第34話 ハテナ☆譲れないこだわり
「今日から復帰……という事は、ほんとに魔法少女……なんですね」
改めて霧須手さんを見る。
しかし、霧須手さんは絶賛、着ぐるみを脱いでいる途中だった。
「んしょ、んしょ……あっ! ……ふ、ふへへ……な、なんでしょう?」
霧須手さんは私の視線に気が付くと、手を止め、にへらぁ……と口を開けてだらしなく笑った。うーん、なんというか、この子は戦いに向いていない様な気がする。
「あの、霧須手さんって、どう見ても学生さんですよね? いいんですか? 学校は?」
「きき、キューブロ殿、今日は祝日ですよ……へへへ」
「ああ、そうなんだ? 昨日出たばかりだから、時間の感覚がボロボロで、全然わかんないや。ん? ……キューブロ?」
「鈴木さん、〝キューティブロッサム〟略して〝キューブロ〟という事ではないでしょうか?」
クロマさんが冷静に付け加えてくれる。
なるほどね。略してきたのね。
でも、そもそも、キューティブロッサムという呼び名にすら慣れていないのに、それをさらに略されるとワケがわからなくなるな。それにべつに略さなくてもいい気が……なるほど、これが今の若い子の距離の詰め方なんだな。把握。
うーむ、でも、これからもこんな感じで、ドンドン若い子たちが出てくるものとして、果たして私はその若さについていけるのかな?
──いやいや、だめだ。
弱気になっちゃだめだ、桜。
笑いのツボが違っていても、話のネタが通用しなくなっても、私はこの子たちと共に働き、共に戦わなければならないのだ。
私は決意を固めると、右手をずいっと前に差し出し、ニカッとフランクな感じで笑った。頬の筋肉が若干震えているのは、たぶん気のせいだろう。
「改めて……初めまして、霧須手さん。これからもよろしくね」
霧須手さんは私が差し出した手をじっと見つめたかと思うと、両手で目を覆って続けた。
「さすが芝桑殿とすぐ仲良くなった御仁。な、なんという対人スキル。コミュ障のわた……拙者には、眩しすぎる。つらたんバーニング」
「つ、つらたんばーにんぐ……?」
何語だよ。さっそく眩暈がしてきたわ。
「と、とにかく、よ、ヨロシャス……デュフフ……握手は……遠慮願いたい」
霧須手さんはそう言って、またへらへらと笑った。
私渾身の握手が空振りに終わってしまい、手持ち無沙汰になってしまったその手で、私はなんとなしに頭を掻いた。
悪い子ではなさそう(?)なんだけど、果たして私とこの子が同世代だったとして、仲良くなれているかは謎である。
それにこの子の話、半分以上がわからないし。まだ
けど、まあそれは今は置いといて──
「あの、クロマさん、霧須手さんが今日から復帰……という事は、何か急ぎやらないといけない仕事があったんですか? それとも、元々この日に復帰する予定だったんですか?」
「さすが鈴木さん。鋭いですね」
「鋭い……? じゃあ本当に、インベーダーが出たんですか?」
「いえ、たまたま今日から復帰するというだけです」
「ややこしいわ。なら鋭いとか言わないでくださいよ。普通じゃないですか。なら、べつにインベーダーが出たってワケでもないんですね?」
「はい。そもそも、インベーダーの出現は何の前触れもありません。あえて言うなら、空が赤くなった頃です」
「つまり、〝インベーダーがいる〟という証拠はあるけど、〝出るかも〟という証拠はないんですね」
「ザッツライト」
「すみません、今、真剣に話してるんですけど……」
「私も真剣に話しているつもりだったのですが……」
しまった。これは八方塞がりだ。
上からはクロマさん、下からは魔法少女の子たち、ともうジェネレーションギャップという地獄から逃げられないじゃないか。
「ですから、今日はリラックスして……」
「ここで待機ですか?」
「霧須手さんと戦闘訓練を行ってください」
「……はい?」
「我々はあくまでも対インベーダー実戦部隊。ですので、こうして戦闘が無さそうな日でも、各人の勘が
「訓練ですか……まあ、さすがにここまで来て、魔法少女が一般の事務仕事とか会計の処理なんかをやらされるとは思ってませんけど……なんか、ますます特殊部隊みたいな感じがしますね」
