見るとこの子、スゴく綺麗だな。目つきはちょっと鋭いけど、瞳が大きくて鼻筋も通ってて、『モデルやってます』とか言われても普通に信じちゃう。あと、無駄に出るとこも出てる。
「おや、鈴木さん。
「し、芝桑……?」
凄い名前だな。
……あ、でも、なんか出そう。思い出しそう。今、喉の上くらいまで出かかっている。軽く
「おうコラ、ダ眼鏡! アネさんの名前を軽々しく呼んでンじゃねェよ!!」
芝桑さんが一喝すると、玄間さんはシュンと俯いてしまった。弱い。
この慣れたやりとりを見るに、ふたりが初対面じゃない事はなんとなくわかったけど、という事は、芝桑さんも魔法少女なのだろうか?
「うーん、どうすれば……あ、ほら、アネさん! ほらほら!」
芝桑さんはそう言うと、ショートヘアだった髪をさらに手で束ねて短くし、楽しそうに私に顔を近づけてきた。
うわ、まつ毛長っ! 唇もツヤツヤだし、動揺してる私の顔が映るくらい目が大きいし。しかもこの子、全く化粧してない。それでここまで肌が綺麗なのは反則だろ。今でもこんなに美人なんだから、子どもの頃なんてただの天使だったんじゃないか?
生憎私には、天使の知り合いなんている筈がなく、芝桑さんの可愛らしい顔を見れば見るほど、混乱してい──アレ?
そういえば、近所にひとりだけ坊主頭のヤンチャそうな男の子がいたけど──
「──もしかして……きみ、ツカサ……
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