第29話 親友の前では気が抜けて、ポロリと本音が漏れてしまう。
愛澄華、飯塚さん、盛快、僕の4人で遊園地エリアのアトラクションを一通り遊んで回った。
現在は4人で昼食を摂っている。
遊園地エリア内にあるテーブルベンチに座り、愛澄華が作ってくれたお弁当を4人で分けて食べる。元々は僕と2人で食べる予定だった。けれど、張り切り過ぎて作りすぎてしまっていたため、4人で分けることで丁度いい量を食べることができた。
食べ終えてから飯塚さんがこの遊園地に対する評価を下す。
「たまにはこういうところにくるのも悪くないじゃん」
「でしょ! 来てよかったでしょ」
盛快が嬉々として、飯塚さんの意見に同調した。
「本当は国民的に有名な遊園地に行きたかったけど………ここも悪くないね」
「……ぐぅ……」
飯塚さんの本心が見える。
本当は別に行きたい遊園地があったけど、渋々この遊園地を選んだという口ぶりだ。
盛快の反応を見るに、まず間違いないだろう。
僕はそっと盛快に聞いてみる。
「どうにかその国民的に有名な遊園地に行けなかったのか?」
「いや、だって、そんなところに行ったら待ち時間が長くて疲れるじゃん」
「その待ち時間も楽しめるのが恋人ってもんじゃないのか?」
「まぁ、そうなんだが………有名どころとなると、待ち時間だけでなく、電車だって混むじゃん」
僕たちがこそこそと話をしていると、飯塚さんはわざとらしく咳払いして告げた。
「別にウチは悪くはないよ。この遊園地。めっちゃ楽しんでるから気にしないでいいし!」
これは言葉通り受け取っていいものだろうか。
そう考えていると、愛澄華が空気を変えるべく午後の予定を提案する。
「そういれば! この遊園地には動物と触れ合えるエリアがありますよ。午後はそこに行ってみませんか?」
「動物? なんの動物?」
「うさぎ」
「うさぎ!」
「ポニー」
「ポニー!」
「あとは、ヒツジ、ヤギ、ブタ……」
愛澄華が話す言葉に飯塚さんは驚いているようだ。
ぽかんとしたあと、ガバっと立ち上がり、言った。
「行くっしょ! 行くっしょ! 当然、行くっしょ!」
飯塚さんは意気揚々と動き出す。
颯爽と荷物を手に取り、先陣を切っていく。
怒から喜へあまりの変わりように僕が呆気に取られていると、愛澄華が言った。
「あかりんは動物が好きなの」
言い終えてから、愛澄華は飯塚さんの後を追う。
金髪ゴスロリ服美少女の背中を眺めながら僕は、傍にいる飯塚さんの彼氏――盛快に聞く。
「言わなかったのか?」
「言うのを忘れてた」
「おい!」
「まぁ~結果オーライということで」
「相変わらずお気楽だな」
盛快が飯塚さんに園内で動物と触れ合えるエリアがあることを言わなかったことを知って、僕は呆れていた。
すでに遠く離れたところで飯塚さんがなにやら叫んでいる。
なにを言っているのかはわからないが、おそらく「はやく~」とでも言っているのだろう。
僕と盛快は遅れる形で愛澄華と飯塚さんのところへと向かう。しかし、先を行く2人の移動速度が速すぎて追いつけそうにない。
向かう先がわかっているのだから焦る必要はないと考え、僕は盛快と駄弁りながらのんびり移動することにした。
「交際は順調そうじゃん」
「そう言っていいもんかな……」
盛快を茶化すように僕が話を切り出すと、盛快は浮かない顔をして応じてきた。
僕は浮かない顔をする理由がわからず問う。
「なにか問題でもあるのか?」
僕は心の中で、僕以上の問題ではないだろう、と高を括り会話をする。
「あかりはわがままなんだよ」
「ほ~ほ~」
「今日だって遊園地に行きたいって言ったから連れて来たのに「ここじゃない!」って言いだすし、まぁ~行先を伝えなかった俺が悪いんだろうけどよ」
「ふむふむ」
「普通気づくだろ。向かってる途中で」
「だなだな」
「おまえ俺をおちょくってるだろ」
「そんなことは—―――――ある!」
「あんのかよ! そこは嘘でもないって言えよ!」
「じゃあ、ないってことにしてやろう」
「なんでそんなに偉そうなんだよ」
「そりゃ、女子との交際で問題を抱えているのは盛快だけじゃない。僕もだからね」
「ほ~ほ~」
「僕はね。盛快」
「ふむふむ」
「愛澄華のこと本当は好きじゃないんだ」
「はああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「いや、そこは「だなだな」でしょ」
「「だなだな」なんて言ってる場合かよ! 諒清! 散々、川田のこと好きって言ってたじゃんか! その感情はどこ行った!」
「……最初からなかった」
勢いよく僕にツッコミを入れたかと思うと、盛快はどこか得心いったという感じに切り出してきた。
「そうか。だから諒清、川田が学園一の美少女と噂される理由を知らなかったのか」
「それはどういう意味かな?」
「諒清は基本、人に無関心だろ。だけど、好きな子となればそこそこ知っている。川田が学園一の美少女と言われる理由を知らなかったのもこれで説明がつく」
「イヤな納得のされ方したけど、事実だから反論できない」
盛快は中学時代のことを言っているのだろう。
関心のない人のことを訊かれたら「知らない」「わからない」と答えていたが、好きな子のことになると訊かれてもいないのにペラペラと話してしまったことがある。
それを機に誰を好きなのかバレてしまったことがある。
「まぁいいじゃないか。付き合ってから好きなることだってあるし、それも悪くないだろ」
「まぁ、それも……そうなんだけど……でも僕が、抱えている問題はそれだけじゃ――――」
そう僕が問題をこじらせていることを話そうとすると、盛快は「おお!」と言って、あるお店に走り出した。
そして、走り出した先にあるお店の前で言った。
「カステラあるじゃん。しかも、くま型の。あかりが悦びそうだ」
いったん話が切れたことで、盛快に話しても仕方ないかと思い、結局話さずにいることにした。
庭城さんに告白しようと手紙を渡したその日、愛澄華の告白を誤って受けてしまったことを。また、愛澄華に好きだと嘘を吐いていることを。
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