第十三話 雲間に舞い踊るパンツ
ドロシーは脱衣所に佇み、強い達成感に酔いしれていた。その両手には二枚のパンツ。いずれもサンダーバードの素材が使われたフィルの物だ。持ち主であるフィルは、扉一枚を挟んだ向こう側で入浴中である。
今回の仕事で得られたパンツは二枚であったため、どのように楽しむのがベストかドロシーは熟考した。本来ならば真に脱ぎたてといえる状態である入浴前が理想であったが、二枚同時に楽しみたいという思いも強かった。しかし、パンツは二枚同時に穿くことは出来ない。
ドロシーは午後のフィルのダンスレッスンの後、汗をかいただろうと理由を付けてフィルを一度着替えさせ、一枚目のパンツを確保した。その後、夜の入浴時となる現在、二枚目のパンツを確保したのだ。
最初の一枚を確保した時点で味わいたい思いを堪えるのは大変であったが、ドロシーは二枚同時を優先することにしたのだ。
こうして二枚のパンツを手中に収めたドロシーは、今まさに褒美の時間を享受しようとしていた。すり替え用の複製パンツは洗濯籠に仕込み済み。あとは楽しむだけである。
ドロシーは万感の思いと共に、二枚のパンツを鼻を押しつけ、鼻腔いっぱいに空気を吸い込んだ。
脳髄が泡立つかと思うほどの高揚感と共に、ドロシーの意識は空へと急速に上ってゆく。遙か高みに見えるは、雷を孕んだ黒雲。恐ろしくもあるが、同時に大いなる命の鼓動も感じる場所だ。極上の神秘が隠されているに違いなかった。
ドロシーは荒れ狂う雲へと飛び込んだ。周囲で激しい雷が迸り、その度に強烈な快楽が全身を電流として走り回った。その時、輝く雷光に混ざって、白い影が視界の端を通り過ぎた。それは風になびくスカートの裾。
「姫さま!」
荒れ狂う雲間に踊るフィルに追いすがり、ドロシーはその腰に抱きついた。
「ああ、姫さま! 姫さま!」
暴風に捲れ上がったスカートの奥には、力強い稲光を思わせるラインがデザインされた一枚のパンツ。ドロシーは涙を流しながら、そこに頬ずりした。危険に身を投じた者のみが味わえる幸福。ドロシーは感覚を研ぎ澄まして、全力でそれを浴びた。
やがて二人は雷雲を抜け、フィルはドロシーと離れて青空へと先んじて飛び出した。
「お待ちください、姫さま!」
清々しい青空。先ほどまでとは打って変わって柔らかな風が流れる平穏の空。いたずらっぽく風に舞うフィルが、楽しげな笑い声と共に飛んで行く。ドロシーも風と共にそれを追った。
「追いつきましたよ!」
「きゃあ! 捕まっちゃったぁ」
再びドロシーはフィルの腰に抱きついた。空を満たす清流のような風に、フィルのスカートが再び捲れ上がる。そこにあるのは青空のパンツ。本物の空にも負けない青さと、優しく白い雲が描かれた逸品。高みに至ったドロシーを、パンツは優しく抱き留めた。
「姫さま、姫さま……」
気づけば、ドロシーは一人脱衣所で涙を流しながら二枚のパンツに頬ずりしていた。大いなる空の至福は、未だ全身を包んで止まない。
お姫さまの脱ぎたてパンツが欲しくて、欲しくて、がまんできない! 加藤 航 @kato_ko01
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