「ふ、ふひひ、キューブロ殿、せせ、拙者たちは〝特殊部隊みたい〟ではなく、特殊部隊そのものにござる」
「あ、もう、私の名前、キューブロで固定されちゃったんだね……」
「……もちろん、訓練といっても実戦形式ですので、それなりに厳しく、激しい戦闘を行っていただきますが、それによって得られる経験値も計り知れません。とくに、あまり戦闘経験のない鈴木さんと、復帰したばかりの霧須手さんには、早めに戦闘経験を、早めに勘を取り戻していただかなくてはなりませんので、これは決定事項です」
「決定ですか……。まあ、殺し合いとかじゃないのなら、べつに、よく……はないのでしょうけど、実践でトチッて死ぬよりは数段マシですよね」
「デュフフ……ささ、さすがはキューブロ殿。戦闘本能剥き出しですなぁ。オソロシヤオソロシヤ……」
「いや、べつにそんなつもりはないんだけど……って、私、さっきからなんとなくため口利いてるんだけど、霧須手さんのほうが実質先輩だから、敬語は使ったほうがいいのかな?」
「それについては気にしないでください、鈴木さん。というか、魔法少女同士での敬語の使用は、原則として禁止とさせて頂いています」
「……なんでクロマさんが答えてるんですか。それに敬語の使用が禁止って?」
「これは僕の所感ですが、魔法少女同士がお互いの立場を気にして口調を変えるのって、あまりにもビジネスライクというか、薄ら寂しくはないでしょうか?」
「いいえ?」
「……たとえば、日曜日の晴れた日の朝。清々しい朝の空気と眩い陽光に包まれ、高鳴る鼓動を諫めながらテレビの電源を入れたら、現実社会さながらの縦社会を魔法少女たちにまざまざと見せつけられた視聴者はどう思いますか?」
「どうなるかって……べつに」
「困りますよね? チャンネル変えますよね?」
「いいえ?」
「つまりそういうことです」
「そういうことって言われましても……」
「鈴木さん、わかってください。言葉ではなく、心で理解してください。これは命令でも、絶対遵守すべき法律でもありません。僕個人の取るに足らないお願いです」
「いや、でもさっき原則としてって……」
「はい。ですが、突き詰めていくと、結局僕たち裏方の人間に、貴女方、魔法少女の行動を法的にも、物理的にも束縛できる力は持っていないのです。単刀直入に申し上げますと、貴女方の気まぐれひとつで、この世界は良い方向にも悪い方向にも転がってしまいます。……ですが、そうすることによって、救われる命もあるという事を覚えておいてください。少なくとも、僕個人〝玄間邦彦〟が救われるという事を、お忘れなく」
「結局それ、クロマさん個人の趣味趣向じゃない──」
「ちょw おまw クロマ殿w その気持ち、拙者もわかりみが深いでござ候」
「クロマさんだけじゃなかった……」
「フッ、これを理解していただけるとは……さすがは霧須手さん、造詣が深い」
「デュフフフ、これこそは魔法少女における十戒にてござ候。義務教育で習う事柄にてござるよ」
「なんかふたりで結託してるし。がっしり握手してるし。何言ってるかわからないし……ていうか、それだったらツカサも私に敬語使ってくるのはおかしいんじゃ……」
「それはそういうキャラ付けであり、なにも抵触しないと思いますが?」
「えぇ……、境界線がわからん」
「昔から慕ってくれている舎弟が、普段他人とぶっきらぼうに接している女の子が、ある人物にだけは心を開くのって、なんか素敵じゃないですか?」
「べつに」
「ちょw おまw クロマ殿w 拙者も──」
「あー! もう! これ以上話してても無駄に長くなりそうなので話を戻しますけど、結局どこで戦うんですか? 普通に市内で魔法少女同士が戦ってると問題にされそうだし、かといって郊外に移動したら、急に出てきたインベーダーに対応できませんよね」
「そこは問題ありません。きちんと場所を用意してありますので」
「あ、やっぱり、そうでしたか。……それで、その場所はどこに?」
「下です」
「……下?」
「ちち、地下にござるよ、キューブロ殿。度肝を抜く覚悟をしておいたほうがよろしかろう」
「へ、へぇ、度肝って自分で抜くんだね……」
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