第51話 ゆれるゆれる☆心臓破坂
こんにちは。
私、魔法少女の鈴木桜。
いまはここ、魔法少女派遣会社にやってきていて、その組織の外から、内から、ぶっ潰してやろうと画策していたんだけど──
「──ねえ、どうする?
「どうするもこうするも……」
「
「どうやって?」
「そりゃ……」
「むこうの……〝さむと〟だっけ? そこの魔法少女が雑な変装をして、うちに潜入してましたって……」
あのレンジの会見で見た、女の子三人に手足を荒縄で拘束され、口をガムテープで塞がれて、地下の暗い倉庫に安置されています。助けてください。
「──でも、この人ってたしか、あれでしょ? 昨日、テレビで見た……」
「キューティソクラテス!」
「そうそう、そんな感じの名前の人!」
「
「でも、なんかニュースで見た時よりも、老けてない?」
「あー……たしかに」
「
「な、なんか唸ってるよ?」
「ほっとこほっとこ」
「ちょっと怖いし、なんか不良やってそう」
「
「……あれ? でもたしかこの人、シィムレスさんと素手で掴み合ってた人だよね? なんで大人しく捕まってるの?」
「あれくらいの力持ちさんなら、縄もふつうに切れちゃうよね」
「あれじゃない? 縛られるのが趣味とか?」
「ああ、いるいる! いるねー! そういうヒトー!」
「ファンの人たちにも、そーゆー人いたし、それだよたぶん」
「なるほどねー! あったまいい!」
「
「まだ唸ってる……」
「喜んでるんだよ、たぶん」
「
「〝うん〟だって」
「やっぱりね」
「変態さんだ」
「
「……でも、
……ん? ひとり?
そうだ。
なんか見当たらないな、と思ってたけど、霧須手さんここにはいないのか。
もしかして、まだ変な光を出し続けてるとか?
でも、それだと私だけ見つかって捕まってるのもおかしいし……ま、霧須手さんなら、私が居なくても上手くやってくれる……よね?
「──たぶん正面からだと私たちに勝てないと思ったから、こういう感じで来たんじゃない?」
「じゃあこれでバレないと思ったんだ?」
「サイアクぅ。舐められてんじゃん、私たち」
「こりゃあ、もっとキツク縛ってあげないとだね」
「でもそうすると喜んじゃうんじゃない?」
「言えてる」
「……でも、シィムレスさんは騙されてたよね……いま、その件で呼び出されてるし……」
「まあ、あの人はインベーダーだから……」
こうやって捕まってるのも楽だけど、私も、そろそろ動いたほうがいいよね。
……でも、ここで私が無理やり縄を引きちぎったとして、絶対にあの三人は私の前に立ち塞がってくると思う。
私が捕まった時に分かった事だけど、あの三人は間違いなく〝魔法少女〟だった。
アイドル担当とか広告塔だとか、そんなのじゃない。私たちと同じように戦える、魔法少女。
現に私は抵抗する間もなく、こうして拘束され、ペいっと放られている。
でも、どういう事だろう。なんでこの子たちが、能力を使えているんだろう。
霧須手さんが嘘をついていた?
……それは──ないかな。考えにくい。嘘をつくようなメリットがないし、その場合、霧須手さんが私たちを裏切った事になる。霧須手さんの、あの引っ込み思案な性格上、それは考えられない。……まあ、今日会ったばっかだから、強くは断言できないけど。
だったら、この子たちはどうやって、能力を──
「あ、そうだ。ひろみちゃん呼んでくる?」
──ん?
「そうだね。私たちまだ〝力〟を貰ったばっかだけど、ひろみちゃんは
「うん、だから、上手い感じにキューティブロッサムさんも処理してくれるんじゃないかな」
いやいや。
情報量が多すぎる。
頭が混乱する。
ひろみの件は……今は置いといて、この子たちは誰かから、
どういう事だ? そんな事が出来るの──
──ゴ……ゴゴゴゴゴ……!
地震……?
うん、たぶんそうだ。アル中で体が震えてるわけでもないから、建物全体が揺れているんだと思う。でもこれ、地震……なのだろうか。どちらかと言うと、地面が揺れているというよりも、建物が自体が揺れているような──
「な、なに!?」
「なになに!?」
「なになになに!?」
「──地震!?」
仲良いな。
示し合わせたように三人の声が重なる。
ゴゴゴゴゴ……!
