陰キャな僕は学園一の美少女に告白される。だけど意中の女子がいるため、断ろうとしたら返事を間違えてしまった。

越山明佳

第1話 立石諒清は真面目に勉強する。親友に邪魔されようと関係ない。

「なんだ? 勉強してるのか?」

「まーね」


 英語の授業前の休み時間に僕――立石たていし諒清りょうせいは、中学からの親友でクラスメイト――国友くにとも盛快しげやすに話しかけられた。


 授業開始直後に行われる英単語テストに向けて、僕は勉学に励む。


「別に成績に反映されないんだからやる必要ないだろうに」

「いいだろ別に。僕の勝手でしょ」


 盛快は僕が勉強するのを邪魔してくる。


 彼が言う通り、これから行われるテストは成績に反映されない。それは担当の英語教諭が話していたことだから間違いないだろう。ではどうして、そんなテストをするのかというと、勉強する習慣をつけさせるためだ。


 テストでなにが出るのかわからないとそもそもとして試験勉強する気が起きなかったり、たとえ勉強したとしても、勉強したことが試験に出てこなかったら、やる気を削ぐことになってしまう。


 そこで、教師はまずは、生徒のやる気を出させようとしてきている。


 授業の終わりに次のテストで出題する英単語を10個を発表し、次の授業の時にはその英単語10個をまるまるそのまま出題する。勉強する人、しない人、いれど皆、次の授業で試験に臨む。


 試験ともなれば解けなかったときに多少なりとも悔しさが込み上げてくる。そんな理由から面倒であるだろうにもかかわらず、毎回、英単語のテストをする。


 そんなことを先生は言っていた。


 ただ、その効果は薄いようで、教室を見渡してみても、ちゃんと勉強しているのは片手で数えられる程度だ。ほとんどの人は成績に反映されないような試験の勉強なんてしない。


 にもかかわらず、僕が勉強する側だ。なぜやるのかと聞かれれば……


「試験なんだからちゃんと勉強するように」


 ……ということを毎回、先生は言ってくれちゃっている。そう言われてしまうと僕は勉強しないわけにはいかない。そう。僕は……


 ……真面目な性格をしている。


 宿題を出されれば期限までに終わらせ、試験があればそれに向けて勉強する。


 持ち物は前日にカバンに仕舞っておくし、ハンカチやティッシュは常に持ち歩いている。


 そんな真面目な僕が告白の返事を間違えて、苦悩することになるなんて、このときは思いもしなかった。


 キーンコーンカーンコーン


「授業を始めます。みなさん、席に着いてください」


 チャイムが鳴ると同時に英語担当教諭が教室に入って来て、授業が開始される。


 盛快が邪魔してきたおかげでテスト前の追い込みに集中できなかった。




 ――放課後、外は土砂降りだ。


 僕は図書室から雨が窓を叩くのを望む。


 天気予報ではどうだったかは知らないが、結構な大降りだ。


 僕は雨宿りの暇つぶしで図書室に来ているわけではない。


 では、なぜ図書室に来ているかというと、僕は文芸部に所属している。次に読む本を選ぶためにやって来た。


 文芸部に部室がないわけではないが、図書室があるのだからという理由から本を置かせてもらえない。


 部室に置いてあるのはほとんどが部誌、もしくは部員の私物だ。だから、僕はこうして図書室に来て、本を借りに来る。


 僕が好きな本はアニメ調のかわいい女の子が表紙を色どり、漫画のように非現実なストーリー展開を繰り広げる。いわゆるライトノベルだ。


 難しい言葉や堅い文体を使っている読み物はどうも肌に合わない。読めないというわけではないが、どこか物足りなさを感じてしまう。それは挿絵がないことが大きいだろう。


 ただ、ライトノベルはそんなことはない。平易な文章に、かわいらしいイラスト、物足りなさを感じず読み切ることができる。だからこそ重宝している。


 そういった理由からというわけではないが、僕が書く作品は内容的にどうもライトノベルに寄ってしまう。


 僕が所属している文芸部では、年に一度の文化祭で部誌に自身で書いた小説を掲載している。その作品にもし、イラストが付いていればなんて思うことがあるが、部内にイラストを描ける人がいないため、断念せざるを得ない。


