え、宮廷【結界師】として国を守ってきたのにお払い箱ですか!? 〜結界が破られ国が崩壊しそうだから戻って来いと言われても『今さらもう遅い』エルフの王女様に溺愛されてスローライフが最高に楽しいので〜

アトハ

追放された宮廷結界師

1. 俺をクビにすると言っているが、国を滅ぼしたいのだろうか

 ある日のこと。

 国のお抱え結界師として働く俺――リットは、国王に呼び出され謁見の間をおとずれていた。


「聞こえないのか?

 貴様はクビだと言ったのだよ」

「はあ、クビですか」


 国王じきじきに告げられたクビ宣告。

 ようやく長年の役割から解放されるのか、と俺はなんの感慨もなくそう答えた。


 結界師とは、国を守護するための結界を維持する職人のことだ。モンスターの侵入を防ぐ国の守りのかなめとも言える重要な役割である。しかしこの国の王族は、結界のありがたみをすっかり忘れ去ってしまったようだ。

 この国での結界師への待遇は、すこぶる悪かった。



「ま、まさか師匠をクビにするなんて!?

 師匠ほどの腕を持つ結界師の代わりなんて、世界中を探してもいませんよ!」


 そう言うのは、俺の弟子のアリーシャ。ショートボブの青髪が特徴的な、可愛らしい少女だ。

 俺の腕前を聞きつけて、はるばる隣国から弟子入りを志願した――少々パワフルな少女だ。このまま俺のもとで腕を磨けば、将来的には凄腕の結界師に成長することだろう。

 


「ものわかりが悪いわね。

 『結界師』なんて職業自体が、もはや不要だと言ってるのよ!」


 国王の隣でふんぞりかえる王女様が、そんな答えをよこした。


(な、なにを言ってるんだこいつ。

 国を滅ぼすつもりか?)


 勝ち誇ったように笑う王女の名はエリーゼ。燃えるような赤髪のツインテールをかきあげ、自信満々の様子だった。結界師を不要と言い切る豪胆さには、いっそ敬意を表したい。それとも無知なだけか?



「結界師が不要だと言い切ったな。

 この国の戦力だけで、襲い来るモンスターすべてに対処できるのか?」

「これから国を出るあなたに心配してもらう必要はないわ。

 結界師なんてうさんくさい人に、力を借りる必要はないと判断しただけよ!」


 どうやらクビ宣告は、エリーゼが国王に意見して実現されたらしい。


 エリーゼには、何かにつけて目の敵にされていたからな。このアホは、結界の薄い危険な場所であってもホイホイ入り込む。何度も引き止めてきたが、それで不興を買ってしまったのだろうか。


(まあどうでも良いことだな)



「結界師がうさんくさいとは、何たる侮辱ですか!」


 いきどおるアリーシャ。


「ここに集まった人は、みんな同じ判断なのか?」


 あたりを見渡すも、誰もエリーゼの発言に異を唱えない。



(結界のメンテナンスの大切さについては、常日頃から忠告したのにな……)


 結界は、何もしないで効果を発揮し続ける便利な物ではない。効果を維持するためには、定期的に魔力を注ぐなどのメンテナンスが必要で、それこそが結界師の役割である。



「悪いことは言わない、考え直した方がよいと思うぞ?」

「聞いて驚け、この詐欺師が。

 エリーゼ様が、ついに聖女の力に目覚めたのだ!」


 クビ宣告されて焦る(ように見える)俺をあざけるように、宰相がそう答えた。肥え太った体をたぷんたぷんと揺らしながら、楽しそうに笑っている。

 


「これからは聖女の私が、国を守護するわ!」


 エリーゼが得意そうに胸を張った。



「せ、聖女の力だと?」


 ポカンとした。


「そうよ、残念だったわね!

 私が聖女になった今、結界師なんてお祓い箱。あなたは追放よ、追放!」


 ドヤ顔のエリーゼは、俺を指差して楽しそうにそう笑った。



(聖女の力と結界師に――いったいなんの因果関係があるんだ?)


 『聖女』というのは、優れた光魔法の使い手に与えられる称号のようなものだ。結界術には何の関係もない。根本的に、役割がまったく違うのだ。


 そんなことも知らず、エリーゼは高笑いしていた――人生楽しそうで何よりだ。

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