第18話 シュークリーム。食べたくなったらコンビニに行こう。
そのことにより、彼女がなびかせたスカートの中に潜む
高低差があったことと、いい感じにスカートが
……嘘です。本当は見ようとだなんて微塵も思っていません。
歩き慣れたマンションの玄関や廊下を通り、家に着いた。
「ただいま」
「おかえり。遅かったじゃん」
家に着くと、リビングで
どうやら今、付き合っている彼氏とスマホを用いていちゃこらしているようだ。
莉雫は以前、好きな相手でなくても付き合えると言っていた。そんな考えでも良好な交際ができているようだ。
両親は家にいない。すでに夜の散歩に出掛けているようだ。
僕は母に帰りが遅くなると連絡してある。川田さんと買い物することが決まった時にこっそりとした。ゆえに、両親は特に心配していないようだ。
食卓には焼き魚、ポテトサラダ、が置かれている。どうやら僕の分のようだ。帰ってきたら食べれるようにと、準備されている。
そんな家の状況を確認してから、自室へと向かう。そこで、読む気になれない英字入りのTシャツに短パンという緩い部屋着に着替えて、手を洗った。
味噌汁とご飯を温めて食卓に並べる。ご飯にふりかけをかけ、夕食を食べ始めた。
リビングの莉雫を見ると、未だに彼氏をいちゃこらタイムを満喫しているようだ。
僕は焼き魚の骨を取りつつ、ぽつりと言葉をこぼす。
「好きでもない相手と付き合ってて楽しいの?」
ポロっと出た言葉に僕自身がビクンとする。今の僕だってそうじゃん。動揺からか、魚の骨をうまく取れない。
「楽しいよ」
言葉通り楽しそうにスマホを操作しながら、軽い感じに莉雫は応じてきた。その言葉を聞きながら、魚の骨を取る手を進めた。
「告白されたら悪い気がしないし、そこから始まる恋も悪くはないんじゃない?」
「そういうもんかな?」
僕は今日の川田さんとの放課後デートを思い出しつつ、考えてみる。100%肯定できるものではなかったが、思い返してみると楽しめていた気がする。
そう考えつつ、手を動かしていると、魚の骨がキレイに取れていた。これでようやく僕は魚を食べることができる。
魚の骨を取るのに抱えた多少のストレスを癒すべく、温かな味噌汁をすすりだしたところで、莉雫が変なことを言いだす。
「なに? お兄ちゃん、告白でもされたの?」
口に含んでいた汁物を噴き出しそうになる。それに堪え、可能な限りの平静を装い、莉雫の質問に応じた。
「……は⁉ なんで?」
「だって、お兄ちゃん。普段はそんなこと言わないじゃん。帰りが遅かったのもそれが理由とか?」
いやに勘の鋭い。莉雫に言い当てられてしまい動揺するも、肯定する気になれない。ゆえに……
「ちげぇよ。学校でそんな話してたから、莉雫はどうなのか気になっただけだ」
……否定してしまう。
「えー、つまんないの。お兄ちゃん、生きてて楽しい?」
「人生恋愛がすべてだと言うのだとしたら、楽しくない! だが、基準がそうでないのなら、楽しめている……かもしれない」
人生を楽しめていないと言うのがなんとなくしゃくであったため、僕自身でもよくわからないことを言ってしまう。
「結局どっちなの?」
「人生、楽しいと思えば楽しいものなのさ」
「そんな哲学的なこと言われても莉雫にはわかりません」
同感! 僕にもわからない。だからこそはっきりと言える。
「なら、わからなくて結構!」
むしろ僕に理解できないことを、妹たる莉雫に理解されたらショックだ。理解されなくてよかったという安心感が胸を満たす。
「ただいま」
父と母が帰ってきたようだ。
玄関が開いたかと思うと、すぐさま、僕や莉雫がいる方へとやってきた。
「おかえり」
お母さんはキッチンに入って、すぐ左手にある冷蔵庫へと、エコバッグから取り出したなにかを入れていく。
お父さんはというと、キッチンの向かいにある洗面所で手を洗っているようだ。
お母さんのそんな機敏な動きに真っ先に反応したのは莉雫だった。
「なにか、買って来たの?」
「うん! シュークリーム!」
甘い物で笑みをこぼすのに年齢は関係ないのだ。とでも言わんばかりの無邪気な笑みを浮かべて、莉雫の問いに母ははっきりと答えた。
甘いものの誘惑は誰にも止められない。そう感じさせられる。
「やった! ちょうど甘いものが食べたかったんだよね」
母は手早くシュークリームを冷蔵庫へと閉まったあと、流し台で手を洗い、やかんでお湯を沸かし始めた。その動きはまるで水を得た魚のように滑らか、かつスピーディーだ。
その動きが伝染したかのように莉雫は、紅茶を入れる準備を始めた。ティーバッグをマグカップに入れる。
