滅びゆく王国

21.【王国SIDE】エリーゼ、責任回避に知恵を振り絞る

 リステン辺境伯での悪夢のようなモンスターの襲撃から1時間。私――エリーゼは、ずいぶんと人数が減ってしまった近衛隊を引き連れ、トボトボと王都に帰っていた。


(この国は、これからどうなってしまうんだろう……)


 リステン辺境伯は、あろうことか詐欺師に対して忠誠を誓っていた。国の防衛を担っていた伯爵家の離反は大きい。それに加えて――破れた結界から現れたモンスターの群れのおぞましい姿。

 思い返すだけでも、体の震えが止まらなかった。


(こんな筈ではなかったのに……)


 国の遺産を食いつぶす、いにしえの時代からのガンを国から追い出したつもりだった。結界を守護する私は、聖女として華々しく活躍して地位を確固たるものにする――思い描いていた、そんな輝かしい未来。

 しかし実際には、沈黙が支配する惨めすぎる帰路についている。


(とんでもないことをしてしまったのでは……?)


 胸にわずかに飛来する"嫌な予感"には、見て見ぬふりをする。

 そんなモヤっとした不安よりも、これからのことを考える方が大事だ。人の失態を喜ぶ敵は大勢いる。今回の"事故"について、徹底的に追求してくることは容易に想像できた。


(どう誤魔化すものか……)


 結局、私は責任回避の方法を全力で考えるのだった。




◆◇◆◇◆


 城にたどり着いた私を待っていたのは、弟のアレクであった。

 王位を巡って争う者同士。結界師をクビにしたタイミングで、たまたま結界に綻びが生まれたのだ。それを、私の失態として追及したくて仕方がないのだろう。


「これはこれは、姉上。よくぞ、無事にお戻りになりました。お疲れのところ申し訳ありませんが、各地の結界の綻びについて関係各所が説明を求めています」

「……視察を終えて疲れてるの。後にして頂戴?」


 結界の綻びが各地で見つかるという国の一大事。それにも関わらず、アレクは笑みを隠そうともしなかった。アレクにとっては、国の危機も己の立場を押し上げるための追い風でしかないのだろう。もっとも立場が逆なら、私も同じことを思っただろうけど。



「戻り次第すぐに連行せよ、との父からの命令です」

「……承知しました。このまま向かいます」


 有無を言わさぬ口調だった。


(『連行』って、人を罪人みたいに)


 まんまと弟の思惑通りに動いてしまった形になる。結界の綻びから始まるモンスター襲撃の報告に焦り、手柄を上げようと先走ったのは事実だ。

 手柄を焦って独断でエリーゼ近衛隊を動かし、戦地では無様に逃げ惑い――近衛隊に大きな被害を出した。


 考えられる中でも、最悪とも言える大失態であった。



(うまく立ち回れば――どうとでもできる……)


 内心の動揺を押し隠すように、私はアレクの後を堂々とした足取りで追いかける。


 結界が破られた絶望的な光景を、実際に目にしたのは私だけだった。この国が置かれた状況を、誰よりも正確に理解していたはずなのに。私の頭の中には「どう責任を回避するか」という思考しか、存在していなかったのだ。


 ――故に、王国の崩壊を止められる者は、もはやどこにも存在しなかった。

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