第11話 キラリと☆Ms. Strange Seamless


 上位インベーダー、ミス・ストレンジ・シィムレス。

 私にとってはじめて見るインベーダー……だけど、外見はヒトにしか見えない。

 髪はとても長く、膝の下辺りまで伸びていて、その色は吸い込まれそうになるくらいの深い青色。肌も濃い青色ではあるものの、不健康そうな印象はなく、むしろよく手入れされているのがわかるくらい、ツヤツヤしていた。

 そして極めつけは身に着けている衣類。

 まるで西洋のお姫様が着ているような、絢爛豪華な、目にも厳しい青と金が混ざったドレス。とてもじゃないが、戦闘を想定した作りになっているとは思えない。



「貴女が、ミス・ストレンジ・シィムレス?」


「あら、はじめて見る魔法少女ね。そう、あーーーーーーたくしこそが、ミス・ストレンジ・シィムレス。その人よ」



 妙にテンション高めだな。現実世界だと、まず私は距離を置いてしまうタイプの人だ。

 それによく見ると、蛇やワニ、それにトカゲといった爬虫類みたいな鋭い眼をしている。



「〝人〟……インベーダーじゃないんですね」


「フン! インベーダ何某ナニガシは、あなた方が勝手につけた名前でしてよ」


「なんでそこまで言って〝伸ばし棒〟は発音しないんですか……」


「の、伸ばし棒……? こほん。……ともかく、そのような無粋な名前で呼ぶのはおやめなさいな。あたくしにはミス・ストレンジ・シィムレスというルァグジュアリーでハァイセンスな名前がございましてよ? ……ンノォーッホッホッホ!!」



 自信満々の表情で高笑いをしているミス・ストレンジ・シィムレスの顔を見ると、なぜだか私も笑いがこみ上げてきてしまう。

 今更だけど、ミス・ストレンジ・シィムレスってなんだよ。長いし、凄くダサい。でもそれを言って逆上されてもアレだし、今のところは黙っておこう。触らぬ神に祟りなし。触らぬ侵略者に祟りなし。

 ちょっと会話した感じだと、玄間さんの言う通り、害はそこまでなさそう。



「ところでミス・ストレンジ・シ……すみません、長いのでレンジって呼んでもいいですか?」


「れ、レンジ……? なぜ……? それに略称はこの世界において不敬にはあたりませんの? あたくし、べつにあなたとはお友達じゃありませんのよ?」



 至極まっとうな意見だ。インベーダーなのになかなかの常識を持ち合わせている……けど、強く言えないところを見るに、どうやらこちらの世界の常識についてはあまり明るくない様子。いちいちミスなんだかんだというのも面倒くさいし、ここは適当な事を言ってけむに巻こう。



「あたりませんよ。むしろこの世界では、目上の方には積極的に略称をつけるのがマナーなんです」


「そ、そうでしたのね、まさかそのような風習が……! あたくし、またひとつこちらの世界の無駄な知識を得て、賢くなりましたわ! そこな魔法少女、褒めて遣わします」



 うーん……。

 面倒くさい性格ではあるけど、案外流されやすくもあるのかもしれない。敵意も今のところはないみたいだし、このままうまく丸め込めば、帰ってもらうことも出来るかもしれない。とりあえず今は目的を訊いて、方法はそれから考えよう。



「ありがとうございます。ところで私からもひとつ質問いいでしょうか?」


「許可しません」


「……え?」


「続けざまに質問してくるのは無粋というもの。次はあたくしの質問に答えてくださいまし」



 一転して、強めの口調。〝レンジ〟はその爬虫類のような眼で、私を射抜いてきた。この雰囲気だとたぶん断れないだろう。

 とはいえ、べつに断る理由もない。私は遠慮がちに「どうぞ」と言って手番を譲った。


 それにしても何で私はインベーダー相手にも敬語を使っているのだろう。曲がりなりにも相手は人類の敵なのに。言い方は変だけど、この妙に高貴っぽい雰囲気にあてられているのかな。



「さっきも言ったけど、あなた魔法少女ですわよね?」


「あ、はい」


「新人……なわけがないから、いままで別の地区を担当していた……という事かしら?」


「い、いえ? 新人ですけど」


「まあ、これは珍しい。今頃になって新手が出てくるなんて、どうなっているのかしら」



 珍しい? 魔法少女の新人が?

 一体どういう事だろう。レンジは魔法少女について、詳しいのだろうか。少なくとも、私よりは全然詳しいのだろうけど……そういえば、私自身まだほとんど何も魔法少女について、この世界について、インベーダーの事について知らない。



「と、いうのもですわね。あたくし、そろそろ飽きてきてしまっていたの」


「飽きる……? 何にですか?」



 いきなり何を言っているんだ、このインベーダーは。



「もちろん、この世界にですわ。いままで〝ケーサツ〟や〝ジエータイ〟、魔法少女と散々戯れてきましたが、誰も彼もあたくしを満足させられる者はいませんでした。……そもそも、この世界に侵攻した時、あたくしがお腹を下して、お便所で何時間も唸りを上げていなければ、あたくしどもの勝利でしたのに……おケツを拭いて、お便所から出て、お手を洗って、この世界に来てみれば、もうすでに我が主である〝アルシエル様〟は討たれ、大半の者たちも戦意を喪失している始末……」


「それって、体調管理が出来てなかったレンジさんが悪いんじゃ……」


「ふ、不可抗力でしてよ! 前祝いという事で、あたくしの好物を大量にこさえてくれたシェフが悪いんですの!」


「美味しかったんだ……」


「それはもう、どちゃくそにウマかったですわ!」



 なんかこの人、口調のわりにさっきから汚い言葉しか言ってないな。



「それからというもの、ほとんど八つ当たりみたいな感じで、色々とちょっかいをかけさせてきて頂きましたが……これがもう、死ぬほど退屈で。本当にこんなザコ共に我々は敗北を喫してしまったのか、と自問自答と後悔の日々でしたが、ここでようやく、あなたという区切りを見つけましたの」


「区切り……? 私が?」


「ええ。というわけで、あたくし、決めました。決めてしまいました。決めさせていただきました」



 なんだろう。ものすごく嫌な予感がする。



「もしあなたがあたくしを楽しませてくれるほどの戦士であれば、あたくしはこれからも変わらず、ちょっかいをかけ続けます。主にあなたに対して」


「やめてください」


「しかし万が一、あたくしがあなたを認めなければ……あたくしの期待に沿えないようであれば──こんな世界、滅ぼしますわ」

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