お湯を沸かし始めたばかりだというのに、気早に準備を始めた莉雫に、母は残念な事実を視覚的に突きつける。
「まだ早いよ~」
「え~、沸いてないの?」
「うん。今、沸かしてるじゃん。ほら見て!」
母に悲報を突きつけられた莉雫はドスの利いた「え~」で大層残念だということを表現する。そして、ティーバッグをいれたマグカップを母に託す。
「湧いたら入れといて」
「いや、自分で入れなよ」
莉緒は母が言ったことを聞いていないのか、返事なくリビングにあるソファーへと場所を移した。ソファーに戻ってからの動きを見た感じ、彼氏とのイチャイチャを再開したように思える。
莉緒と母のやり取りを一通り終えた後、洗面所で手を洗い終えた父がキッチンに現れた。父は、莉雫、僕、母、の順で見ていき、一拍だけ置いてから母に言う。
「ん? お湯は?」
「だから~、今、沸かし始めたところ!」
「え⁉ そうなの?」
先ほどの莉雫と似たようなやり取りを父がしているのを僕は目の前で見て、なんだかそれがおかしく感じ、堪らずツッコんでしまう。
「さっきの莉雫とのやり取りと一緒じゃん!」
「一緒だよ!」
「ん? そうなの?」
莉雫と母が会話している際、そんな遠くにいなかったはずの父は、何も知らないようで不思議がっている。
そうこうしているうちにお湯が沸いたようでやかんから沸騰する音が聞こえてくる。
「お湯沸くの早くない?」
「昼に沸かしたのを今、沸かし直してるからね」
母は、僕の問いに返答しつつ、ステンレス製の卓上ポットに沸いたお湯を入れる。
シュークリームを買って来たことを知らされた時から、なんとなく僕は急かされているような気になる。……と、いうのも、僕はまだ夕食を食べている最中だった。まだご飯と魚が半分ずつある。とはいえ、
「さて、食べようかな?」
お湯が沸いたことにより、本格的にシュークリームを食べ始めようと母は飲み物の準備を急いだ。ティーバッグをマグカップに入れる。そして、お湯を『母自身のマグカップにのみ』入れた。
莉雫が立ち上がり、リビングからキッチンの方へと向かう。その動きに合わせるように、母は冷蔵庫からシュークリームを『自身の分だけ』取り出した。
取り出したタイミングで莉雫が言う。
「莉雫の分も出してよ」
「え⁉」
莉雫と冷蔵庫との距離は数歩分。わざわざ出してあげる距離でもない。のに、ねだる。
仕方なし、という風に母は莉雫にシュークリームを渡した。
「俺も」
「え⁉」
莉雫と同じく、冷蔵庫との距離は数歩分の父がねだった。これまた、仕方なし、という風にシュークリームを渡す。
「僕も」
その流れに乗る形で僕も名乗りを上げた。
「え⁉
「もう食べ終わった」
意識したわけではないが、食すスピードが上がり、気づいたら食べ終えていた。食べ終わるタイミングと、母がシュークリームを取り出すタイミングが、たまたま一致したのだ。
またまた、仕方なし、という風に冷蔵庫からシュークリームを取り出す。キッチンカウンターに置いてくれた。
動きは仕方なしだというのに、頬は緩み、なにがおかしいのか、微笑みを浮かべている。
莉雫と母が、先にシュークリームと紅茶入りのマグカップを手に持ち、リビングへと移動していく。2人がキッチンから離れてから、父が紅茶を入れだす。そのタイミングで、僕は汚れた食器を流し台に置く。
父が紅茶を入れてから、僕も入れる。
僕と父が、シュークリームと紅茶入りのマグカップを手に持ち、リビングへと移動する。
そして、リビングに家族4人が集まったところで、図ったかのように一斉に号令と共にシュークリームを食べだした。
「「いただきます」」
私—―川田愛澄華は家に帰り夕食を食べ終えてからリビングで裁縫中です。
今日、諒清との買い物で購入した材料を使います。
「お姉ちゃん。ごきげんだね」
裁縫中、るんるん気分でいると、中学生3年生である妹の蒼華に声を掛けられました。
蒼華は勉強中だった手をわざわざ止め、私の方を見ています。
「そう見えますか?」
諒清との買い物を思い出して、頬が緩んでしまいます。
そんな私の顔を見た蒼華は覗き込むようにして聞いてきます。
「もしかして彼氏でもできた?」
裁縫中だった手を止め、顔を赤らめてしまいます。
体が正直に反応してしまった恥ずかしさから、私は小さく頷き、彼氏ができたことを認めます。
私に彼氏ができたことを蒼華にバレてしまいました。
「ふーん。今度はうまくいくといいね」
元カレ――勝己とのいざこざを知っている蒼華はそう言ってくれます。
本当にその通りで私はこの恋。うまくいくことを願っています。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます