第19話 熱い男は嫌いじゃない。熱すぎるとそうとも言い切れない。感覚的過ぎて違いがわかりません。

 川田さんと放課後デートした翌日。学校の掲示板を見て驚いた。


 その新聞の見出しはこうだ!


『学園一の美少女、新しい彼氏と初放課後デート!』


 前回の交際を始めたという記事に引き続き、またもや僕と川田さんのことが記事にされている。まさか彼女ができることで僕のプライバシーが侵害されるとは思っていなかった。


 思えば川田さんの元カレもそうだった気がする。別に記事自体をを見たわけではないが、彼が教室内で声高に話していたことを僕はうっすらと覚えている。


 その彼はこうも話していた。『自分から告白した。当然だ。じゃなきゃ意味がない』と、どういう意味がないというのだろうか。過去の彼の言動に疑問を抱きつつ、教室へと向かっていく。


 今日は彼女と一緒ではない。


 特に待ち合わせをしていたわけではないため、なんら問題はない。ただ、一度一緒に登校をしてしまったためか、登校時にひとりでいるのがなんとなく寂しかった。


「どけよ!」


 そんなにのんびりと歩いている感覚はなかったが、ひとりの男に後ろからどつかれた。その彼の顔を恐る恐る覗いてみると、川田さんの元カレ――野村のむら勝己かつきだった。


 野村くんは高身長でガタイがよく、これぞバスケ部、というオーラをまとっている。近くで見るとそれがよくわかる。


「あ、ごめん」


 ガチで運動部の活動をしている人が持つ独特の勝気オーラに押されて僕は野村くんに道を譲る。


 野村くんは周囲からの評判がいいはずなのに、なぜか僕に対する当たりが最近強い気がする。昨日も今日もそうだが、野村くんににらまれているようでならない。僕はなにか野村くんにうらまれるようなことをしたのだろうか。


 そうですね……野村くんの元カノと付き合ってます。野村くんの態度が一変した時期と、僕が川田さんと付き合うことになった時期が同じであることから明らかだろう。


 前までは僕にも優しくしてくれていた。盛快が休みの時に組むペアがいない僕と組んでくれたり、落ちた消しゴムを拾って優しく渡してくれたり、「真面目過ぎて気持ち悪い」と僕をののしった相手に「そんなこと言うのは可哀想かわいそうだ」とかばってくれたり、なにかと優しさを感じることがあった。


 そんな野村くんが道すがら肩をぶつけてきたり、睨んできたり、掌を返したように態度が変わってしまった。なにか野村くんに対して直接的に悪いことをしたわけではないにもかかわらず、僕は申し訳ない気持ちになってしまう。




 教室に着くと、盛快に絡まれた。当然のように肩を組んでくる。


「よう! 諒清りょうせい! 彼女とは順調みたいじゃないか」

「どうして、! を強調するの⁉」

「今まで彼女ができなかった諒清に! 彼女ができたんだ。そこを強調しないでどこを強調しろというんだ」

「そもそも、どこかを強調しないといけないなんて決まりはないはずだけどね」


 盛快は僕の話を聞かずに続けようとしてくる。


 このまま聞き続けていたら、チャイムが鳴るまで僕は席に着けそうにないため、盛快の手をけながら自分の席に着く。


「しかもその相手がまさか、学園一と噂される美少女とはね」

「それに関しては僕も驚きだよ。まさか告白されるとは考えていなかったからね」

「そんなこと言って、好きな相手としか付き合わないって言うお前だ。告白される前から好きで、少しぐらい考えていたんじゃないのか?」

「そんなことはない」


 なにげない会話を盛快と交わす。


 ここ最近、盛快と話している時が一番落ち着く。こう言うとBL臭がするかもしれないが、そういうわけではない。僕も彼も彼女持ちで普通に女の子が好きだ。


 ……ん? 説得力ない? お前は告白の返事を間違えただけだろって? そこを否定できないのが今の悩み。


「それにしても川田さんと放課後に買い物していたことを記事にされるとは思わなかったよ。あれってプライバシーの侵害にはならないのかな?」

「君もそう思うよね!」


 盛快と話していたはずなのに、会話に割って入ってくる人物がいた。それは僕と同じクラスの学級委員で、現在は生徒会長も務めている宮本みやもと稜真いずまだ。


 彼は人望があり、1年の頃から生徒会長を務めている。彼の言うことを聞く者は多い。そんな彼が僕の言うことに賛成だと言う。


「新聞部のあり方についてはつくづく思っていたんだ。誰と誰が付き合うようになった。別れた。どこどこにデートに行った。それらは個人のプライバシーだ。勝手におおやけの場にさらしていいわけがない。君もそう思うだろ!」

「……うん……そうだね……」


 彼の熱に押されてたじろぐ僕。そんな僕に構わず、話を続ける。


「今までは記事にされる人たちが、むしろ記事にして欲しいと言う人ばかりだった。そんなことから、提言することが躊躇ためらわれたが、遂に反対勢力が現れてくれたか。感謝する」

「……どうも……」


 なにを? どう? 感謝されたのかイマイチ理解できないが、生徒のことを思ってくれているという熱量だけは確かに伝わってくる。


 そんな彼の熱心な行動が生徒の心を動かして、生徒会長に選ばれたのだろう。かくいう僕も前回、彼に投票した。今度、生徒会選挙が行われるときも投票する予定だ。


 彼の生徒会権力の基、今後の新聞部のあり方が変わっていくことだろう。


 そうこうしているうちに、チャイムが鳴る。そういえば今日は、体育の授業があるはず、内容はバスケ。

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