しかしこれ、結構長い間揺れてるな……と、思っていると──
「──く、くずれるー!」
女の子たちはまた声を重ねて喚き散らすと、そのままどこかへ行ってしまった。
過程はどうあれ、これは解放された……という事なのだろう。
私は三人が完全にどこか行ったことを確認すると、すこし腕に力を込めて、荒縄を強引に引きちぎった。
クロマさんが言った通り、たしかにこの能力、便利ではあるけれど、やっぱりというか、なんというか……魔法少女ぽくないよなぁ。
私は縄が食い込んで変色した手首をさすりながら、これからの事を思案する。
目隠しはされなかったお陰で、ここが地下だというのはわかってるけど、この倉庫に入る時に何か手順を踏んでた気がする。このまま出たら、また他の魔法少女に捕まってしまいそうな気がするけど……今、一番の悪手はたぶん、ここにこのまま居る事だと思う。
「まあ、とりあえず出るか……」
我ながら緊張感のない言葉を吐いてるな、と思ったけど私自身、結構
◇
私は特に何事もなく倉庫を出ると、再び一階のホールと戻って来ていた。なぜかエレベーターが使えなくなっており、仕方なく階段でここまで戻ってきたんだけど──誰もいない。
さっきの揺れで、すでに全員ビル外へと避難したのだろうか。でも……なんだろう。胸騒ぎがする。
「──キューブロ殿ぉ!」
不意に後ろから声をかけられる。
見ると、作業着を着た霧須手さんが、大きく手を振りながら私に駆け寄って来ていた。
「おおー! 霧須手さん!」
「探してたでござるよ。どこへ行っていたでござる?」
「えっと、地下の……倉庫ぽい所?」
「……なぜ?」
「いや、ちょっと捕まってて……」
「ふむ。なら、上手く抜け出せたようでござるな、さすがはキューブロ殿。ちなみに、〝捕まってて〟とは、ミス・ストレンジ・シィムレスに捕まっていたのでござる?」
「いや、レンジじゃなくて……あ、そうだ。あの子たちに会ったよ。たしか、心臓破坂の……」
「誰でござる?」
「あの、あの子だよ。えーっと、ほら……名前、はわかんないけど……あれ? 顔もよく思い出せない……」
そもそも、心臓破坂もクリスティである霧須手さん以外の顔思い出せない。結構な頻度でテレビに出てたと思うんだけど……まあ、それくらい霧須手さんの印象が強いって事なのかな。
「あ、あはは……まだまだ拙者たちの努力が足らなかった、という事でござるな……」
「いやいや! そんな事はないよ! えーっと、そ、そうだ! 女の子だったよ、うん!」
「……キューブロ殿は何を言ってるでござるか」
「なんかごめん。ちなみに、霧須手さんは今まで何してたの?」
「デュフフ、それは……色々やってたでござる」
「色々? ……あ、もしかして、さっきの揺れも霧須手さんが?」
「然り」
「……それって、出発前にクロマさんに言われてたやつ?」
「そうでござる。……もう種明かしをしても大丈夫でござろうな。とりあえず、今は最上階にへ向かうでござるよ、キューブロ殿」
「う、うん……て、最上階? 結構階数あるよね」
「33階まであるでござる」
「高っ!? ……無駄に高いね」
「左様。魔遣社ではなく、もはや摩天楼ですな」
「……疲れるしエレベーター使わない?」
「デュフフ、スルーあざす。しかし、もうビル内の電力施設は作動していないでござるよ」
「あー……やっぱり? 地下からここまでエレベーターを使おうって思ったんだけど、なんか使えなくて……やっぱりさっきの揺れが原因なのかな?」
「いや、揺れというよりも、電力そのものの供給をストップさせているので、エレベーターも、正面玄関横の監視カメラも、さっきの受付嬢が使ってた出退勤管理システムも、今は全部使えなくなってるでござる」
「ホントに色々やってたんだ……でも、電力の供給をストップって、今普通にこのホールの照明はついてるよね?」
「夜なので、照明はそのままにござる。暗いと色々と不便でござるしな」
「なんて器用な停電なんだ……」
「ま、これに関しては、
「へえ、そう言う事も出来るんだ! ……あ、てことは、いまここに、その魔法少女が来てるの?」
「ノンノン。たしかに
「江礫さん、かぁ……あれ? 〝療養中〟ってことは……もしかして、それもひろみが関係してる感じなの?」
「いやいや、江礫殿は散歩中に足を挫いただけにござる」
「おっちょこちょいだなぁ……」
「だから、こういう時に備えて──」
霧須手さんはガサゴソと自分のポケットをまさぐると、卵くらいの大きさの黒い塊を取り出した。
「この、特別製の爆弾を預かってるのでござる」
「うーん、抜けてるのか用意が良いのか……。でも爆弾って、なんか物騒じゃない?」
「まあ、爆弾といっても、火薬が入っていて、それを爆発させて破片を飛ばすような、普通の爆弾ではござらん。江礫殿謹製特殊電磁パルスが狙った電子機器類の回路をショートさせ──」
「そ、そうなんだ……うん、まあ、私にはよくわかんないけど、とにかくその爆弾が、このビルの施設を使えなくしたって事なんだね」
「左様」
「……でも、何のために?」
「それは……そのことについては、道すがら話すでござる。とにかく、今はこれ以上ここで駄弁っている時間はないので、最上階を目指すでござるよ」
「あ、うん。了解」
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