第41話 頼りになる妹。

 諒清りょうせいが私—―川田かわた愛澄華あすかのことを好きではないのに今まで付き合っていたという事実を知ってから再びの闇が訪れました。


 2度目だというのに慣れないもので、ついつい周りに当たってしまいます。


 周りに当たったところでなにも解決されませんし、私の気も晴れることはありません。


 諒清が私のことを好きだと言った事実は拭えません。


 その事実を思うと、今まで諒清はずっと嘘をついてきたということになります。


 だからこそ私は彼を許せません。


 嘘を吐かれるのはもう嫌です。


 勝己かつきに嘘を吐かれましたし、その上、諒清にも嘘を吐かれました。


 結局、私には男運がないんです。


 諒清は私を訪れてきましたけれど正直、なにしにきたのかわかりません。


 今更、なにをしようというんですか。なにをされようとも私に嘘を吐いたという事実に変わりはありません。




「ただいま」

「おかえり」


 私が家に帰ると、妹の蒼華そうかがリビングでくつろいでいました。


「お姉ちゃん。帰ってくるの早くない?」

「蒼華こそどうしたんですか?」

「ソウカは作戦会議というか……彼の誕生日が近いからどうしようか考えてた」

「……そう……ですか……」


 蒼華には彼氏がいます。


 その彼は幼稚園児の頃からサッカーをしていて、多くの女子から好意を寄せられていました。蒼華もそのひとりで、過去に何度も別の女に取られていたことがあります。


 周りからしつこいと言われたことだってあったでしょう。彼にだって煙たがれることだってあったでしょう。


 それでも諦めず好意を向け続けた結果。蒼華は思い人である彼と付き合うことができました。


 仲良さそうにしている姿を何度か見たことがあります。


 そんな妹を私は羨ましく思います。


「それで? プレゼントは決まったんですか?」

「ううん。まだ……っていうか。お姉ちゃん、なんか元気ない?」

「そう見えます?」

「見えるもなにも……前の彼氏と別れたときと同じ顔してるよ。……こう、なんというか……世界の終わりって感じ? もしかして新しくできた彼とも別れた?」


 なんでしょうこの感じ。


 妹に見透かされるという恥辱ちじょく。どう言葉に表したらいいのかわかりませんが、とにかく……いい気分ではありませんね。


「よく覚えていますね」

「そりゃ覚えてるよ。まだ1、2か月ぐらいしか経ってないし……っていうか本当なの?」

「本当ですよ」


 なんだか妹が信じられないと言っているようにしか聞こえません。


 情けない姉の私に蒼華は詳しい内容を聞いてきます。


「フったの? フられたの?」

「フラれました」

「……そっか……」

「でも……そこは大した問題ではありません」

「いや、結構な問題だと思うけど……じゃあ、お姉ちゃんが問題だと思っていることはなに?」

「諒清がね……あ! 諒清っていうのは付き合ってた彼のことで」

「いいから続けて」

「諒清が私のこと好きだって嘘ついてたんです」

「それで?」

「それだけですよ」

「……そう、なんだ……」


 蒼華はしばらく考える素振りをしてから、自身の不満を告げてきます。


「……でも、お姉ちゃんの中にある好きって感情に変わりはないんだよね?」


 蒼華に言われて考えてみます。


 私の中に、諒清を好きっていう感情があるのでしょうか。


 諒清との日々を振り返ります。


 登下校を共にして楽しかったです。


 体育の授業で倒れたと聞かされて、心配でした。そのあと無事を確認出来てほっとしました。保健室での食事が新鮮でよかったです。


 ファミレスでの勉強は幸せでした。フォンダンショコラを食べさせてくれたときは、チョコを欲する感情を抑えていたリミッターが外れそうでドキドキしました。


 遊園地で頭を撫であったとき、私は他では感じられない安心感を得られました。あかりんに諒清のこと好きか聞かれたとき、私は好きだと答えました。その時の気持ちに嘘はありません。


 では、今は…………。


「どうなの? お姉ちゃん」


 蒼華は私が答えるのを待っています。


 私を見据える瞳は眩しいです。


 でも、それでも……目を逸らしてはいけないような気がしました。


 だからこそ私は蒼華に胸の内を打ち明けようとします。でも……。


「……わかりません」


 諒清の好きな人としか付き合わないという考え方に感銘を受けて、彼を好きになりました。だというのに、彼は私と付き合っていたというのに……本当は私のことが好きではないことを知りました。


 いったい私はどうしたらいいのかわかりません。


「ねぇ、蒼華。私はどうしたらいいと思いますか?」


 気づけば、情けなくも私は、中学生の妹に相談していました。


「……お姉ちゃん」


 蒼華はしばらくうつむいてから、はっきりと言いました。


「大丈夫! 大丈夫だよ! 蒼華の任せて!」


 胸に手を当てて、力強く宣言しました。

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