 当然のようにライトノベルが並ぶ棚に足を運んでこれから読む本を選ぶ。


 ファンタジーがいいか、ラブコメがいいか、SFがいいか……特にジャンルにこだわりはないが、読むからには面白い作品が読みたい。図書委員が書いた紹介文を基に選ぶ。


 紹介文を読んで、しばらく立ち読みをしてを繰り返す。すると、図書室に親友の盛快がやって来た。


「よう。諒清。部活はどうした?」


 盛快は陽気な口調で僕に話しかけてきた。


 彼とは中学時代に同じサッカー部だったことがある。たまたま同じ高校に進学して、クラスが同じになったことから今も関係が続いている。


「これも部活だよ」

「これが部活? それはどういうことだ?」

「部室にある本はそんなにたくさんないからね。こうやって図書室に借りに来ているのさ」

「なるほど……つまりは暇潰しということか」

「いや……別に暇潰しというわけじゃ……というか、盛快こそどうしたの? 部活は?」


 盛快の言うことはあながち間違いではない。ただ、それを認めるのはどうもに落ちないところがあり、話を逸らす。


 彼は中学に引き続き高校でも、サッカー部に所属している。普段なら部活が終了する時間ではないはずだ。


「今日は雨だからな……グラウンドが使えないもんで、休みになった」


 しょんぼりと項垂うなだれて話す盛快。僕はその姿を見つつ、今日の放課後の天候について思い出す。


 帰りのホームルーム終了時点で雨は降っておらず、しばらく経ってから急に大雨になっていた。


「今日は突然の土砂降りだったし、仕方ないね。でも他の部員はどうしたの?」

「オレが部室の鍵を閉めている間に帰ったよ」

「盛快は帰らないの?」

「それはあれか? 暗にオレのことが邪魔だとでも言いたいのか?」

「別にそういう訳じゃないよ。ただ図書室に来るなんて珍しいからどうしたのか気になっただけで」

「まぁ、確かにオレは図書室とは縁遠い存在だな」

「でしょ~」

「ただ、オレが普段から本を読まないような学のないやつだと思われているようでなんかムカつく」

「いや、そうは言ってないでしょ」

「いいや、言った。お前の顔にそう書いてある」


 どうやら盛快には僕が思っていることがバレているようだった。


 それにしても盛快はなぜ図書室に来たのだろうか。


「それじゃなにか本を借りるの?」

「それはどうかな」

「本当に何しに来たの?」


 どうも彼との会話に要領を得ない。


 そこで僕は進めなくてもいい話を進めるためにどうして図書室に来たのか尋ねた。すると……。


「……雨が……オレの行く手を阻む……」


 どこか神妙な面持ちで図書室から覗く窓を眺める。そのなんとも意味深な雰囲気とセリフに流されそうになるも、僕は彼のノリに乗ってはやらなかった。


「つまりは傘を忘れた。と、そういうことか」

「…………」


 図星を突かれたことを沈黙で返してくる。その沈黙はどんな言葉よりも正直だった。


「確かにそうだけどよ。このなんか深い意味がありそうな暗い雰囲気を醸し出している友達にそれってどうなんだよ」

「知らん。僕は早く本を読みたい」

「友情より学を取るってのかよ」

「まぁ、友情で飯が食えるんなら考えなくもない」

「たかる気か⁉」


 僕たちが何気ない会話で盛り上がる。会話にひとしきり着いたところで、不穏な空気に気づく。


 なにやら周囲からの視線が痛い。


 カウンターにいる図書委員であろう子からは咳払いが聞こえる。そういえば、ここが図書室であることを思い出して、僕は黙ることにした。


 そんな僕に気づかず会話を続けようとしてくる盛快に、シーっと人差し指を立て黙らせる。


 突如として優等生ぶろうとする僕が気に食わないのか、彼から静かにしようとする気配を感じられない。彼の手は僕の脇の下に手を伸ばし、くすぐろうとしてくる。


 彼の手から逃れようと距離を取るも彼はどういう訳かついてくる。それならそれで僕に考えがある。このまま図書室を出よう。そうすればこの不穏な空気から逃れることができる。カウンターの子も咳払いする必要がなくなる。


 案の定、彼は僕についてきて、そのまま図書室をあとにした。執拗しつようについてくる彼を放っては置けない。そこで僕は彼と共に2年B組の教室へと向かった。

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