現実世界に魔物が現れたのでブラック会社を辞めて魔法少女になりました~PCをカタカタするよりも魔物をボコボコにするほうが性に合っていた私、今更戻れと言われてももう遅い。今の仕事にやり甲斐を感じているので
第38話 モリすぎ!?☆魔法少女兼剣術道場跡取兼アイドル
第38話 モリすぎ!?☆魔法少女兼剣術道場跡取兼アイドル
「──ええ!? 霧須手さんって、アイドルやってたの!?」
私の声が事務所内にコダマする。
霧須手さんとの訓練は終わり、私たちはいつもの(まだ二日目だけど)事務所に戻り、いつもの事務椅子に座って話をしていた。
「デュフ、そそ、そうです。こここ、こう見えて、数か月前まではステージの上でキューブロ殿の衣装みたいなのを着て、ぴょんぴょん飛び跳ねてたんでがす」
「ほぁー……!」
思わず、おっさんみたいな声が私の口から漏れる。
アイドルかぁ……。疑い……はしないけど、人に歴史あり。見かけによらず、密度の濃い人生を歩んでいるんだなぁって。しかも、そう遠慮がちに(?)言っているのは、牛乳瓶の底のような眼鏡をかけている三つ編みの芋い少女なのだから。
とはいえ、こうして魔法少女になっている以上、この子も何かしらの理由で死亡してしまったという事だ。同じ〝魔法少女〟というよしみで、その理由を訊いてみたいけど、自分が死んだ理由なんて言いたくはないし、訊かれたくもないだろう。それがたとえ、同じような境遇を持った相手でも。
我慢だ、我慢。
過ぎたる好奇心は猫をも殺す。
霧須手さんの気持ちか。私の好奇心か。どっちが大事かと訊かれれば、それはもう、間違いなく霧須手さんの気持ちである。
私としても、ただイタズラに霧須手さんを傷つけてしまうのも本意ではない。
だから、この気持ちは仕舞っておこう。
それに、ある日、ふとした瞬間に話してくれるかもしれないしね。
「──ところで、霧須手さんってどうやって死んだの?」
「過労死ですな」
流れるような問いに、受け答え。
この間、じつに二秒未満。
脳と神経は同じ〝体〟という名の容器の中にあるけれど、私の場合はどうやら、直列で繋がっていなかったみたいだ。
うーん、なんたる欠陥。
これは
でもま、結果オーライだと思う。
霧須手さんも嫌々答えてる感じじゃなくて、あっけらかんと……いや、若干食い気味で答えてくれたから、たぶん話したくて仕方なかったのだろう、と良いほうに解釈してみる私。
「でも過労死かぁ……やっぱりそれって、アイドル業がキツかったから?」
「い、イエ、あ、ハイ」
「ど、どっち?!」
「どど、どっちも、でござる。そもそも、拙者としては、アイドルがやりたくて、実家を飛び出した、みたいなところがあったので、これは、名誉の死なわけです」
「いやあ、名誉な死ってのもなぁ……」
「ハイ。しかも、聞くところによると、拙者、マイクを握りしめながら、前のめりに死んでたんですと。……ふぉ、ふぉ、フォカヌポゥw」
「いやいや、そこべつに自嘲するところじゃないって」
「自嘲ではござらん。アイドルとしての誇り、プライドにござるぅ」
「ああ、なんかごめん……でも、そっか。親御さんはアイドルになる事を許してくれなかったんだね」
「あ、ハイ。とても厳格な父にござった。どうやら、拙者を、道場の跡継ぎにしたかった、と」
「道場ねえ……、道場? 道場!? 霧須手さん家って、道場なの?」
「イエス。百余年続く道場の跡取、即ち、拙者なりけり」
「百余年!? うわぁ、そりゃ……スゴイね。そんだけ続いてたら、霧須手さんのお父さんが反対するのもわかる気がするなぁ……」
「もしや、キューブロ殿も父の肩を持つのでござる?」
不意に飛んできた霧須手さんの質問に、一瞬ドキリとする。
