第35話 お守りの存在を忘れていたわけではない。
文芸部員4人による会議後の学校から自宅への帰り道。
僕は
とりあえずは普段通り過ごすことにした。
「
「可もなく不可もなくって感じだったよ。
「私の方は諒清のおかげで好調でした」
「そうか。それはよかった」
試験の結果が良かったのは僕のおかげだと愛澄華は言ったが、僕はなにかしてあげた記憶がない。
「そういえば、渡したい物があるんです」
「渡したい物?」
「はい!」
そう言って愛澄華は足を止め、カバンの中をごそごそと漁りだす。僕も足を止めた。
愛澄華がカバンの中から取り出したのは、お守りだった。
それを僕に渡してくる。
僕は受け取り、手に持った状態で見ると、それは明らかに市販のものではなかった。
「どうしたのこれ?」
「手作りです」
「手作り?」
「はい! 私と諒清が初めて放課後デートした際に購入した材料で作りました」
「え? あのときの?」
「はい! 本当はもっと早くに渡したかったのですが、慣れないもので今になりました。すみません」
「へ~……驚いたよ。大変じゃなかった?」
「諒清のことを思えばこんなの大変の内に入りません」
「……そう」
愛澄華との関係に思い悩んでいるところにプレゼントとは……気が重い。
ただそれでもせっかく作ってくれたのだから受け取らないわけにはいかない。軽くお礼を言って、僕の名前が
そのタイミングを持って、愛澄華は自身が持つお守りを、僕が持つお守りの隣に並べる。
「こうするとハートになるんですよ」
「へ~」
愛澄華が言うようにふたつ繋げるとハート型になる。さらにそのハートの中には「りょうせい」と「あすか」と僕たちの名前が書かれていた。
よく友達を茶化すときに使うあれだ。
それを思うと気恥ずかしく、本来ならカバンに着けておくべきだろうお守りをカバンの中にしまった。
「む! お守りはカバンに付けるものですよ」
そう言って愛澄華は自身のお守りをカバンに付けて見せてくる。
「え~ヤダよ。恥ずかしい」
「ダメです。こうしないとお守りの効果が薄れます」
愛澄華は僕のカバンからお守りを取り出して、無理やり付けにかかって来た。
致し方ないと僕はそれに従うことにする。
カバンに付いたお守りを確認すると、愛澄華は嬉しそうにしていた。
「まるで仲の良いカップルみたいですね」
「みたいじゃなくてカップルでしょ」
「そうでした」
嬉しそうにしている愛澄華を見ると僕は、彼女に嘘を吐いていることがどうでもよくなってくる。
「そういえばお守りの中身ってどうなってるの?」
「え?」
「見てもいい?」
「ダメです!」
お守りの中身を見ようとする僕の手を愛澄華は、ぎゅっと握って制止してきた。
触れた手から、女の子らしい柔らかい感触と温もりが伝わってくる。
愛澄華は必死の形相で僕を見つめており、手と手が触れ合っていることに気づいてないようだ。
それは時間にすれば数秒。だけれども、感覚的には永遠のように感じられた。
「は⁉ すみません。私ったら……」
「いや……悪いのは僕だよ。そうだよね。普通、お守りの中身は見ないよね」
僕は頭を
愛澄華は愛澄華で考え込む素振りを見せたあと、言った。
「そうですよ。お守りの中身を見ようだなんて罰当たりです」
続く言葉は縁起でもないことだった。
「もしも諒清が罰当たりな人間だと思うなら別に見てもいいですが……いえ、諒清はそんな人ではありませんよね」
その言葉を受けた時、彼女は僕が嘘を吐いていることを知っているんじゃないのかと思われた。
真実を知っているんだとしたら、いつまでも隠している必要はない。そう思い打ち明けようとした。
だが、僕より先に彼女が先の言葉を続ける方が先だった。
「私、怖いんです。不安なんです」
愛澄華は哀しそうな顔をしていた。
それは野村くんとの過去を話していたときに似ている。そのことから、愛澄華は過去の……野村くんとの交際を思い出しているように思えた。
愛澄華の哀しそうな顔が僕の胸を締め付ける。
僕が黙って愛澄華を見ていると、彼女は僕の胸をさらに締め付けにかかってくる。わざとではないだろう。でも、確かに僕の胸は締め付けられた。
「でも、よかったです。諒清は好きな人としか付き合わないっていう信念を持ってるから、私は安心して付き合えます」
そう言って僕に笑いかけてくる愛澄華。その表情に一点の曇りもなく、僕はただただ後ろめたい気持ちを抱いていた。
「それで結局、言い出せなかったんスか?」
翌日の放課後。
文芸部室にて、僕は香崎に
「せっかく私が童貞卒業すれば万事解決だとアドバイスしてあげたというのに」
「いや、その案は却下されたでしょ。そうですよね。入江部長」
「ん~まだ完全には消滅しきれていなかったような……どうだったけ。すずねこ」
「へ⁉ ……立石くんさえよければ……いいよ」
「なんで誰も僕に賛同しない」
「それで、立石先輩。誰と、いつ、どこで、するっスか?」
「わたしとだよね! ね!」
「ヤる前提で話を進めるの止めて!」
昨日に引き続き、今日も会議が開催されていた。
昨日とは違い会議室ではなく、文芸部室なのに……それはいいのだろうか。
そんなことを考えるもツッコむ気になれず、会議は進行する。
「それで? 結局どうするの?」
しばらくの間を置いてから、香崎がひらめいたという素振りを見せてから提案する。
「そもそも真実を話す必要ないんじゃないっスか?」
「僕に噓つきのままでいろと」
「そこまできついことは言わないっスけど……」
香崎が続きを話すのを静かに待つ。
顎に手を当て少し考える素振りを見せてから香崎は言った。
「ただ単純に別れを切り出せばいいんっスよ。なにもバカ真面目にすべてを話す必要はないっス」
香崎の案に納得する僕。その横で入江部長がクスッと笑って失礼な理由で否定した。
「かなちゃん。それはできないと思うわ」
「……どうしてっスか?」
「立石くんはバカ真面目だから」
「あ~」
「いや、あ~じゃない!」
「確かに」
「鈴寧さんもなに納得してるの」
「じゃあ、立石先輩。できるってことでいいっスね」
「もちろん!」
僕は
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