第9話 告白されたら嬉しいけど、時と場合による
僕は好きな人としか付き合わない。
ところで、付き合うというのはどういうことか。
知ってるとは思うがおさらいしておこう。付き合うとは男女が彼氏彼女の関係になって日々イチャコラすることだ。会える時に会い。手を握ったり、唇を重ねあったり、仲が進展すると言語では表現できないことだってする。
春にはぽかぽか陽気の中で花見をする。夏はお祭り、海、山、プール。秋には紅葉の中を散歩したり、スポーツに勤しむ。冬には寒いことをいいことにあんなことこんなことをしてしまう。時期に関係なく、映画や勉強、遊園地や水族館……。
とにもかくにも、いろんなことを一緒に過ごして酸いも甘いも分ちあう関係だ。
そんな付き合うという関係は好きな人とだからこそ、意味がある。
好きではない相手と付き合ったところでそれらはなんら意味を持たない。とはいっても、世の中には好きでなくても付き合うという人がいるのは事実だ。
僕の妹、莉雫は言っていた。『好きな相手でなくても付き合える』と……。
なにを言う!
好きでもない相手と付き合えるわけがない。
好きという気持ちなしに付き合おうだなんて相手に失礼だとは思わないのか。そんな話をしていたら、『そんなんだから彼女の一人もできないんでしょ!』と言い当てられてしまった。
だが、なにを言われようと僕の考えは曲がらない。好きな人としか付き合わない。
そして僕の親友、
別に好きではないが、仲がいい子に告白して彼女を獲得した。
このチャラ男め!
好きでもない子に告白するとはどういうことだ。僕には彼の気持ちが理解できない。そんなにも彼女が欲しいのか。彼女ができるのなら誰でもいいのか。
そんな親友の誘惑に僕は屈しない。
好きではない人とは付き合わない!
そんな僕に一通の手紙が来た。朝早くに学校へ向かうと下駄箱に入っていたのだ。その手紙の内容は……
『お昼休み校舎裏に来てください。お話があります。』
なにかの間違いだとさえ思った。
――なんと!
その手紙をくれたのは学園一の美少女と呼ばれている
校内で付き合いたい子ランキングを付けたら堂々と1位に君臨することだろう。僕は付き合いたいとは思わないけど、彼女のことが好きではないからね。そんな子から僕はラブレターを貰ったのだ。
ほんの1カ月前に別の男と付き合っていたらしいが、別れたと盛快から聞いた。今は付き合ってる相手はいないはずだ。
盛快はイタズラだろうと言っていたが、手紙の感じからしてほぼ確実に告白されると僕は、確信していた。
告白の返事は決まっている。僕はその子のことが好きではない。学園一の美少女と付き合える機会なのにもったいないと考える人がいるだろう。
だが僕は、好きでもない人と付き合うなんて失礼なことはしない。そんなことして陰口を言われるのは、怖い。
臆病な僕の気持ちに反して、盛快は妙な行動をしてくれた。
それは川田さんが僕にラブレターを渡したという事実を広めて人を集めるということだ。どうやら、盛快は僕宛てのラブレターを誰かのイタズラだと思ったらしく、その結果—―
――普段なら人気の少ないはずのお昼休み校舎裏には多くの人が集まっていた。
ただそれは、堂々としたものではなく、陰でこっそりと潜む形となっている。事前に人を集めると盛快が話していたことを知っている僕は、考えることなく、それを察知した。
だが、これから僕に告白してくるであろう彼女――川田愛澄華は知らないだろう。
目の前にいる彼女は堂々としている。
もしかしたら、こういうのに慣れているのか、緊張しすぎて周りが見えていないのか、僕のことが好きすぎて僕しか視界に入らないのか。……最後のはさすがにないか。
だが、陰で潜んでいる人たちを気にしている様子は一切ない。
イタズラではなさそうだ。告白に相応しいであろう緊張感が場を支配している。アニメや漫画の世界のしか知らないけど。
彼女が大きく深呼吸する。豊満な胸に細く華奢な手をあて、鼻で息を吸って、口から吐く。
では! いきます!
なんて心の声が聞こえてきそうだ。その姿から川田さんも緊張しているんだと理解した。
頬を赤らめて射貫くようなまっすぐな眼差しを僕の瞳に送ってくる。そんな緊張しなくても、そんな意気込まなくても、僕の答えは変わらない。
ごめん。好きな人がいるから付き合えないだ。
実際、好きな人はいる。同じクラスに。部活も一緒だ。今日の放課後に思い切って告白する。今日の朝早くに下駄箱へラブレターを入れて準備をした。
これで川田さんと付き合うことを表明したら、僕はとんだ嘘つきだ。
彼女が話し出すまでの間が妙に長く感じる。野次馬が多く、告白というシチュエーションだということから、僕は緊張している。彼女もそうだろう。
早くしてほしい。答えは決まっているのだから。
僕は盛快や莉雫とは違う。好きな相手としか付き合わない。
ただ、盛快や莉雫なら告白されたらなんて答えるんだろう? 承諾するんだとしたらなんだろうな?
僕もいつか告白を承諾することがあるかもしれない。盛快が言う通り、付き合ってから「私のこと好き?」と聞かれて返答する日が来るかもしれない。
僕の思い人――
場に漂う緊張感に堪えきれなくなった僕は、この場から逃れるかのように脳内で考え巡らせていく。
考えていくうちに感覚はまるで、家の自室で告白返答の練習しているかのような錯覚を覚える。
できる限りわかりやすくストレートに答えてあげた方がいいよな。
そうだな~。え~っと。
よし! これがいい。これでいこう。
そうして、僕が告白返答に相応しい言葉を考え付くのと、川田さんの告白のタイミングが重なった。
「好きです! 私と付き合ってください!」
「うん。僕も好きだよ!」
「「わー」」
ん? なにが起きた?
「お前、好きな相手じゃないと付き合わないんじゃなかったのかよ」
「まさか、立石くんも川田さんのことが好きだったってこと?」
「好きな人いるのにはいるって言ってたもんなぁ~」
野次馬からの歓声が巻き起こった。僕はなにが起きたのか一瞬だけ理解できなかった。
そうだ! 言おう!
今のは間違いだって。考え事をしてたら準備していた答えではないことを言ってしまった。と、そうすれば解決だ。
なにも問題はない。そうだろ? そうだと言ってくれ!
「これからよろしくね!
頬を赤らめて嬉しそうに微笑む彼女――
「……こちらこそよろしく……」
言えるわけがなかった。こんなところで間違えたなんて言ったら僕の体がどうなるかわからない。
なんていったって、彼女は学園一の美少女なのだから、秘かに思いを寄せている人だっているはずだ。元カレの野村くんにだってどう思われるかわからない。
彼女の心が傷つき、僕は袋叩きにされて体をぼろ雑巾のようにされるのは目に見えている。
もうあとには引けない。
不本意ながらも、こうして僕は好きではない学園一の美少女――川田愛澄華と付き合うことになってしまった。
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