第34話 こじらせ童貞立石を文芸部員らがいじる
「どうしてここに!」
「あたしが呼んだの」
「すずねこの補習の応援にと思ったんだけど……」
「いや、
「やっぱりそう思う?」
「ふたりとも聞こえてるっスよ」
僕と
「それで、テーブルの上に勉強道具らしき物がありませんが、
「いや、もうそれは終わったから大丈夫だよ」
「なんと! 私の応援なしに終えてしまうとは私の存在理由とはいったい……」
「存在価値なし! ね……」
「そりゃないっスよ」
入江部長の言葉を受けて残念がりつつ、イスに座ってお菓子を食べ始める香崎。そしてもぐもぐさせつつ訊いてきた。
「それなら部室に移動してもよかったんじゃないっスか?」
香崎の言葉に僕は納得するも、入江部長は困り顔で言い出した。
「それがダメなのよ」
「それはなぜっスか?」
「補習が終わっても、会議が続いているからなの」
「おう! そういえばここは会議室でしたっスね」
「そう。会議室では会議をしないといけない決まりなの」
そんな決まりはない。
「それで? どんな議題なんっスか?」
「こじらせてしまった立石くんの恋愛事情についてよ」
「なんと! 確かに立石先輩は童貞をこじらせてそうっスね」
香崎の生意気な発言に「おい!」と制止しようとするも、入江部長が香崎に乗ってきた。
「でしょ。だからね。そんなこじらせてしまった立石くんを
「なるほど~」
なぜか入江部長の発言に納得している香崎。「いやいや、なるほど~じゃないから」と僕がツッコミを入れるも、聞いておらず話を続ける。
「それじゃ、立石先輩。さっそく脱ぐっス」
「は?」
「いや、は? じゃないっスよ。こじらせた原因が童貞にあるなら、今すぐ卒業して矯正するっスよ」
「ちょっと、かなちゃん。こんなところでそんな……」
鈴寧さんが必死に香崎の行動を制止しようとする。
「確かにそうっスね……」
納得してくれたようで、僕と鈴寧さんがホッとするもつかの間。香崎の暴走は止まらなかった。
「それじゃ、ホテル行くっス」
「は⁉」
「いや、は⁉ じゃないっスよ。立石先輩はいったいどうしたいんっスか?」
「それはこっちのセリフだ。いったいなにをするつもりだ!」
「そうよ。かなちゃん! わたしが先なんだから!」
「そうだ。鈴寧さんとが先……ってそうじゃない!」
「え? 違うの? 立石くんはわたしとしたくないの?」
鈴寧さんが「うー」と泣き出してしまう。
それを見た香崎は「やーいやーい。泣かしてやんの」と僕をからかってきた。こいつ。
鈴寧さんは泣き出し、香崎の暴走は止まらず、会議室内がカオスと化した状況で、クスクスと入江部長が笑い出した。
「いや! 入江部長! なに笑っているんですか⁉」
「ごめん。ごめん。立石くんがあまりにも童貞をこじらせてるもんだからつい」
「今の会話の中に僕がこじらせている要素ありました⁉ そもそも僕は彼女持ちですから!」
童貞だと決めつけられていることが気に食わず、否定する意味での彼女持ちアピールだったが、その発言は間違いだと気づかされる。
「あーそういえばそうっスね」
差も興味なさげなトーンで返す香崎。それに対して僕はツッコミを入れる。
「なんでそんなにテンション低くなるの!」
「いや、急に自慢話が始まったんで、わかりやすく、うわー冷めるわーってしないといけない気がしたっスよ」
「なんかごめん。別に自慢ってわけじゃなかったんだけど……」
「それでヤったんっスか?」
「なぜそうなる⁉ そしてテンション高い!」
「え⁉ 川田さんのこと好きって言ってなかったのに……うっうっ。わたしのことが好きって言ったのは嘘だったのね! うえーん」
本格的に泣き出してしまった鈴寧さんをどうしたものかと困惑している僕。香崎は気にせずに驚きだした。
「え⁉ ていうか、先輩。今付き合っている彼女のこと好きじゃなかったんっスか?」
「そうだよ! そして僕は誰ともヤってない! 童貞だ!」
僕が恥ずかしい事実を声高らかにはっきりと言う。すると場の空気が静まり返った。
鈴寧さんは泣き止み、香崎の暴走は止まる。
ここぞとばかりに入江部長が、議題をまとめにかかる。
「はい! ということで、『好きでもない子に好きだと嘘を吐いて付き合い続けているこじらせ童貞—―
なんともダサい議題だ。また、事実であるところがまた何とも言えない情けなさを感じる。
会議室内にあるホワイトボードに入江部長が議題を書く。
気づけば僕の恋愛に関する会議が文芸部員4人で執り行われていた。
まずはわんぱく娘こと香崎夏波が発言する。
「はいはい!」
「はい! かなちゃん!」
「とにかく童貞を卒業すれば解決だと思うっス」
「ん~それは面白そう……だけど、根本的な解決にはならないから却下!」
「え~」
「いや、え~じゃないだろ」
「はいはい!」
「かなちゃんどうぞ」
「舌を噛んで死ぬ」
「いきなりこえーわ!」
「え~じゃあ、舌を噛むように強制されて死ぬで勘弁するっス」
「死ぬことに変わりないよね!」
「え~じゃあ、もう案ないっスよ」
「なんでエロとグロしか案がないんだよ」
「はい!」
「すずねこ。どうぞ!」
「とりあえず、わたしと付き合う」
「うん。その心は?」
「わたしと立石くんが付き合いだしたことを知った川田さんは「もう私のことが好きではなくなったのね」と身を引くことが考えられます」
「うん。ちなみに逆の立場だったらどう思うかしら?」
「あなたを殺して、わたしも死ぬ」
鈴寧さんはさらっと怖いことを言う。まさか本気で言ってないよね。
「つまりは庭城先輩も私と同じ意見ということっスね」
「なんでそうなる!」
「死ぬ! という共通点があるっス」
「どちらの意見を採用したとしても死ぬ! ってどういうこと⁉」
「安心するっス。ちゃんと骨は拾ってやるっスよ」
「え? いや、違うよ」
僕がもう死ぬしかないと諦めかけていると、鈴寧が否定してきた。
「川田さんは気が多そうだから、わたしと立石くんが付き合いだしたことを知ったら、別の人に乗り換えると思うんだ」
「そうっスか?」
「うん。だって川田さん。立石くんと付き合いだす1ヶ月前に別の人と付き合ってたし、きっと乗り換えてくれるかなって」
「なるほどね……いいんじゃないかしら?」
「私も賛成っス」
「いやいや、よくないよくない。絶対によくない」
「なにがそんなに不満なんっスか? こじらせ童貞立石!」
「変な異名で呼ぶの止めて!」
「それで? なにがそんなに不満なの? こじらせ童貞立石くん」
「入江部長まで乗らなくていいですから」
「「いいから答えなさい!」るっス!」
まるで引っ張ることになったのを僕が悪いことのように皆から圧を受ける。
場が静まり返る中、僕は一度咳払いをしてから、自身の意見を述べることにした。
愛澄華のプライバシーに関わることだから本当は言いたくないのだけれど、言わないと納得してくれなさそうだ。
「
「そんなこと言っても、誰も傷つけずにことを済ますことはできなんじゃないかしら?」
「そうですけど……それでも、僕は誰も傷つけないでことを済ましたいんです」
「「こじらせた現況を作った当人がなにを言っているの」んっスか」
「グハッ!」
僕の恋愛状況に関する会議は部活終了時刻まで続いた。
だが結局、妙案は思いつかなかった。
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