第12話 新聞部が広めるのは恋愛に関する事だけ
学校に着くころには繋がれていた手は離れていた。校内に入ったところでそのことに気づく。
別に手を繋いでいたいわけではない。勘違いしないで欲しい。むしろ、手を繋いだまま堂々と校内に入るなんて恥ずかしいこと、僕にはできない。
僕達が校舎玄関に着くと、掲示板前に人混みができていた。ちらちらと僕や川田さんを見て、ひそひそ話をしている。
多少気になりはしたが、僕は気にしないようにした。川田さんも特に気にしている様子はない。
僕と川田さんは互いに靴を上履きに履き替え、再び合流して教室へと向かう。2年B組の教室の前で別れた。
「おっはよう!
陽気なあいさつを掛けてきたのは
「別にいいじゃん。僕が川田さんを好きであっても僕の勝手でしょ」
組んできた腕を払い、僕の机まで移動。カバンを机に置いて席に座る。盛快は僕について来て前の席に座った。椅子の背もたれを右腕で抱える形で顔は僕の方を向いている。
可能な限り平静を装って答えたつもり。だが、僕自身が言ったことを振り返ってみて焦る。
彼女のことを好きって言っちゃってるよね。
昨日の告白でも川田さんのことが好きだと言ってしまった。ゆえに、もう後に引くに引けない状況であるため、問題ないといえば問題ない。
だが、本当のところは僕は川田さんのことが好きではないことを考えると、傷口を広げているようでならない。
「諒清があんな堂々と女子のことを好きだと言えるなんてなぁ~。本当に好きなんだな」
さて、僕は今、どんな顔をしているだろうか。おそらく、ひきつった顔をしていることだろう。鏡がないから直接にはどんな顔をしているか確認することができない。
ただ、感覚的にひきつった時の動きを顔がしてくれている。なんて僕の顔は正直なんだ。
「なんだよ。その顔。さては諒清……」
親友はイタズラっぽく、わざとらしく、続く言葉を溜める。
バレたかな?
いや、バレて欲しいんだよ。僕の正直な顔だって、バレたがっているけど、口で言うのは
盛快よ。僕の心の奥底にある思いを汲み取ってくれ!
「初めて彼女ができて気後れしてるな」
嬉しそうに笑いながら右手で僕の左肩を叩く。痛くはない。痛くはないのに叩く音はしっかりと聞こえる。
「実はそうなんだよ。まさか、僕に彼女ができるなんて思わなかったよ。しかもその相手が学園一と言われている美少女だからね」
僕の顔がいくら正直であっても僕の口は正直になれない。本当はヒロインを好きではないということがバレたとき、どうなるのかを考えると言い出せない。臆病者だ。
そんな僕の本心をいざ知らず、盛快はガッツポーズみせている。
「やっぱりな! オレの勘は当たるんだよ」
当たってないけどね。
盛快の陽気な姿を見ると元気になる。僕の悩みが陽気という覇気でどこかへ飛んでいってくれそう。だが、そんなことはない。
そんな簡単に悩みは消えてくれない。だからこそ、悩みなのだといえる。
「そういえば見たか?」
「なにを?」
「校内新聞だよ。新聞部が作った」
「あ~、あの恋愛のことしか記事にしないことで有名な」
そういうえばと、掲示板前がいやに賑わっていたことを思い出す。それは新聞部の仕業だったようだ。
この学校には新聞部が存在する。恋愛記事しか書かないというなんとも特殊な部活動だ。誰と誰が彼氏彼女になったかはもとより、別れたことまでも取り上げられる。
その校内新聞がどうしたかを彼が教えてくれた。
「そう! その新聞に諒清と川田さんのことが書いてあったぜ」
「え?」
「いや……え? じゃないだろ」
彼はそんなに驚くことでもないだろ、という風に僕の驚いた時の表情を真似る。目を見開き、口を開いた、間抜け面だ。
彼は大げさにものまねをするところがあるからね。僕はそんな間抜け面はしてません。なんて抗議してもよかったが、新聞に載せられていることに驚いてそれどころではない。
「まさか僕が校内新聞に載る日が来るなんて思わなかったよ」
「なに言ってんだよ。学園一の美少女と呼ばれている川田さんに告白されたんだぞ。むしろ取り上げない方がどうかしてるぜ」
「そういうもんかな?」
僕は人の色恋沙汰を取り上げたい新聞部の気持ちが理解できずにいた。
そういえば、川田さんの元カレも新聞に取り上げられていたことを思い出す。彼は川田さんと付き合っている、という事実を自慢していた。ああいう人は好きではない人とも付き合えるんだろうな、と僕は思う。
そんなことを考えながら彼――
鋭い眼光が僕の体を刺してくる。物理的にはなにもされてないのに痛みを感じる錯覚を覚えた。まるで彼にとって僕は害虫であるようで怖い。実際に彼がそう思っているかはわからない。ただ、僕のことを見ているだけと言われればそう見えなくもない。
僕が今付き合っている彼女の元カレであることから勝手に恐怖を覚えているだけなのだろう。
彼女に未練があるのかもしれないが、どんな別れ方をしたのか僕は知らない。
この恐怖が僕の勘違いであることを心から願う。
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