「え? あー……いや、肩を持つとか持たないとかじゃなくて、親御さんのそういう気持ちもわかるな、て。べつに変な意味じゃないよ?」
「じつは、拙者もわかるマン……」
「え?」
「おそらく、父も近づいている自分の死期を悟っていたのでござろう。拙者は父が齢五十を超えてはじめて授かった子ゆえ、何が何でも霧須手流の跡を継いでほしかったのでござろう。なれど拙者、剣の道よりもアイドルの道を極めたかったから、我儘を言って、そのまま家を出てしまったのです……」
「そう、だったんだ……」
「お父さん……」
霧須手さんはそう言うと、ぎゅっと手を握って俯いてしまった。
「そっか……。で、でもさ、こうやって霧須手流の、実家の剣術を使って世界を救ってるわけじゃない? そう考えてみると、お父さんとしても本望というか、鼻が高いんじゃないかな? 私もこの能力が無かったら、霧須手さんには歯が立たなかっただろうし、霧須手さんのお父さんも、たぶん天国で霧須手さんの事、褒めてくれてると思うよ」
「ぬ? 父は健在にござるが?」
「……え? いや、でもさっき、死期を悟ってたって……」
「ああ、趣味のギャンブルで金を使い過ぎて、道場の経営が立ち行かなくなったのでござる。それで急遽、女子高生師範として門下生を集めようと、拙者に白羽の矢が立ったのでござるが、拙者はこれが嫌で道場を出て、アイドルになったのでござる」
「……なにそれ。ギャグ?」
「ウケは狙っておりませぬ。当初は父に反対されたのでござるが、今は……というより世界崩壊前までは、アイドルグループ〝
「な、なんなんだよ……それ……」
でも、そうか。
五十超えて子ども作るくらいなんだから、そういう人でもおかしくはないのか。そりゃもちろん、色々な理由があって、子どもが出来なかった人もいるんだろうけど、おそらく、霧須手さんのお父さんをタイプ別に分類すると、『ダメ人間』という括りに入ると思う。
あまりこういう事は言いたくないけど。
「……え、じゃあ、さっき悔しそうに唇を噛んで、ギュッと手を握ってたのはなんなの?」
「ああ、あれはあくびをかみ殺していたのでござる。やはり、昼食にドカ食いは控えるべきでござるな。眠たくて仕方がない」
霧須手さんはそう言って、「デュフフ」と、またいつもの調子で笑った。
なんか変に同情(ダジャレじゃない)して損した。それにしても、実家がすごい道場で、元アイドルで心臓破坂でって、凄過ぎ……うん?
心臓破坂48!?
「ご、ごめん。私、あんまりアイドルとか詳しくないんだけど、心臓破坂48って毎年紅白に出てる……あの、国民的アイドルグループ?」
「然り」
「それで、クリスティ……っていえば、あのロシアとのハーフの!? あのクリスティ!?」
「然り然り。……い、いやはや、お恥ずかしい。でも、キューブロ殿もなかなか詳しいでござるな、さてはお主も興味が──」
私は椅子から立ち上がると、ずかずかと霧須手さんと距離を詰め、「失礼します」と断ってから、霧須手さんの眼鏡を取り上げた。
「なな、何をするでござる! キューブロ殿!」
「ごめん、ちょっとでいいから目を開けて、じっとしてて」
「ら、乱心乱心ご乱心!」
手足をパタパタと振り回して暴れる霧須手さんの手を掴み、私はじっと霧須手さんの顔を見た。
美少女だ。
美少女がおる。
さっきまでの芋い女子高生がどっか行ってしまった。瞳も碧いし、テレビで見たまんま……ではないけど、たしかに、私の目の前にいるこの女の子は、あの国民的アイドルグループ心臓破坂48のメンバー、〝クリスティ〟その人だった。
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