第三章 誇り高き新緑のパンツ
第一話 キラキラお星さまにおねがい!
「ねえ、ドロシー。今日はちょっと夜更かししてもいい?」
「夜更かしですか」
フィルがそう切り出したのは就寝前、ドロシーによる絵本の読みきかせが終わった後のことだった。
昼間に教わったことを思い出しながら、フィルは説明を続けた。
「あのね、天文学の先生が教えてくれたの。今日は流星群の日なんだって。流星群っていうのは、流れ星がたくさん降ることを言うの」
「なるほど。流星群が見たいのですね」
ドロシーは顎に手を当てて思案し始めた。やっぱりダメだろうか。先生によれば、流星群が見られるのは午前零時頃からとのことだった。フィルはいつも二十一時には眠るので、随分と夜更かししてしまうことになる。
「ねえ、だめ?」
フィルは上目遣いに両手を組んで懇願する。何故だか分からないが、こうするとドロシーへのお願いが通りやすくなることをフィルは経験的に知っていた。
「……仕方がありません。国王陛下には内緒ですからね」
「ほんと? やったあ! ぜったい内緒ね!」
フィルが喜んでドロシーに抱き着くと、ドロシーは「困った姫さまですね」と言いながら頭を撫でてくれた。理解あるメイドが傍にいて、フィルは本当に自分は幸せ者だと思った。
*
今宵の流星群は全天に降り注ぐとされているものだ。フィルの私室には大きなテラスが付いているが、せっかくなので全方位を見渡せる見晴らしの良い場所へ移動するべきである。
ドロシーはフィルを連れて王城で最も高い塔へと登った。
深夜となると城下町の灯りも随分と落ち着いていて、流星群の観測には適していそうだ。
「ねえドロシー、これはなあに?」
フィルが指したのは床面に置かれた土嚢である。
「先ほど大急ぎで用意したものです。今から支度をしますからね」
ドロシーはそう言うと、土嚢へ向けて杖を振った。
ドロシーの精霊魔法を受け、土嚢から土があふれ出してグングンと盛り上がり始める。やがて塔の胸壁よりも高く盛り上がった土は、階段付きの昇降台となった。
フィルの背丈では壁に阻まれて全天を存分に望めなかった。そのための配慮である。
「これで見やすくなったでしょう」
「すごい! ドロシー、ありがとう!」
「足元に気を付けて上ってくださいね」
ドロシーは杖先に灯りをつけると、階段を駆けあがるフィルの足元を照らした。と、同時に揺らめくスカートの中へと目をやる。
ドロシーの目に、フィルが入浴後に穿いたばかりのパンツが映った。清楚な白地に散りばめられている可愛らしい星柄だ。星の大きさや色は様々で、まるで今宵の美しい夜空を写し取ったかのよう。
夜の天が宇宙の神秘を隠しているように、フィルのパンツもその内に魅惑的な秘密を隠しているのだ。ドロシーはスカート裏の星空へと思いを馳せた。
「お星さま、よく見えるよ」
「ええ。ここからもよく見えますよ」
パンツのお星さまが。
やがて、最初の流星が闇夜を横切る。続けて、ぽつりぽつりと星が落ちてきた。今夜の流星群は大当たりだ。
「きれい……」
フィルは両手を組んでお祈りのようなポーズをとっていた。流れ星に何事かお願いしているのだろうか。ドロシーは、フィルの邪魔にならないよう、静かにパンツを鑑賞し続けた。
星降る夜空の下、祈りを捧げるフィルは、まるで神話に登場する聖女のようである。そして、その聖なる祈りの下で清らかなる綿パンツの星々を仰ぐ。これはまさに奇跡を目の当たりにするといっても過言ではない。ドロシーにとって、これはまさしく至高の体験なのであった。
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