5. 追放、それは輝かしい日々の始まり

「リット様、どうか頭を上げてください」

「そうやで、遠慮なんかいらへん。

 いつも頼ってばかりで心苦しかったんや。ウチらに任しとき!」


 なんとも、心強い。

 こうもあっさりと受け入れられると、不安になるな。


「俺に力を貸しても、おまえたちには何のメリットもないぞ。ほんとうに良いのか?」


「ときどき様子を見に来て、結界の整備をすると約束してくれた。それだけで、頼みを聞くには十分だよ」


 獣人族のリーシアがそう言えば、


「ウチらの種族は、あんたのおかげで滅びを免れたんや。それなのに頼みを断るなんて、恥知らずも良いとこや」


 ドワーフの少女――エマも、目をキラキラさせてそんなことを言う。

 それはあまりに大袈裟だ。片手間でモンスターを倒して結界を見繕っただけなのに。

 でも、そういうことなら遠慮なく――



「この国の結界は、じきに破られ――モンスターの群れに襲われることになる。

 そうなる前に、この国の国民をそれぞれ受け入れてやって欲しいんだ。バカな王族の判断の巻き添えになるなんて、あんまりだからさ」


 もっとも、俺の話を信じた国民は多くはない。詐欺師の言い分なぞ聞く必要がない、とバカにするような声も多かったしな。それでも、俺とアリーシャの言葉を聞いてくれた数少ない者ぐらいは守り抜きたいと思ったのだ。



「ちょっと待ちなさい。

 なにウチの国から人を連れて行こうとしてるのよ。聞いてないわよ!?」

「言ってないからな」


 復活したエリーゼが、何か言っている。


「いきなり人が流出したら、ウチの国に何か問題があったみたいじゃない。メンツ丸つぶれよ、断じて許すわけにはいかないわ!」


 いやいや、知らんがな。命の方が大事だ。


「より住みやすい場所で暮らすのは、この国で暮らす人間の当然の権利。この国の法律でも、きっちりと定められているはずだが?」

「うっさい! どうせあんたが騙したんでしょう、復讐のつもり?」


 何故、そうなる……。


「師匠、まともに取り合うだけ時間の無駄です。

 こんなところには、もう用もありません。すぐに出発しましょう」


 たしかに話すだけ不毛だ。それにこれ以上、ティファニアたちに、この国の情けないところを見せるわけにもいかないしな。



「待ちなさい! まだ、話は終わってないわよ?」

「俺はしがないフリーの結界師だ。これ以上、王女様の時間を奪うわけにはいかないさ。

 ――元・お抱えの結界師として、最後の忠告だ。国を滅ぼした愚かな王族として歴史に名を残したくなければ、すぐにでも結界師を雇うことだな」


 俺だって国が滅ぶところなんて見たくない。心の底からの忠告だったが、


「ふん、忠告どうも。

 この国には、聖女の私がいる。無益なアドバイスね」


 エリーゼは鼻を鳴らすだけだった。本当に、後でどうなっても知らないからな?



 そうして俺は国を出る。

 俺を慕う一番弟子、エルフの王族、獣人族の族長、ドワーフの少女と共に。

 国に縛られる窮屈な日々は終わり、輝かしい日々が始まろうとしていた。

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